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第51話 再び

 俺は城郭の正門広場に来ていた。正門は城郭都市アガルテの玄関口である。街道から出入りする者は、必ずここを通ることになっている。その正門から入った直ぐは大きな広場となっており、数多くのキャラバン隊や旅人で溢れかえっていた。人が集まる広場には、それを目当てにした露店も多く開かれている。


「意外と賑わってるんだな。来るときに通ったときは気づかなかったな。」


 正門広場には、多くのキャラバン隊がいた。アガルテに着いた者、これからアガルテを発つ者。

 俺は、これからアガルテを出立しようと準備をしているキャラバン隊を選んで声をかけまくった。


「ソリスの里には行く予定はありますか?」


「ソリスの里? いかねぇなぁ。」


「そうですか。ありがとうございます。」


 広場にいるだいたいのキャラバン隊には声をかけた。しかし、目に見える成果はあがらなかった。やっぱりリナの言う通り、ソリスの里に行く便なんてそうそう有るわけないよな。

 広場の隅っこに座り込みながら独り考えていたら、なにやら言い争うような声が聞こえてきた。


「だから無理って言ってんだろうが、おまえさんもしつこいな!」


「金なら払う! 頼む! この通りだ!」


「頼まれても困るんだよなぁ。」


 何か何処かで聞いたことがある声だな。俺は恐る恐る声がする方を見てみる。

 やっぱりか。そこには見たことがある顔がいた。金髪にすらっとしたスレンダーボディーと長い脚、露出の多い軽量鎧、腰には立派な剣、そして立派なFカップ。昨日の可憐美少女だ。

 関わらない方が良さそうだな、そう思ってその場を立ち去ろうとすると、何を思ったのかその可憐美少女がこちらの方に歩いてきた。


「そこの!」


 周りをキョロキョロするが、俺以外周りに人はいない。


「俺? かな?」

 何の地雷を踏んだのかな? フラグも立ててなかったと思うのだが?


「そう。おまえだ。ちょっと聞くが、ソリスの里に行く予定はないか?」


「へ? 俺? ですか? あ、あぁ。ソリスに行く予定だが?」

 余りにも唐突に言われたので、思わず()()()()()を言ってしまった。


「本当か! やっと見つけた。よかった。あきらめなければ何とかなるもんだな。いやあ、先生が言ってた通りだ。そなた、私を一緒にソリスまで連れて行ってはくれないか?」


「あぁ? あ〜。それは無理です。」


「なぜだ! 其方もソリスの里に行くのだろう。ついでに私も乗せて行ってくれたら良いだけじゃないか。」


「俺には馬がないがそれでも良いか?」


「なに? 馬がないのか! それで一体どうやってソリスの里に行くんだ?」


「いやいや。あんたには言われたくないなぁ。」


「それは、確かにそうだが……。」


「っていうか、何で俺に声かけてきたんだ?」


「いや。手当たり次第に声をかけてただけだ。たまたまだ。」


「なんだ。覚えてたわけじゃないのか。」


「なんだ?」


「いえ、こっちの事です。じゃ、俺はこれで。」


「ちょっと待て! おまえ馬もなしにどうするんだ?」


「それは、あなたには関係ないことでしょ。」


「なにか(つて)でもあるんじゃないのか?」


「言う必要は無いと思いますよ。じゃぁ。」

 俺は、右手をシュタッと挙げるとその場を離れた。後ろから「おい!」とか「待て!」とか聞こえてたけど気にしない。気にしたら負けだ。だぶん。


 いやいやいや。しかし、可憐なのは容姿だけじゃん。やっぱ性格に問題ありそうだな。それにしても、ギャップ凄すぎるよなあれ。ギャップ萌って次元超えてるけど。

 でも、ソリスの里に行くって言ってたな。あんまし関わらないようにしたいな。



 俺は再び要塞城の前に立っていた。


「結局ここしかないのか。」

 あれから色々捜してみたけど、どうやってもソリスまで行く手立ては見つけられなかった。レンタルとかも考えたけど金額的に現実的ではなかった。向こうに何日いるかも決めてないしな。

 そして、俺は、最後の手段としてジェームズに相談することにしたのだ。


「本当はここには戻ってきたくはなかったんだけどな。」

 そう呟きながら、要塞城の門に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。


「ヒデオ殿ではないか。ちょうど良かった。」

 そこにはナイスなタイミングでジェームズがいた。


「あぁ、ジェームズさん。情けないことにソリスに行く手段がなくてですね。ん?……ちょうど良かった?」


「あぁ、それだよ。実はそのことで銀の匙(シルバー・スプーン)に行ってみたんだが、貴殿はもう出た後と言われてな。入れ違いになってしまったと思っていた所なんだ。」


「俺に?」


「あぁ、ソリスに行くには馬が必要だろう? 馬の準備ができたから引き渡そうと思ってな。」


「え〜! マジっすか。」


「あぁ、本当だ。馬は既に用意が出来ている。良ければ使ってくれ。」


「良ければなんて、是非! 是非! お願いします。あ、でも俺、馬を買うだけのお金なんて持ってないですよ。」


「あぁ、これは報償だと思ってくれれば良いよ。ゴブリン退治のね。なんでもゴブリンロードがいたんだって? すごいじゃないか。流石は勇者殿だな。」


「いやぁ。それほどでもあるかな。それにしても、助かります。ありがとうございます!」


「気にするな。これは、ゴブリン退治の正当な報酬だ。こっちはゴブリンロードの魔石も手に入ったしな。それに、礼なら公爵様に言ってくれ。ヒデオ殿に馬を届けるようにとおっしゃってくださったのは公爵様だからな。」


「え〜? あの公爵が?」


「意外か?」


「えぇ、まぁ。」


「あぁ見えても公爵様は、義には厚い人だよ。だから、みんなついて行く。ま、あの性格だから好き嫌いはあるけどな。俺もそんなに得意じゃないしな。ハハハハハ。」


 いや。笑ってるけどそれ言って良いの? 不敬罪じゃないのか?

 でも、もらい損ねた報酬も貰えそうで何よりだ。それにしても、時機到来とは、まさにこのことだな。都合良く馬も手に入れられたし、これで何とかソリスの里に向かうことが出来そうだ。恥を忍んで来た甲斐が有ったというものだ。


 『案ずるより産むがやすし』昔の人は良いことを言ったもんだな。


 公爵の意外な行動に戸惑いながらも、ほっと胸をなで下ろすヒデオであった。

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