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第49話 可憐な少女

 入り口では露出度の高い鎧を着た可憐美少女と小太りの男が、まだ睨み合っている。


 それにしても、あの鎧は役に立つのか? 俺がそんなことを思いながら、2人を眺めていると。ボガードが席を立って、入り口へ歩み寄っていく。

 おぉ! 流石は冒険者、困った女の子がいたら見捨てておけないんだな。俺が感心しながら見ていると、


「ザック。どうした?」


「おぉ! ボガードか。いやな。この女が急に俺の腕を捻ってきたんだよ。」

 おいおい。そっちかよ。ボガードはどうやら、もめている男と知り合いだったようだ。助けに行ったのは女の子じゃなくって男の方だった。


「お嬢ちゃん。ここは、あんたが来るような所じゃないよ。家に帰ってママのおっぱいでも吸っていな。」

 いやぁ。まさに雑魚い子分が吐く台詞を言うボガード。人の良さそうなヤツだったのにな。


「何を言ってるんだ。先にちょっかい出してきたのはこのブタ野郎の方だ。」

 可憐少女が、ブタ野郎を指さしながら言う。あらら、顔に似合わず随分な物言いをする()だな。


「なにを! 誰がブタ野郎だよ! 大人しくしていりゃつけ上がりやがって、この(あま)!」

 いかんいかん。この先の展開が見え見えではないか。あんまり関わらないようにしよっと。俺は、そう思いながらちょっとぬるくなったエールを口に運ぶ。


「おい! やめとけ!」

 ひときわ大きな声に振り向くと、事もあろうかザックと呼ばれていた小太りの男が剣を抜いて構えていた。


「ちょっと! お客さん! 喧嘩なら外でやってよね!」

 店の娘がすごい剣幕でまくし立てる。


「女子供は下がっときな!」

 ザックはそう言うと、店の娘を突き飛ばす。


「きゃっ!」

 彼女はよろよろとよろめきながら俺の方へと倒れ込んできた。俺は彼女を抱き留めて声をかける。


「大丈夫か?」


「あ、お客さん。お客さん確か団長様の知り合いだよね。あいつら何とかしてよ。」


「何とかって言われてもなぁ。」

 俺が右手で頭をくしゃくしゃと掻いていると、店が更にざわめき立った。

 見てみると、可憐美少女も剣を抜いていた。おいおいおい。マジかよ。血の気多すぎるんじゃないの? それにしてもなんだか立派な剣だなあの子の剣。そんなことを考えながら、俺は流石に剣はまずいだろうと思い席を立つ。


「しょうがないなぁ。代わりに冷えたエールでもサービスしてくれよ。」

 俺は、そう店の娘にいうと入り口に向かって歩く。


「大丈夫か?」

 可憐美少女に声をかける。


「おう。さっきの兄ちゃんか。加勢は入らねえぜ。」

 何を勘違いしているのかボガードが俺にそう言う。


「何を勘違いしているのかは知らないが、あんたたちを助ける気はさらさらないけどな。痛い思いしたくなかったら、ここから出て行った方が良いと思うよ。」


「なに言ってんだ? てめぇ! 外野はすっこんでな!」

 そう、テンプレ過ぎる台詞を吐きながらブタ野郎が俺に斬りかかる。マジで斬りかかってくるのかよ。


「きゃー!」


 悲鳴は店の娘のものだったろうか。しかし、俺は気にせず、ザックが振り下ろした剣を持つ手首を右手で掴むと、半身になりながら右後ろに回転させて地面に叩きつける。叩きつけられた拍子に手放した剣を遠くに蹴り飛ばす。殺さない程度の手加減はしてある。


「おい! こら! てめぇ何しやがるんだよ。」


 今度はボガードが俺に素手で殴りかかってきた。俺はボガードが殴りかかってきた肘の下を掴み、斜め上に引きあげると、懐に踏み込みむ。体を沈めながら、右手でボガードの腕を挟み込み背負い上げるとその反動を使って投げつける。柔道の一本背負いだ。柔道は学校の授業でも習ったからね。

 もちろん手加減してはいるが、それなりのダメージは受けているだろう。


 俺に投げられた2人は、暫くうめいていた後、よろよろと立ち上がる。首をふりながら何が起こったのかを一瞬考えていた彼らだが、


「くそっ! てめえ、覚えていろよ!」

 と、これまたテンプレの捨て台詞を吐きながら店を走って出て行った。


「あ〜! お客さん! 御勘定〜!!」

 店の娘の声が木霊する。


「大丈夫だったか?」

 俺はさりげなく、それでいて紳士の礼節を持って可憐美少女にそう言った。


「ふん。 余計なことを。 あれくらいどうとでもなったのに。」


「ん? 空耳が聞こえたのかな?」

 何か予想してた反応とは違うのだが? 戸惑いを隠せないでいた俺をそのままに、可憐美少女は店から出て行ってしまった。あれ? 行っちゃうの?


「お客さん! ありがとう!」


「おー! 兄ちゃん見かけによらず強えな!」


「一体何モンなんだいあんた。」


「さっき使った術はなんなんだ? 魔法か?」


「あれ?」


「このお客さんはね。ジェームズ団長のお知り合いなんだよ!」


「おー! アルファー騎士団団長様の知り合いか〜!」


「道理で強え〜はずだ!」


「おう! こっち来て一杯飲めよ。奢るぜ。」


「あれ?」

 ここは、「助けて頂いてありがとうございます♡」とか言いながら抱きつかれるシーンじゃないのかな。思ってた展開と違うぞ? 

 でもまぁ、店が無事だったから良いか。


 それからというもの、店にいた冒険者たちと盛り上がり、飲めや歌えの大宴会へと発展してしまった。

 それにしてもあの娘かわいかったよな。ちょっと性格に問題ありそうだけど。


「おう! にーちゃんもっと飲めよ。」


「エマちゃん! こっちに新しいエール持ってきて! キンキンに冷えたヤツね!」


「こっちは、ワイルドボアの串焼き3つね!」


「じゃぁ、こっちは奮発してオーク肉の串焼き5つだ!」


「もう! 注文するのは良いけどちゃんとお金払ってよ。ツケは効かないからね。」


「え〜! 勘弁してよエマちゃん。」


「ハハハハハハハハハハ……」


 そっか、この()の名前はエマちゃんって言うんだ。覚えとこ。


 それにしても、どこへ行っても静かには過ごさせてくれないんだな。

 俺は、この一週間の出来事に思いを馳せながら、思いがけなく賑やかになったアガルテ最後の夜を楽しむのであった。

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