第12話 勇者の証
「長老様!」
シルビアが満面の笑みを浮かべながらそう呼ぶ。
長老と呼ばれた声の主は、白髪の老婆であった。
彼女の名はルチア・アヴィア。ソリスの里の長老である。小柄な老婆は木の杖を手に持ち、穏やかな笑みを浮かべていた。
「シルビアよ。よくぞ勇者殿を連れて参ったな。」
「長老様! では、やはりこの方は!」
「うむ。おぬしが思うとる通り、このお人は勇者殿で間違いないであろうな。」
「やっぱり。」
そう俯きながらつぶやいたシルビアの頬には、ぽっと赤みがさすのが見て取れた。
その会話を聞き、ヒデオは少し安堵のため息をつく。
「長老様。なぜ長老様はヒデオ様が勇者であると思われるのですか?」
シルビアが長老に尋ねる。
「『東方の龍が啼き渡る時 勇ましき者 天空より降りし白き輝きと共に降り立つ』
正に 古の伝承と同じよの。」
したり顔で、長老が言う。
「しかし、婆様よ。召喚されたからと行って勇者とは限らぬやもしれんぞ。」
マールスは、未だ半信半疑の面もちを隠すことなく問いかける。
「常に蒼龍オルトゥス様のご加護の下にある、ここレア・シルウィアの森に、そうそう容易く召喚なぞできはせんよ。
もし、それができるとすればそれこそ神の御業、神による勇者召喚ぐらいのものだろうて。」
長老の言葉に確信を得たかのように、したり顔で頷くシルビア。
しかし、ふと何かに気づいたかのような表情で尋ねる。
「あの……長老様? その……、『勇者の証』とはなんなのですか?」
「あ、それ俺も知りたい。」
これまで、沈黙を保っていたヒデオも声を上げる。
「うむ。そうじゃのぅ。
儂も先達から聞き及んだことでしか解らぬが、召喚されたばかりの勇者は、基本的な能力はあるが勇者特有の力は具えてはおらんらしい。
なんでも、遥か古に召喚された勇者が人間に害をなし、魔王となったことがあったらしくてのぅ。
それ以来、召喚の後暫くして人間の益になると神が判断された時に、はじめて勇者としての力が顕現するようになったそうじゃ。」
「ヒデオ様? どうされました?」
何故かヒデオがキョロキョロと辺りを見回している。
ヒデオはシルビアを見て一瞬口を開きかけたが、またもキョロキョロと辺りを見回す。
と思うと天井を見上げるような視線のまま、固まり沈黙してしまった。
「勇者様?……ヒデオ様?」
シルビアが恐る恐る声をかけた……
しかし、声をかけられたヒデオは未だ固まったまま微動だにしない。
心配したシルビアが傍により、手を伸ばそうとしたその時
ヒデオがいきなり叫んだ。
「それ絶対忘れてたろ!!」
驚いたシルビアが目をぱちくりとしながらヒデオをガン見する。
と突然、目映いばかりの光にヒデオが包まれはじめた。
シルビアをはじめ、ヒデオ以外の者はただ呆然とその様子を見守るほかなかった。
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