第30話 日常
フェーニ達が出立した日は、たまたまなのか、気が乗らないのか、暗黙の了解なのか、ルージュを始め二人とも鍛錬は休んだ。
サリアは、打合せ、と称して妖精の所に、小走りで白髪をなびかせながら遊びに行った。
ファルタリアは、庭先で椅子に座り、バトルアックスと鎧を丹念に手入れを始めている。
コーマは、居間で果物を食べた後、お勤めで消えて行った。
で、俺とルージュは、台所で並んで料理の下準備を仕込んでいる最中だ。
ルージュは、手早く一口サイズに切った肉に、香辛料を振りまき、揉み込んでいる。
「ラサキさん、このくらいでどうでしょうか」
「うん、いいね。ん? 塩は入れたかな?」
「あ、いけない、忘れました。すみません」
「謝る事なんて無いよ、気にするな。俺も昔はよく忘れていたよ。鍛錬と同様に、何事も経験だからね」
「はい、努力します」
塩を振り、肉を揉み込む。今日の料理は、味を染み込ませた焼肉、一口ステーキと言った方がいいか、あと野菜サラダだ。
メインはルージュに任せてあるけど、大食い、がいるから仕込む量も大量だ。大変だけど、楽しそうなルージュだった。
「フェーニとミケリには悪い事したけど、今ボク、ラサキさんの隣で料理を作れる幸せを感じています」
「前にも言ったけど、各自、好きなことしていいんだ。束縛も無いしね」
「い、いえ、これで十分満足です。あ! ち、違います」
「わかった、わかった。その先はわかったから言わないでいいよ。それより料理の仕込みをしないとね」
「え? あ、はい」
フゥ、嫁になりたい話が始まらなくて良かったよ。
そして仕込みが終わり、後は味が染み込むように寝かせておく。一息入れようと、飲み物を持ち台所から出て、居間の椅子に座るとルージュが、オドオドと立っている。
「ルージュもこっちに来て座りなよ」
パァッ、と嬉しそうな笑顔で隣に座り、寄り添うように腕にくっ付いて来た。そこまで言っていないけど、嬉しそうにしているから、ま、いいか。
そうだ、丁度いいからルージュの魔法に付いて聞いてみようか。
「ルージュ、聞いていいかな」
「はい、ボクで答えられることなら何でも話します」
「いや、畏まった話じゃないよ。気楽に答えてほしいな」
「はい」
ルージュが初めて魔法を使った時は、詠唱して集中し、魔力をすべて吐き出した莫大な攻撃魔法を放った。
その後、サリアに指導してもらって、今では無詠唱で攻防が出来るまでになった。何か変わった方法でもあるのか。
「はい、サリアさんに教えていただいた魔法理論は、全ての魔法も詠唱では無くイメージで行える、と言う事です」
ルージュ曰く。ギナレスの町で教わった基本中の基本魔法は、当初、何となく理解した。俺がギナレスの町を出立するまでは、サリアと基礎を鍛錬した。
その後は約束通り、魔法を封印をして一切使用しなかった。そして、レムルの森に来てからは、本格的に鍛錬が始まった。
サリアの教えは、的確だけど理解するのに時間がかかった。
すると、サリアが基本の基礎を教えてもらった時のように、自分の肩に手を掛けてもらい、サリアの意志が伝わり、コツと言うか言い表せないイメージを覚えた。
コツさえわかれば、無詠唱の魔法は簡単だった。
ただ、戦闘中など突発的に、素早く一瞬でイメージを強くするのに、攻撃魔法や防御魔法の掛け声を発するのが癖になってしまった。
ある種、サリアの攻撃魔法も同じだと言う。
なるほど、理解するには複雑だけど、魔力量が膨大にあれば理解できるのかな。
もしかしたら、俺にも使えるかも、と聞いては見たけど、やっぱり無理だから、魔法はルージュとサリアに任せておけばいいや。
適材適所って言葉もあったような気がするし。
そんな俺を、じっ、と見て、何やら考えがありそうなルージュ。
「ラサキさん、庭に出ませんか?」
「ああ、いいよ」
庭先の椅子に二人並んで座る。今度はくっ付いていない。姿勢の正しく、綺麗な体型のルージュ。タユンタユンしている部分は、勿論見ていない、決して。
「これからラサキさんにお見せする攻撃魔法は、サリアさん直伝です。コツとか、要領とか、感じとか、ボクは言い表せないので説明できませんが、何かを感じ取ってもらえたら、と思います。横で見てください」
そう言いながら、座ったまま攻撃魔法を見せると言う。
手を前にかざした瞬間、フンッ、と一息入れると同時に、白く光る綺麗な魔方陣が展開され、刹那1本のアイスランスが飛び出し、その先に生えている、抱える程太い木に突き刺さった。
その様子を、ファルタリアも向こう側で手入れをしながら見ている。
「これが、ごく普通のアイスランスです」
そう言って、また手を前にかざし、フンッ、と一息同じように入れた瞬間に、さっきとは違う、銀色に光る魔方陣が現れ、さっきより大きく鋭いアイスランスが飛び出した。
その威力は格段に違い、桁外れな轟音と共に十数本の大木が突き破られ、木端微塵になった。
あ、向こうにいたファルタリアが、全くの無防備で構えていなかったからか、バトルアックスを持ちながら爆風で椅子から転げ落ち、足を広げてひっくり返っている。
ま、頑丈だから大丈夫だろう。
しかし凄すぎるな、どういう声を掛けようかと思ったら、冷静なルージュ。
「次です」
また手をかざしたら、今度は青白く光る魔方陣が展開され、細く短い氷の矢が数千本、風圧と共に、前方の広範囲に射出された。
大木は残ったものの、辺り一面の小さい木々や草が粉々になっている。
三回の魔法を放っても、少しの疲れも見せない冷静なルージュ。
「今の三回程度の魔法であれば、一日撃ち続けられます。あ、一応、街道に出る手前に、防御魔法を掛けてありますから安心です」
「いやー、ルージュは進化したよ。サリア直伝も良く分かった。でもな」
「え? でも?」
「レムルの森の中にある家だけど、最後の一撃で、街道から丸見えになったよ」
遠巻きだけど、街道を歩く冒険者や商人が、驚愕の表情でこっちを見ているのが確認できた。
事態を飲み込めたルージュ。
「あ、あー、すみません。良かれと思って好き勝手に魔法を披露した挙句、ラサキさんの負担になってしまうなんて……う、うぅ」
調子に乗った自分に泣き出した。号泣しているルージュに一言。
「ルージュの気持ちは知っているからいいよ、気にするな」
「うぇ、えっ、で、でも……」
そこに、サリアが森の奥から小走りで帰って来た。泣いているルージュを見る。
「どうしたかや? ラサキの慰み者になったかや? アハハー。キャン」
思わず拳を落としたよ、軽くね。両手で頭を押さえたサリア。
「冗談がや、ううぅ。強力な魔力を感じたから、心配になって戻って来たがや」
サリアとリズレアーナさん率いる妖精たちが飛んで来てくれた。
俺の肩に乗るリズレアーナさん。他の妖精達は、サリアの回りを飛んでいる。
「まだ大木が残っていますね。これ位なら、問題なく修復します。ご安心ください」
「迷惑かけて悪いけど、お願いします」
「そこで私、いえ、私達から提案とお願いがあります」
リズレアーナさん曰く、木々や植物を早く育て修復するには、大量の妖力が必要になる。妖精達も、妖力が枯渇したら死んでしまうので、取り込む媒体が必要。
「なので今夜はラサキさんにここに居てほしいのです」
「俺で良ければ力になるけど、何をすればいいのかな」
笑顔で答えるリズレアーナさん。
「はい、妖力を取り込む媒体です」
食事を終えその夜、みんなは風呂に入って御就寝。ルージュは、責任感が強く、一緒にいる、と言ってたけど、やんわり断った。
一息ついて俺は庭の椅子に座る。飛び回っていた妖精たちが、順番に俺の前まで来て口づけをする。
おお、何か。体の中の何かが持って行かれる感じがする。少しして妖力が満たされたのかまた飛んで行く。
その繰り返しだった。
結果、一晩で木々が生え街道が見えなくなるまでになった。まだ細く小ぶりだけど、さすが妖精の力だね
。何故だか住処に帰る直前に、手伝ってくれた妖精たちが嬉しそうに口づけして帰って行った。ま、お礼としておこう。
それでもすごい成長だな。
翌日からは、サリアとルージュは鍛錬を開始した。
フェーニ達がいなくなったファルタリアは、サリア達に同行して、合間に魔法攻撃に対応する鍛錬を開始した。
なあ、もういいんじゃないのか?
そして、フェーニたちがヴェルデル王国について間もなく、戦争が開戦される。
これで第二幕が閉幕となります。
また次のプロットをまとめてから始めますので、お待ちいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。




