第28話 強さ 2
フェーニ達に向き直す。
「それにしても、フェーニとミケリは凄いよ。何処に出ても誰にも負けない強さを身に着けたな」
俺の言葉に納得していない二人。
「え? そうですか? ファルタリアさんに二人がかりで手合せしても、余裕で躱されるし、それに、ファルタリアさんが言うには、ラサキさんは更に更に強い、との事なので実感が湧きません」
「まだまだニャ、最強じゃないニャー」
あーそうか。二人はファルタリアと俺を基準にしていたのか。
「いや、ま、何だな。俺とファルタリアを抜きにすれば世界最強だと思うよ」
反発する二人。
「百歩譲っても、サリアさんとルージュもいるし強い人はまだまだいます」
「もっともっと鍛錬ニャ」
「そこまでしなくても……」
「でもラサキさんに褒められたから嬉しいです」
「嬉しいニャ」
「あまり無理するんじゃないぞ。これは俺からの命令だ。ファルタリアも程々にな」
何故か背筋を伸ばし、敬礼するファルタリア。
「はい! 畏まりました!」
二人も合わせ、背筋を伸ばし敬礼する。
「はい!」
「畏まりましたニャ!」
休憩も終わり、また鍛錬を開始するので、この場で三人と別れ、俺はサリア達が鍛錬している広場に向かう。
何だかなぁ、嫁になる気満々だし。その前に、戦争に参加するって言ったよな。嫁になるなら止めるのだろうか。うーん。
――どうしてこうなった。
ファルタリア達のいる広場を後にして分かれ道まで戻り、サリアとルージュが鍛錬している右の道を進んだ。
緑の濃い木々の隙間から、何本もの日差しが差し込む小道。
広場に近くなると、見えて来た地面に一〇m程の穴? 五m程のクレーター? がこれでもか、と言うほどえぐられて、地面の一部には、煙も出ている、草木も生えない荒れ地になっていた。
すぐに何かが爆裂する音がした。魔女と魔法使いだし、魔法の攻防だよな、これもまた凄い事になっているのだろうか。
巻き込まれないように、覚悟して身を引き締め観覧しよう。
気配遮断を掛けて、静かに森から広場に顔を出しても、肝心の二人が居ない。
またすぐに爆裂音がしたので、音の根源である上を見た。
はい? 何だよ、二人共上空で戦っているし、普通に飛び回っているし、上位になれば飛行魔法もあるのか。
こちらも、何だかなぁ、になっている。俺も人の事は言えないかど、二人も人間止めているね、うん。
ここまでくると、世界最強はサリアとルージュか? しばらく見ていたけど、疲労も無く飛び回りながら魔法攻撃して防御して、防御したらすかさず魔法攻撃して……。
あ、更に隙をついて、素早く剣を抜き攻撃しているし。
これは俺でも勝てないよ、届かないしさ。
しかし凄い攻防だな。魔方陣が大安売りのように幾重にも展開している。花火のように綺麗だけど、これを毎日鍛錬していたのか。
俺の考えと次元が数段階違った。
更によく見ていたら、さすが師匠のサリア。指導しているだけあってルージュより格段の差があった。
「違うがや! そこはもっと速くがや!」
「はい!」
「だからその手を避けるがや、もっと速く動いてすぐに攻撃するがや!」
「くぅーっ、はい!」
ふーん、サリアも可愛い顔に似合わずスパルタだな。それにルージュも良く付いて行っている。頑張れよ。
俺の気配遮断は、ファルタリアだけじゃなくサリアにも効かないようだ。
俺に気づいたサリア。だがしかし、先に声を掛けて来たのはルージュだった。
「あ、ラサキさーん。見に来ていたのですね」
おいおい、ルージュにも効かないのか、何て魔力だよ、人外の域に達すると、俺のスキルは効かないのか? 参ったな。
「休憩するがや」
上空から降りてくる二人。
着地したルージュは、一目散に駆け寄り、両腕を俺の腕に絡めてきた。相変わらずの、ドドーンだよ。
そのドドーンが目の前にある上に、力強く押しつけているから巨大な柔らかい二つが変形している。
その上ルージュは、綺麗な紫の髪を揺らして、頭を肩にグリグリさせて嬉しそうにしているから、もう片方の手で大雑把に撫でたら、顔を真っ赤にして喜んでいた。
その一方サリアは、冷めた眼で俺を見ている。
嫉妬とか、悔しがるとか、羨ましいとか、の反応では無く、その眼線は俺の腕で変形している巨大な二つのドドーンだった。
頑張れよサリア、俺は応援している。けど、サリアはサリアだ。嫁なんだから気にするな。
あー、涙眼になって胸に両手をあてて必死に、ワシワシさせているし。
今更仕方ないだろ、以前言っていたじゃないか、徐々に大きくなるってさ。
サリアの行動に居たたまれなくなってきた。勿論表情には出していないけど……。
――気持ちを切り替えよう。
「凄い鍛錬だな。サリアの指導も厳しいみたいだし、それに、二人とも飛べるとはね」
褒めたら一遍、サリアの表情がドヤ顔になり仁王立ちになる。
「当たり前がや。あたいが指導しているがや」
腕に絡みついているルージュが離れ、俺を上眼使いで見てくる。
「サリアさんの指導で、ボクも向上しています。鍛錬は厳しいですけど、尊敬しています」
「そうかやそうかや。アハハー」
「サリアの指導がいいのだろうね。二人共、飛行しながら戦えるって、これじゃ地上最強だろ」
急に肩を落とし、両手を軽く上げ溜息をつくサリア。
「ハァァ、違うがや。飛行魔法は魔力量をダダ漏れで使うから、頻繁に使用できないがや。戦闘には不向きがや。鍛錬の時だけだから、魔力量を増やすのに使っているがや」
ルージュも肯定する。
「サリアさんの言うとおりでした」
ルージュ曰く。サリアは樹海の魔女たる力を発揮して、半日なら飛行しながら魔法攻撃や防御が出来る。
自分は同じ事を、一時間ほど使うだけで魔力量が枯渇する。枯渇する直前まで魔力を使い続け、サリアの見極めで休みをとる。
鍛錬を始めた時は、すぐに魔力は戻らなかったが、毎日毎日繰り返していくうちに、一日で戻り、更に毎回着実に魔力量が増えている。
魔力が枯渇すれば、意識が無くなり魔力は増えない。枯渇寸前になっても、体力には関係なく、疲労は多少あるけど、生活には全く問題ない。
なので鍛錬が終わって家に帰っても、少しの疲労があるだけなので魔力に関しては周囲にはわからない。
「ただこれは、魔力量の多いルージュだけがや。普通は無理がや。死ぬ事もあるがや。この世の中に、数分飛べる奴は何人もいないがや」
サリアもルージュに付き合う事で、自身の魔力が枯渇する事は無いが、魔力量の消費を激しく使用するので、自分の鍛錬にもなって、今では半時ほどで魔力が戻るまでになった。
ふーん、魔力って鍛錬で増えるんだ、一つ勉強になった。
だがしかし、枯渇する手前まで鍛錬するなんて、サリアに直接指導してもらわないと出来ない芸当だな。
厳しい指導だけど、ルージュもサリアに食いついて向上している。
――偉いな。
そんなルージュが俺を、じっと見ている。




