第27話 強さ
朝、眼が覚める。今日も天気がよく、陽気のいい朝。
両脇から、しっかり絡みついて寝ているフェーニとミケリ。悪くはない、うん、悪くはないけど、いいのかな。
いいのだろう、素直に喜ぼう、肌の艶々したスタイルのいいエルフと、細身で毛並みの良いキャットピープル。
これはこれで気持ちがいいものだ。
察知したのか、目を覚ますミケリ。
「おはようございますニャ」
「おはよう、よく眠れたかな?」
「はい、気持ちが良かったですニャ。匂いもいいですニャ」
あ、余程うれしかったのか、尻尾が振られて、ベッドにバンバン当たっているし。
その振動でフェーニも目を覚ました。
「あ、ラサキさん、おはようございます」
「おはよう、フェーニ」
「エヘヘ、気持ちがいいですね」
二人共すぐには起き上がらず、しばらくは、絡まってくっ付いているまま離してくれなかった。
そして、後ろ髪をひかれる思いで起き上がったような二人。
俺も一緒に起きて、朝食を作る準備に取り掛かる。
今日は、戦争に参加する決心をしたフェーニとミケリ。そして、参加はしないけど、ルージュの日ごろの鍛錬を見学しようと、一緒に広場に向かった。
俺は手合せをしない予定だけど、フェーニ達がどれだけ進歩したのか、どれだけ強くなったのか、どれだけ凄くなったのか楽しみにしていた。
先日コーマが言っていた三人の力量は、過大表現がなかった場合、どれ程強くなったのだろうか。
いつもなら、腕を組んで来るファルタリアとサリアは、師匠の威厳なのか、胸を張り悠然と先頭を歩いている。
その代り、フェーニ、ミケリ、ルージュが順番に腕を組んで来たよ。事前に順番を決めていたのか、喧嘩もせず、三人とも満面の笑顔で嬉しそうだった。
これくらいで喜んでくれるのなら何よりだ。
途中、畑の様子を見たかったので、みんなとは一度別れ、一人で畑を見に行く。
見計ったように、今度はコーマが嬉しそうに現れ腕を組んで来た。
「ウフフ、今度は私。ウフフ」
「あ、コーマ、お帰り」
畑が見えてきたら、妖精たちが俺達に気がついたのか、森の奥からレズリアーナさんを先頭にして飛んで来る。
「ラサキさーん、こんにちはー」
「ああ、いつも楽しそうだね」
「はい、この森はとてもいい森になっています。豊かな森に住めるのは、とてもいい事です」
「それは良かった。今後も好きにしてよ、楽しんでもらえたら何よりだ」
「はい、ありがとう。ラサキさんの畑も良く育っていますよ」
レズリアーナさんと話しを聞きながら歩き、畑に着いた。もはや畑と言うよりも、草で出来た森と言うか鬱蒼としているし。
高さも二m以上に育ち、沢山の野菜や果物が実り、豊作だった。本来貴重な妖精の果物も、たわわに実っていた。
毎日サリアに持って帰ってもらっているけど、これなら減る事も無いな。次回からは安心して量を多くしよう。
一通り眺めた後、妖精たちと別れた。
その間コーマは、珍しく静かに腕を組んで口を閉ざしていた。
「どうした? コーマ。いつもと違うけど」
「いいの。こうして幸せを堪能しているんだから」
「え? それだけ?」
「うん、それだけ。……ダメ?」
「いや、コーマが良ければいいよ」
女心とは難しいものだ。ファルタリアくらい単純なら……いや、それはそれで悩むな。
――やっぱりコーマか。
「ウフフ、ありがと」
「何だ、読んでいたのか」
「ちょっとね、何となくかな」
「構わないよ。俺にとってコーマは神だけど、愛しい嫁さんなんだからさ」
「ウフフ……ん」
レムルの森を進むと、道が左右の二股になっている。
両方が広場になっているけど、ファルタリア率いる組が右の広場、山と反対側の左に進む広場がサリアの組が専用に使用している。
まず、右に行って見ようか。
ファルタリア達が鍛錬している広場が見えてきたら、コーマは手を振って消えて行った。
「後でね」
さて、どんな鍛錬をしているのかな。
広場に出る手前から、静かに観戦しようとしたら、凄い光景を目の当たりにした。普通に見たので、三人ともぼやけた残像しか見えない。
戦闘モードでよく見れば、高速で二対一の手合せをしているのがわかる。
フェーニとミケリの凄まじい攻撃。いやはやこれは、向上と言うよりも、一線を越えて超越していないか?
一方、二人から繰り出される凄まじい攻撃を、指導しながら普通に受けているファルタリア。
――普通に? はぁ? 変じゃないか?
この凄まじさは、俺の知っているような冒険者レベルじゃないだろ。いや、ここまで上達? 進歩? 進化?していたとはね。
気配遮断をして森の中から見ているから、三人は俺に気が付いていない。
更に続いている鍛錬。余裕のファルタリアが受けながら話す。
「はい、いい感じですよ。そろそろ体が温まったのでいつものように」
「はい!」
「はいニャ!」
はい? あ、言葉を失った。俺には見えるし対応できるけど、この三人は何なんだ? 何者なんだ?
先ほど凄いと思っていた鍛錬が、ウォーミングアップだったとは。今までの動作が、幼稚に見えるくらいだった。
本気になったファルタリア、フェーニ、ミケリは、三人だけで魔人? 魔王でさえ凌駕するんじゃないのか? あれは人の領域を完全に逸脱している。
俺は黙って後づ去りして去ろうとしてけど、本気で戦っているから敏感になっているのだろう、察知するんだよな。
ファルタリアが、二人の攻撃を受けながら俺を見る。
ハァ――まだ余裕があるのか。
「あー、ラサキさん。見てました? はい、休憩しまーす」
手が止まり、剣とバトルアックスを納め、近寄ってくる。
「ラサキさん、フェーニとミケリはどうですか? 向上していますか?」
「フゥ、どうでしょうか、まだ足りませんか?」
「フゥ、まだまだかニャ?」
「いやいやいや、ここまで凄いと思わなかったよ。頑張ったね」
二人の頭を大雑把に撫でると、とても嬉しそうにはにかんでいる。
すると抱きついて来て、上眼使いで俺を見るフェーニ。
「で、では、そろそろお嫁さんにしていただけるのですね?」
話しを聞いてミケリも、綺麗な尻尾をブンブンしながら可愛い耳を、ピコピコ、させて飛び付いて来た。
「お嫁さんニャー」
「いやいやいや、ちょっと待て。強さと嫁は違うから、もう少し待ってくれ」
「ムゥー」
「ムゥー。ニャ」
「それに、戦争に行くんだろ? 嫁どころの騒ぎじゃないだろ」
「はい、確かにそうですね。お嫁さんの話になると、つい。エヘヘ」
「そうですニャー」
納得していないようだけど強引に流した、流しましたよ、はい。ファルタリアもご満悦のようだな。
「どうですか? 強くなりましたよ? いい筋していますよ? 戦争に行く前に早くお嫁にしては如何ですか?」
「黙れ、ファルタリア。一言多い。お勤めなしにするよ」
「ええぇ? 嫁の私にそんなに厳しくするなんて……やはり私にデレていますね? 更にスキスキになっていますね? 嬉しいです。エヘヘ」
大きな金色の尻尾を、左右に揺らして喜んでいるし。
あ、ファルタリアは読めない、ダメダメ、だったんだ、無視しよう。




