第25話 戦力
「大丈夫よ。私の見立てでは、ラサキの家族は王国や帝国、ましてや中立国よりも遥かに強いから。ウフフ」
「は、はい? 何だそれ」
「三大国と同時に戦っても勝てるわよ。それも簡単にね」
「コ、コーマ? 何を言っているんだ? おかしくなったか?」
「いたって冷静よ。事実を言っているだけだもの。ウフフ」
コーマ曰く、厳しい鍛錬を行った上に、ラサキに関わったから身体能力が格段に向上した。冒険者の格付けをするなら、当然最強であるSランクよりも上。
フェーニ、ミケリ、ルージュは三人で一個大隊を三隊同時と戦って、無傷で簡単に剥ぎ払うだろう。
ましてや嫁にしたら、さらに強くなる。
証として、ファルタリアはサリアの強力な魔法は避けられないが、人族や魔人レベルの魔法は無効化する能力が宿った。
さらに、バトルアックスを一日振り続けても疲れも息切れも無い。一人で一万人の兵隊は倒せるだろう。
サリアも嫁にした事で、最強だった魔女の魔法が格段に向上した。戦いの中でサリアに近づける者は、まずいない。
万が一近づいても、ファルタリアとの鍛錬で培った力で、剣技だけでもSランク数百人は倒せる。
――コーマの話を聞いて言葉を失った。
けど、気にしないコーマは話し続ける。
「だから、ラサキ達の一団は世界で最強なの。ウフフ。ついでだから言うけど、ラサキの強さは中立国にいた頃より数十倍強くなっているわ。ウフフ」
「ち、因みに俺の強さを計るとしたら、どれくらいかな」
「うーん、計れるものがないから良く分からないけど……ファルタリアとサリアが百人ずつ同時にラサキと戦って、何とか勝てるか対等かな」
コーマは美味しそうに葡萄酒を飲み、俺の肩にもたれ掛ったままだ。
しばしの沈黙――。
思い立った俺は意を決し、コーマに話す。
「それだけ強ければ王国に出向こうか。そして、参加しない事を話し、決裂すれば少し強さを見せつけてやればいいかな」
「それもいいわね。ラサキの好きにして。ウフフ」
何にしても、嬉しそうなコーマ。
コーマのお陰で俺達がどれだけ強くなったのか、にわかに信じがたいけど……事実なのだろう。
ま、これで戦争に参加しない、強い言い訳? が出来たな。
皆強くなったと思ったけど、これほどとは。ってことは、コーマが、サラッと言い流していたけど、フェーニ達を嫁にしたら……。
いや、よそう。何事も次期とタイミングだ。
色々考えているうちに、日も暮れて来た。
――気をとり直し料理を作ろうかな。
今晩の料理は猪のシチューだ。濃厚なタレを作ってじっくり煮込む。いつもと違うのは、肉が一口サイズではなく大きなステーキサイズで煮込んでいる。
いつもバクバク超速で食べるから、ナイフを使ってもう少しゆっくり食べてほしいと願っているんだ。
鍋も特大の寸胴でコトコト煮込んでみんなが帰って来る頃に完成した。
帰ってきて、全員手を洗い、皿に料理を乗せ各自の席に着くと、思い思いに食べ始める。
思った通りフェーニ達三人は、一口ずつに切ってゆっくり食べ、談笑している。そうそう、それだよ、いいね。
だがしかし、俺の思いを打ち砕くファルタリアとサリア。
横に置いてあるナイフには見向きもしないで、フォークで一刺して、大口を開けてデカい肉を放り込み食べるファルタリア。
対抗意識があるのか、サリアも負けず劣らずナイフとフォークで皿に抑え、食いちぎりながら三口で食べている。
お前達は馬鹿なのか? 馬鹿なのか? やっぱり馬鹿なのか? もしかしたら――とは思ったけど、嫁なんだからもしかしたら――といい方向に考えようと思った……けど……。
馬鹿だった。――自然に涙が出てきたよ。
コーマの話を聞いて数日が経つ。
昼を過ぎ、今は俺一人でキッチンに立ち、料理の仕込みをしている所だ。
最近何気なく気に入っている料理に没頭し、戦争の事も薄々忘れかけた所に、人が来る気配を感じた。
逃げられない招かれざる、ヴェルデル王国からの騎士なのか、戦士なのか分かりかねるが、装備している数人の使者が訪ねてきた。
玄関の外から、張りのある声が聞こえた。
「ヴェルデル王国からの使いで参った。ここに住む冒険者は、王国側の戦力として参戦されたい」
洗って濡れた手を、布で拭きとりながら表に出る。
「あのー、俺と俺の家族、仲間は参加しませんよ」
肯定されると思っていたのか、急に驚く使者。
「何だと? 拒否するのか? これは王国からの推薦による強制だ」
「んー、そう言われても参加しないのでお断りします。しかしまた、何でこんな辺鄙な場所まで、わざわざ出向いたのでしょうか。俺達は、たかが数人のしがない冒険者ですよ」
何を言っているんだ、と言うような表情になる使者。
「ここにおられる、レ、レムルの森にスミレ咲くバラが咲くユリが咲くラサキを慕う乙女団、の参加は絶対だ。必要なら拘束する」
はい? 今なんて言った? 何の名だ? こっぱずかしい名前だな。思わず穴があったら入りたいような気分で、固まってしまった。
――もしかして。
「その団のリーダーは、フェーニでしょうか」
「おおそうだ、フェーニ殿だ。世に知れ渡る最高の冒険者、レムルの森にスミレ咲くバラが咲くユリが咲くラサキを慕う乙女団、のリーダーである」
取り敢えず変な恥ずかしい名は置いといて、やっぱり有名だったのか。仕方がないな、一度出向こうか。
「なるほど確認しました、ではこうします。出立する準備を整えたら、一度王国に出向きましょう」
「おおそうか、では引き上げるとしよう」
踵を返し、一路レムルの森を降りて行く使者たちの姿が、見えなくなってから家に入る。
どうしたものかと思ったけど、ヴェルデル王国の実状を聞かなければ話しにならない。
「さて、シャルテンの町に行って見るか」
装備を身に着け家を出ると一呼吸する。
よし、と気合を入れ全力で走りシャルテンの町に向かう。先ほど来た使者たちは、俺の行くシャルテンの町とは反対方向に帰ったから会う事はない。
ま、全力疾走を視認できるか知らないけどさ、気にせず一気に走った。到着した頃は、まだ日も高い。
ギルドに出向き、入口からカウンターに向かいながらレニを呼ぶ。
「レニ、聞きたい事があるんだけど」
レニは、暇な時間なので誰もいない事をいい事に、入口と後ろ向きで座っておやつを頬張っていた。
突然で驚くレニは、動揺して変な返答をする。
「モグモグ、え? え? モグモグ、ゴ、ゴクン。わ、私は独身ですけど、え? ファルタリアさんとは仲良くやっていける自信はありますけど、で、でも。いえ、ラサキさんが宜しければ」
「レニ、何を言っているのかな。俺は、ヴェルデル王国の現状を聞きに来たんだよ」
何故か肩を落とすレニ。その時丁度? 物音がしたから? 隣の部屋に通じる扉越しで見ていたラニも、肩を落とし静かに扉が閉まった。
――何だ? 君達何だ? どうしたいんだ?
動揺を見せないようにしていたけど、俺が何か間違ったのか? すでにレニも普通を装っていたから気にするのはよそう。
「あー、えー、ごほん。ヴェルデル王国ですね。今王国は、多くの兵隊と、騎士、戦士、魔道士を始め、賞金がもらえる冒険者達が、続々と集結しています。嫌がる事無く、皆さんこぞって参加してます」
「なら、シャルテンの町が魔物に襲われたらどうするんだ?」
「あ、はい。ギルド内にもAランクの職員もいますし、ギルドで選んだ冒険者数組が待機する予定です」
「えー? なら俺達もここがいいな、それに入れてくれ」
「はい、私も一度検討したのですけど、残念ですがラサキさんご一行は、特にフェーニさん達のパーティを、王国からの招待があったので外しました。お力になれなくてすみません」
「そうなんだ。いいよ、仕方がないな。ありがとう、レニ」
笑顔で別れ、またレムルの家に一路全力で走る。フェーニ達は予想の遥か上を行く有名になっているんだな。
――家に着く頃は日も傾いていた。




