第22話 初対面
続いて後ろの三人も、挨拶して入って来る。一番に鼻を鳴らしたファルタリアが、匂いの出どころのテーブルを見る。
「ラサキさん、いい匂いがしますねー」
「お、美味しそうがやー」
「もう、お腹が減っています」
「いい匂いニャ」
「ボ、ボクも食欲が……」
みんなが、テーブルの上に盛って置いてある料理を、すぐにでも食べたそうに見ている。
待て待て。
「まず手を洗って来る事。洗ってきた順に食べな」
ファルタリアを先頭に、順番に手を洗ってきて、各自の席に座ると俺を見る。
「待っていないでいいよ、沢山食べな」
言うや否や、一斉に食べ始めた。何畏まっていたんだ? 珍しいな。
一気に一串食べて少し落ち着いたのか、今日の手合せやその後の鍛錬などで、談笑しながらいつもより楽しそうに賑やかに食べている。
仲間意識が一段と強くなってきたようだね、良い事だ。
俺はというと、晩酌用の料理を作っておいたので、外のテーブルに置いて、麦酒を一杯一気に飲み干した。
「プハーッ、美味い。――いいなぁ、こういう生活」
家の中から、食べながらファルタリアとサリアが鍛錬の方法で熱弁し、フェーニ、ミケリ、ルージュも思い思いの意見を言って、白熱している声が聞こえる。
俺は、彼女たちの邪魔にならないように酒を数本取りに行って、熱弁している彼女達を横目に見ながらまた外に戻る。
ついでに串焼きを、数本持って来たのでテーブルに乗せると、コーマが現れた。
「おかえり、コーマの分だよ、来ると思ったから持って来た」
「ウフフ、ありがと。私も読まれるようになったのかな。ウフフ」
「読める訳ないだろ。コーマの日頃の行動から考えたんだよ。来なければ俺が食べるさ。あ、葡萄酒も持って来たからどうぞ」
「さすがラサキ、好きよ」
横から透き通った銀髪をかき上げ、俺の頬に優しく唇を付け、横に座るコーマ。葡萄酒の入ったグラスを、おもむろに持ち俺を見る。
「ラサキ、乾杯」
「ああ、乾杯」
グラス同士を小突いた。静かなレムルの森に響く音色が美しく感じた。
星降るような輝きが綺麗な夜空を眺めて、他愛もない話しに笑い、酒をあおり食べる。至福のひと時だ。
……そして。
「そろそろ中に入るか?」
「そうね、入ろうかな」
一緒に中に入るコーマ。
居間では食事も終えて、果物を食べているみんながいたけど、ファルタリアとサリア以外の三人は、気配を察知して視線がこっちに向いた。
俺と言うよりコーマに。
一瞬の沈黙の後、フェーニが聞いて来る。
「え? え? どちら様ですか?」
「だ、誰かニャ?」
「き、綺麗な人ですけど……」
驚いている三人を余所に、ファルタリアとサリアは気にもしないで、まだ熱弁をしている。
おい、嫁なんだから空気読めよ、フォローしろよ全く。
俺は三人に、コーマの事を余計な事は言わず、現在に至るまで簡潔に説明をした。
そして、コーマとは三人と初めて会った時からずっと一緒にいた事も。
勿論第一の嫁としている事もね。
話しを聞いて素直に信じる三人。やはりちょろいのか? いいや、素直でとてもいい子達だのだと思う。
「神様ですかー」
「神ニャー」
「よろしくお願いします、神様」
「コーマでいいわ、よろしくね」
補足として、余計な関心は持たない事、気にしない事、他言無用を守る事を約束させ、承諾してもらった。
説明の中で、ファルタリアとサリアだけコーマとの関わり合いが、例外である事をやんわりと話した。
これで、大所帯の完成だ。
一段落して、居間ではファルタリアとサリア、そしてコーマが話をし、フェーニ達も三人で談笑していた。
俺はみんなが食べ終わった食器を片づけてから、酒の入ったグラスを持って居間に戻ると、俺を見るフェーニ達。
お? 俺と話がしたいのかな? グラスを持ったまま、フェーニ達の空いているテーブル席に座る。
「あ、あのー、ラサキさん」
「ん? なにかな? フェーニ」
何を話してくるのかわからないが、少し赤ら顔の三人が上目遣いになる。
「こういう事を言うのも何ですけど……」
「どうしたんだ? 遠慮しないでいいから」
どうしたのかな。待っている間にグラスに口を付ける。
「わ、私達はいつお嫁さんにしていただけるのでしょうか」
飲もうとしていた蒸留酒を吹き出す俺。
「ブハッ、あ、テーブルが、え? な、何を言っているのかな? フェーニくん」
「で、ですから、お嫁さんです。ラサキさん」
「私もニャ」
「ボ、ボクもです。早く……」
話半分に、テーブルの上を動揺しながら拭く。
「ま、待て待て待て。だからしばらく生活して、よく考えて、よく検討して、よく悩んでから結論を出すように、と、言っておいただろ。そのうちに、他にいい人が出来るかもしれないしな」
ファルタリア達は、フェーニが切り出した話声が聞こえたのか、自分の話を止め、隣から優しい笑顔をしたまま無言で見ている。
いや、観戦しているし。
――お前たちなぁ。
「それは絶対にありません。もう三人で決めていた事なので。それに、肉奴隷ではなくお嫁さんにしていただける、と言う事であれば、なおさらです」
「いいのか? 本当にいいのか? 後悔しても知らないよ? でもまだしばらく……」
「遅かれ早かれ、お嫁さんにしていただけるのでしたら、早い方かいいのかと」
「早い方がいいニャ」
「す、すぐにでもお願いします」
三人の眼に押され、挙動不審で眼が泳いでいる俺に対し、相変わらず微笑ましい笑顔で見ているサリア達三人。
ハァ? お前達も本当にいいのか?
「私はラサキに任せるわ。ウフフ」
俺を読んだコーマを察知したファルタリアとサリア。
「私も賛成ですよ、お勧めします」
「あたいも賛成がやー。アハハー」
第一嫁のコーマの許しが出た、と喜ぶ三人。
だけど、コーマやファルタリア、サリアとは一年以上も一緒に過ごして一喜一憂、喜怒哀楽を交わしたから決めたんだ。
だから、当初の約束通りもう少し待ってもらう事をお願いしたら、嫁にする事が決まったので安心したのか、何とか了承していただきました。
念には念を入れ、コーマとは干渉しない、会話をしても意見せず、入り込まない事を確約し、話し合いも終ったところで、フェーニ達三人が風呂に入った。
何だかホッとした俺。
そんな俺を見ていたファルタリアが、尖った耳を、ピコピコさせて嬉しそうに言う。
「ラサキさん、良かったですね。みんないい子ですよ」
「はぁ? 何言ってるんだ、本当にいいのか?」
「いいがや、楽しくなるがや」
「おいおい、気にしないのか?」
「ラサキの好きにして」
わかったよ、なら、あえてお前達の会話の中に飛び込もう。
「可愛がる順番も少なくなるけどいいのか?」
どうだ、これなら考えるだろ。




