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第20話 手合せ

「ありがとうな、俺のわがままに付き合う形になってしまってさ」

「ウフフ、いいのよ、これも私にとって初めての事だから楽しいわ」

「でも何で俺みたいな男がモテるのかね。これもコーマの力か?」

「それは違う。全てラサキの優しさよ。見えない、廻りから感じられない優しさ。女はそう言う本来の優しさに弱いのよ。ウフフ、これからもっと大変になりそうね、頑張ってね」


 コーマの言葉に絶句した。

 まだ嫁が増えるのか? いくらなんでも無理だろ。少しは嬉しいと思ったよ、思ったさ。三人とも可愛いし素直だし好みだしさ。でも……。

 俺も持たないし……お勤め……。

 あー、頼むから他のいい男を見つけてくれ、と切に願った。

 ――ん? 本当に願っているのか? 俺。

 そんな俺の気持ちも余所に、ファルタリア達が獲物を背負って帰って来た。

 一足先に帰って来たサリアが言うには、今回は鹿と猪を獲った場所で、血抜きの講習、練習、復習をしてきたらしい。

 その時の事を教えてくれた。

 ファルタリアたちが仕留めた猪と鹿を前に、三人に実演しながら教える。


「まず猪の血抜きは、首のここをこう切ってその下をこう切る。そして後ろ足を上に吊るす事。最後に足首より上をこう切って、三〇分くらいしたら血抜きの完成です」


 三人は、真剣に聞いていたとの事。

 鹿の血抜きも同様に教え、実演を見ながら納得していたらしい。

 嫁になったファルタリアはしっかりして来たのかな、うんうん、良い事だ、今後にも期待しよう。

 サリアはサリアで、畑とは別に、森で育っている野菜の見つけ方や、縄の編み方を教えた、との事。


 昼間は鍛錬で、ファルタリアはフェーニとミケリ。サリアはルージュを連れて別々に出かけた。これは俺が指示したんだ。

 フェーニとミケリはファルタリアと相性がいいし、ルージュは約束を守って魔法を使っていなかったようだから、今日からは魔法の鍛錬をするように言っておいた。

 フェーニ達には追々話をしようと思う。鍛錬の広場があるところまで進んで行く。

 レムルの山を挟んで、東に入って行くファルタリア達、サリア達は西に入って行った。後の事は二人に任せるよ、頑張れ。

 家にいる俺はというと、コーマがイチャこいて来るので楽しく相手をした。


 狩りに行ったり鍛錬したり、畑を耕したり、とすでに数週間が経っていた。

 毎日の鍛錬も苦も無くこなした三人。

 ファルタリア曰く、二人は順調に、今まで以上に強くなっている。ルージュを教えているサリアも同調する。

 なら、手合せしてみようかな、あ、ダメだ。フェーニとミケリには言っておかないと後々面倒だ。

 ファルタリアが二人を引き止めさせて、まずサリアがルージュを先に連れて、鍛錬に出て、いない時に話を切り出した。

 やはり驚く二人。


「ええぇ? ルージュは魔法も使えるのですか?」

「魔法使いニャ、知らなかったニャ」


 事の経緯を話し、ルージュには口外無用の約束をした事も話した。初めは驚いていたけど、後半は納得したのか頷いていた。


「ルージュも偉いですね。ラサキさんとの約束を守って、樹海でも一度も使っていなかったのですから」

「偉いニャ、凄いニャ」

「俺もルージュに変わって謝るよ、騙したようでゴメンな」


 恐縮する二人は否定する。

 フェーニ曰く、俺の言いつけを守ったルージュをむしろ称賛し、今まで通り仲間として受け入れる。

 ふぅ、良かった。てっきり二人は裏切り者とか誹謗中傷するのかと思ったけど違っていたね。


「関係ないですよ、ルージュは今まで通りルージュです」

「仲間にゃ」

「フェーニもミケリもありがとうな」


 二人の頭を大雑把に撫でたら、嬉しそうにはにかんでいた。

 魔法の事も話したし、手合せしてみようか。


 そう決まり段取りをしたけど、剣と魔法だから別々かな。それとも初めは樹海で戦闘していた三人の連携で試合するかな。

 今ではファルタリアも、二人の連携攻撃を受けている時、つい油断すると負けてしまうらしい。今の所、十数回行って二敗したんだとか。

 二回もファルタリアに勝てたのか。って事は、ルージュを加えたらもっと強いのか。

 いやはや、どうしたらそんなに強くなるのかな。三人とも自分に厳しく鍛錬したのだろうな。

 じゃ、決まりだ。

 まずファルタリアの鍛錬指導したフェーニとミケリ、次にサリアが教えた魔法剣士のルージュ。最後に三人が樹海で培った連携での手合せ。


「それでいいかな」

「「「はい」」」


 いつもの鍛錬の場所に移動して手合わせを始める。少し離れた場所から黙って観戦するファルタリアとサリア。

 フェーニとミケリを前に剣を構える。


「いつでもいいよ、本気で来るようにね」


 笑顔で二人に向けると、緊張しているようだ。


「い、いいのですか? ラサキさんが怪我をしたり私達が勝ってしまっては……」

「ハハハ、大丈夫だよ。そのつもりで全力でかかって来ていいよ。じゃないと力量が量れないからね」


 俺の言葉に意を決したフェーニは、ミケリに眼で合図を配ると、眼が合うミケリも察知する。


「行きます!」


 刹那、二人の体が残像になり二体三体となる高速連鎖攻撃だ。いや、凄いな。剣圧も強いし反転する速さも逸脱している。

 これならギナレスの町で有名になるのは当たり前だな。

 この攻撃に反撃できる、いや、耐えられる冒険者や剣士なんかいないと思う。

 その攻撃を少しの間受ける。

 ――あ、違う、試合なら絶対いないよ。ファルタリアもこの連携攻撃を、よく毎日受けていたな。

 そして更に強くなってこれか、って事は、ファルタリアはどれだけ強くなっているのか? いつか手合せしてみるかな。

 そう思いながら二人の攻撃を受け続ける。俺の反撃にもしっかり対応する2人。

 いやー楽しいな。手合せの攻防はこうじゃないとね。嬉しくなって楽しんでいたら二人の攻撃に変化が出てきた。

 ほんのわずかだけど速度が遅くなり、連携に微々たるずれが生じる。原因、それは疲労だ。

 あ、やばい。楽しんでいるのは俺だけだった。悪かったけど、そろそろ終わりにしよう。二人の攻撃が一瞬止まった。

 そこへ俺の打ち込みで、二人の剣を叩き落として終了。


「二人共強くなったな。休憩しよう」

「ハァハァ、ありがとうございました。ハァハァ」

「ゼェゼェ、ありがとう ございました ニャ、ゼェゼェ」

「フゥフゥ、私達、強いですか? ラサキさんに遊ばれている気がしました。フゥフゥ」

「フゥ、強すぎニャ。フゥ」

「楽しんだ事は確かだよ。それと、うーん、この場で言うのも何だけど、俺は多分、世界最強なんだ」

「ええぇ? 本当ですか!」

「凄いニャ!」


 何の問題も疑問も持たないのか、素直な二人だな。

 もしかして、案外フェーニとミケリもちょろいのか? よくギナレスの町で騙されなかったものだ。

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