第17話 また日常 2
朝食を終え食器を片付けた後、ファルタリアとサリアは、マハリクの町の武道大会で感化されたのか、手合せの鍛錬に出て行った。
俺はもう一度、畑を見に行こうと家を出たら、
「私はラサキと一緒。ウフフ」
と、嬉しそうに腕を組んで来た。なので歩きながら話す。
「なあ、コーマ。最近性格が変わっているように感じる時があるんだけど」
「え? そうかな、変わらないよ」
「そうか、ならいいんだけどさ」
「変なの。ウフフ、私は今が幸せよ」
当初のコーマと性格が違うような気がしたんだけど……楽しそうだから変な詮索は止めておこう。
そうこうしているうちに、畑に着いて野菜や果物をじっくり見て観察する。
いやー、見事に大きく美味しそうに実っているよ。改めて精霊の力は凄いなと感じた。
そして、よくよく見れば畑の端には、サリアの言っていた精霊の果物も沢山実っている。
「俺達が食べきれない精霊の果実は、シャルテンの町に持って行って売ろうか」
「ラサキだけだから言うけど、この果物はとても貴重だから殺到するわよ」
「あ、止めておこう。この果物が原因でレムルの森に来られても困るからね」
「それが賢明ね」
「そんな事言っていいのか? 大丈夫か?」
「ラサキだけだから……ウフフ」
笑顔のコーマ。森の奥では精霊達が楽しそうに飛びまわっている。みんな可愛い笑顔で、本当に楽しそうだな。
約束を守ってレムルの森に来てくれた事に、感謝しながら家に戻った。
一方サリア達は、鍛錬を続けているようで、まだ帰っていなかった。どれだけ強くなるのかな。
一息入れているコーマは、居間のテーブルの上に置いてある果物を、美味しそうに食べ始めていた。
俺は、ファルタリアが獲って来てくれた残りの肉を、生肉で三日分の料理用と長期保存用に仕分け、食料庫に仕舞い込んだ。
あ、三日分の量は、普通レベルの一週間分の量に相当する。三人とも大食らいだからさ。
「よし、こんなものかな」
今日も緩やかで、気ままな一日を送った。
――数か月が過ぎた。
レムルの森で過ごす毎日は、鍛錬や森の散策を兼ねた、精霊との果物や野菜の進行状況を含んだ会話。と言ってもレズリアーナとしか話は出来ないけどね。
それでも楽しい毎日だ。妖精達も俺達を好いてくれるのか、畑に行くたびに飛んで来る。
今ではシャルテンの町には行っていないし、資金も使っていない。必要な香辛料や酒類は食料庫に大量に買い込んであるから。
そして、自給自足で生活する事も楽しい毎日だった。
今俺は、昼食を作っている。今日は、鹿肉を手ごろに小さく切り分け串に刺し、塩を多めに振った串焼きだ。
塩だけでも肉の旨味が引き立って美味しいからね。
時間に余裕もあったので、肉の仕込みを丹念に柔らかくして串に刺す。
あいつらは沢山食べるから、多く何本も作らないとね。
今ファルタリアとサリアは、家から離れた鍛錬用の広場で飽きずに手合せをしている。コーマは少し離れた場所の椅子に座って観戦している。
日課にもなっているので、日々の上達が目覚ましい。と、コーマが言っていた。
まだ上達するのか。
昼前からじっくりと焼き始め、余分な脂分を絞りだし、丁度昼に出来上がった。付け合せはジャガイモの蒸かしたバター乗せだ。
陽気もいいので、庭先のテーブルに運んで上に乗せる。
「出来たぞー! 手を洗って食べなー!」
「はーい、今行きまーす」
「わかったがやー」
「お腹が空いたところよ」
いつものように、美味しい美味しい、と言いながら食べる三人。嬉しいな、素直に受け取ろう。
だが、いつになったらファルタリアとサリアは料理をするんだろうな。
そういう眼で見ていたら、二人共察知したようで、俺を見ずに肉一点を凝視しながら黙々と食べていたよ、いいけどさ。
そして第二弾を焼き始め、食べ終わる頃に山盛りの串焼きを持って行く。
「はいよ、お代わりだ。アツアツだからね」
いつもの流れで食べ終わり食器を片づけ洗う。
――昼下がり。
この生活をこのまま続けていてもいいけど、今後はどうしようか話し合った。
「俺はシャルテンの町や他の町には、香辛料や酒類以外は行かなくてもいいかな。と思っている。目立ちたくないしのんびりしたいからさ。あ、時々行く皿食はいいよ」
「いいですよ、私はラサキさんにお任せします」
「あたいも、いいがや。今が楽しいがや」
「私はラサキの好きな事をしてほしいな」
「ありがとう。でも、ファルタリアとサリアは気にしないで、いつでも行ってきなよ」
「はい。お言葉に甘えてそうします」
「あたいもファルタリアと一緒がや」
何だか二人に悪いような気がしたけど、コーマと一緒に過ごすのが主だから我慢してもらおう。
――翌日の昼下がり。
庭先のテーブルを囲み昼食を終えて、デザートの妖精の果物を食べながら、四人仲良く談笑していたら、下の街道の方から聞き覚えのある声が、森に響き話辺り聞こえて来た。
ん? 聞き違えじゃないよな。街道に続くレムルの森の道を見ると、遠いけど数人の人影が見え、こっちに向かって足取りもしっかり歩いて来ているし。
あー、見えたよ、しっかり視認できました。
うわー、やっぱり来たのか、本当に来ちゃったよ。まさかとは思ったけど、ま、仕方がないな。
部屋も用意してあるからいいけどさ。
ファルタリアも確認したようで立ち上がり、金色の尻尾を大きくさせて揺らしながら、嬉しそうに勢いよく走って行った。
あ、転んだ。久しぶりに派手に転んだよ。何事も無かったように起き上がったけど、鼻血が出てない事を祈ろう。
抱き合って再会を喜び合っているね。少しして落ち着いたのか、一緒に歩いて来た、手を振る三人の女の子。
三人とも住むつもりなのだろう、大き目の背負い袋がそれを物語っていた。
「あー、いたいた。ラサキさーん、フェーニでーす」
「来ましたニャー」
「お久しぶりです! やっと着きましたー」
いやー、久しぶりに会ったけど、三人とも成長して、見違えるほど綺麗になったな。
フェーニはエルフだし、身長も伸びて一六〇センチくらいか、出るところは出て、くびれるところはしっかりくびれたスタイル抜群だな。可愛く美しい緑髪のエルフになっている。
ミケリは小さかったけど成長したね。フェーニよりは小さいけど一五〇センチくらいかな。スレンダーな体つきは獣人らしく軽やかで、茶色の毛並みも綺麗な黒い瞳も、クリッと可愛らしく美しくなっていた。
ルージュは伸びた紫髪が似合う……ダイナマイトだった。
凄いな、何を食べたらあんなに破壊力のある体つきになるのだろうか。身長もフェーニと同じ一六〇センチくらいだけど。
ドドーン、キュッ、バーンッて感じだよ。
さらに切れ長の青い眼が引き立っていて美しいね。サリアに教えてあげたいな。と思っていたら、以前のスタイルを知っているサリアが睨んでいた。




