第15話 帰宅
コーマはドヤ顔で、チラリ、と後ろの二人を見れば眼が合ったようだ。
してやったり、と今度は行く先を止めるように俺の前に立ち塞がり、両手を首に回し口づけをするコーマ。
「んー、んー、んー」
これは苦しいから、両手でコーマをそっと押す。
「プハァ、どうしたんだよコーマ」
「ウフフ、欲求不満なの。ウフフ、つがいでしょ」
唇に人差し指を当てて、色気のある妖艶の笑みで俺を見る。そんなコーマに俺は、少し理性を欠いたけど、今はダメだよ、コーマを諭さないと。
「コーマ。それはいいんだけど、後ろの二人にも気を使ってくれたら嬉しいな」
「無理、ダメ、見せつけたいんだもの、ウフフ。それに私は、これからお勤めがあるから、頑張ってね……ん」
口づけをしながら消えて行くコーマ。
一息入れて後ろの二人を見れば……え? 二人とも眼が潤んでいるし……や、やばい。もしかして、今のやりとりで欲情している?
「ラサキさんズルいですぅ。私も嫁ですよぉ、耐えられませーん……んー」
小走りに駆け寄り、近づいて抱きつき、濃厚な口づけをするファルタリア。フゥ、素直に受け入れるよ。
「ラサキ、コーマは仕方がないがや、でもあたいも嫁がや、かまうがや……ん」
続いてサリアも、首に両手を回し濃厚な口づけをしてきた。
――これで二人も納得したのかな。
町でも程々にしていたのに、当てられるとこうなるのか、覚えておこう。家に着くのが怖くなってきたぞ……がんばれ、俺。
その後の道中は、コーマは本当にお勤めのようで帰ってこなかった。
なのでファルタリアとサリアと並んで、武道大会の事や皿食の事など談笑して歩いた。
携帯食も無かったので、町で購入した果物を食べながら歩き、暗くなり始めた頃に、やっとレムルの森の我が家に帰って来た。
鍵を開け家に入る。
「帰って来たな」
「ただいまー」
「ただいまがや」
見回すけど、多少の埃が溜まっているだけで誰かが来た様子はなかった。
「腹減っているか? 何か作ろうか」
「あー、お願いします、食べたいです」
「あたいも食べたいがや」
「じゃ、サリアは風呂の準備。ファルタリアは部屋の掃除ね」
「わかったがや」
「はい、了解しました」
食料庫から干し肉を取り出し、水で戻した後、簡単な肉の香辛料焼きを四人分作ってテーブルに乗せる。
「出来たぞー、終わった順に食べな」
「はーい」
「食べるがやー」
「ラサキ、ただいま」
お勤めからコーマも帰って来て、三人は食べ始める。
「皿食も美味しいけど、ラサキさんの美味しい手料理を食べると、帰って来たなーって感じがします。エヘヘ」
「美味しいがや、愛が籠っているがや、あむ」
「ウフフ、美味しいよラサキ」
「それは良かったよ。でも食べ過ぎは太るからお代わりは無いからね」
「「「ええぇ?」」」
三人から非難の声が聞こえたけど、無視して酒瓶の並んでいる棚を眺める。
マハリクの町でも飲めたけど、不測の事態が起きたら不味いから飲むのは止めておいた。
コーマは神だし、ファルタリアとサリアも最強だから心配する事は無い。でも俺も一応男だし、夫でもあるから、何かあったらみんなを守らないとさ。
「よし、今日は我が家に帰って来たんだから、きつめに蒸留酒で行こうか」
何本も並べてある中の、度数が高い強めの蒸留酒の瓶に手を掛け、グラスと一緒にテーブルに持って行く。
ん? あれ? 俺の料理が無い。てか、皿には何も残っていない。
席を離れている三人は、思い思いにバトルアックスの手入れをしたり、サリアに果物をむかせて食べているコーマは知らんぷり。
あー、俺の料理も分け合って食べたのか、確信犯だな全く。
けど、つまみが無いと寂しいな。
酒の棚に戻り、麦酒をグラスに注ぎ立ったまま一気に飲み干し、
「プハーッ」
そして、食料庫から干し肉を取り出し水で戻す。
俺を目ざとく見ているコーマ。
「ラサキ、私も食べたいな」
その声を聞き逃さない二人は、顔を俺に向ける。
「私もです! 断固食べたいです!」
「あたいも食べるがや。胸を大きくするがや!」
眼をキラッキラさせているし。俺の料理を食べておいて何を言うのかな。ま、いいよ、嫁だし許そう。
「ああ、わかった作るよ。その代り太っても知らないぞ」
「私は太らないわよ、ラサキの理想だもの。ウフフ」
「私も獣人だから大丈夫ですよー。エヘヘ」
「あたいも胸に集中するがや、大きくなるがや、問題ないがや。アハハー」
食料庫から残り全部の干し肉を出して水で戻し、肉炒めを作って三人分を大皿に山盛りで出した。
「おまちどお。これで保存食は終わりだよ」
待ってました、とばかりに無言でかぶり付く三人。さっき食べたよな、俺の分まで。
どれだけ腹が減っていたのか? 確かに皿食は当たり前のように二人前は食べているし時には三人前食べていたし。――まいっか。
そんな三人を見ながら、蒸留酒の入ったグラスを一気にあおった。
「プハァーッ、美味い!」
喉から胃に染み渡るな。一息入れる。
「なあ、保存食の肉は無くなったから、明日の猟は二人に頼むよ。朝食も無いから果物で我慢するようにね」
ファルタリアは、頬張り食べながら敬礼して答える。
「了解です。早朝から獲ってくれば朝食も肉料理はありですね? あむ」
「あたいも野菜と果物を採ってくるがや。あむ」
「ああ、それなら作れるよ。その前に起きられるのか?」
「今晩は別部屋ですから起きられますよ」
「あたいもファルタリアと同じ部屋がや、起きられるがや」
あ、そう言う事か。
「ウフフ。ゆっくり食べてていいよ。部屋で待っているから」
コーマは立ち上がり風呂に入って行った。俺は重圧に負けないように蒸留酒をあおる。
「フゥ、やっぱり美味いな」
食べ終えた二人は、今晩はコーマの番だから、と俺にくっ付かず風呂に入って行ったよ。
今回はいつもの、来なさいコール、は無く、風呂で温まった赤ら顔のコーマが全裸で上がって来て、俺に笑みを浮かべ、流し眼で部屋に入って行く。
その後、同じく一糸まとわないファルタリアとサリアが堂々と出て歩き、隣の部屋に入って行った。
嬉しいんだか、怖いんだか、喜ばしいんだか、俺の心の中は葛藤していたよ。
残っている肉を食べ、酒をあおる。
「プハァ、あー美味い。やっぱり晩酌はいいよ、うん」
食べ終え酒瓶も空になったので、食器類を片づけコーマのいる部屋に入る。
「待たせたね」




