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第14話 小旅行 5

 フードを被ったまま表彰台に立ち、難なく賞品を手にして、人目に触れないように、逃げるように、隠れるように去って行った。

 気配を消して回り道をしながら宿もどる。

 そしてファルタリアの毛色を戻し、一息ついて変装を解いて、当初の目的であるスラム街に向かった。

 スラム街が近づくと、小走りに先に進んだ二人が探しながら辺りを見回し見つけた。


「ラサキさん、あの男の子がいましたよ」

「あー、本当がや、広場にいるがや」


 本来、生活等々の話は大人の長と話すのが筋だ。いや、大前提だ。

 だがしかし、以前から見ていた限りでは、その大人たちは気が抜け気力が無く、死を待つばかりの状態に見えた。

 その反面子供達は、ひもじいながらも前向きだ。更に子供達の中で、主導権を持っているであろう男の子に話しかける。


「やあ、俺の事を覚えているかな」


 振り向いた男の子は、痩せ細っていて空腹かもしれないけど、元気な笑顔で返してくれた。


「あ、あの時の助けてくれた人ですね。忘れませんよ、その節はありがとうございました」

「それはよかった。今日来たのは他でもない、君達に生きるチャンスを持って来たんだ」

「え? 生きる?」


 急な話で驚く少年。


「驚かなくていいよ、俺はラサキ、後ろの二人はファルタリアとサリアだ、よろしくな」


 二人が笑顔で手を振っている。


「ボ、ボクはテトと言います」


 驚きながらもしっかりしているテト。

 俺達は出場した武道大会ついて話し、自給自足をするよう進めた。この時点では、表彰された事はまだ言わない。

 当面の資金は、賞金で上手くやりくりして賄ってもらい、畑を耕し野菜を作る。

 基本は自分たちの為、ただ食べる以上に豊作になったら、その余剰した作物を売って肉や衣類など購入する。

 他の子供達も、興味本位で集まって来た。テトに、数人の頼りになりそうな子供を選出してもらって、他の子供達はファルタリアとサリアに遊んでもらった。

 更に詳しく子供達に説明しら、物わかりのいい出来た子供達だった。

 テトは納得した。


「なるほど、ラサキさんの案について、それはわかりました。でも僕たちには無理だし、その絵空事を聞いても、今は資金がありませんが」

「武道大会の賞品は何か知っているかな?」

「え? 僕たちは町中では隠れて歩くので知りませんが、以前町の人の話が聞こえた時に、賞金とか土地とか……」

「うん、そうだ。だからその大会に出場して賞金と土地を貰って来た。だからこれでスラム街から脱出しなよ」


 声を掛け、遊んでいたファルタリアから土地の権利書、サリアから賞金を見せ手渡した。


「テトがこの集まりのリーダーだ。よく考えて他のみんなを助けてあげるようにね」


 さらに話を進めて行くうちに、俺とテトの周りには大勢の子供達が集まって来ていた。

 ヤイヤイやっている所に、金の話が聞こえた大人達も、フラフラ、と後からやってくる。

 その中の如何にも悪賢そうな痩せ細った男が、俺とテトの間に入って来た。


「おいテト。それは俺が預かって上手く使うからよこせ」

「だ、だめだよ、俺が任されたんだから」

「いいからよこせ」


 俺達を無視し、無理やり奪おうとする大人の男に蹴りを入れた。


「ギャ!」


 ワラワラ出てきた大人達に向かって威圧を掛けて話した。


「おい男。そして出てきた大人達。俺達はこの子に今後の夢を託したんだ。もしこの子に、いや、この子達に手を出したら全員皆殺しだ」


 と、同時に、ファルタリアがバトルアックスを、手に持ち頭上に上げ高回転で振り回し、その横のサリアの両手には、紅蓮に燃え盛る炎の球が浮かんでいる。

 それだけでも、もの凄い威圧だったけど、俺も剣を抜き男の首に突き立てる。


「おい、男。わかったのか?」

「ヒョエ? あ、は、はい、な、何もしません、た、助けてぇぇ」


 ファルタリアは、だらしない大人の首根っこの服に、高速回転を瞬時に止めて、バトルアックスの先の尖った先端で突き刺し、後方に放り投げる。

転げまわったその男を先頭に、他の大人も我先にバラックに引っ込んで行った。

 ――はぁ、情けない……気を取り直そう。

 テトに向き直り言う。


「じゃ、そう言う事で」


 テトと廻りの子供達はキョトンとする。


「え? あ、あの、そう言う事って、それだけですか?」

「ああ、それだけ。お膳立てはしたよ。この先自分たち自身が上手くいって安定した生活が出来ればよし。失敗して今のように戻ったら、それも運命だ。一度だけ未来を変えられる、チャンスを持ったのは君達だ。後は俺の知ったこっちゃないからさ」

「あ、ありがとうございます。ううぅ、みんなと力を合わせて絶対に成功させます」


 号泣するテトと釣られて他の選ばれた子供達も泣き出した。


「頑張れよ」

「頑張ってくださいね」

「応援しているがや」


 未練も無く、振り返る事も無く、知る事も無くスラム街を後にしてマハリクの町を出た。

 余計な事だったかもしれないけど……レムルの森に帰ろう。


 マハリクの町を出てすぐ、道中はすぐにコーマも現れ、三人は俺の腕を組む順番を楽しそうに決めている。

 もう嫁になっているから負けても夜に可愛がってもらおう、と思っているのだろう、和やかな三人。

 その前に、もう腕組みなんて、しなくてもいいんじゃないのか? 

 俺の希望とは裏腹に、結局どうなって決まったのかは定かではないけど、嫁の順番通り、コーマ、ファルタリア、サリアの順になった。

 さっそく腕を組んで来るコーマ。


「ラサキ、皿食は美味しかったね、皿食は美味しかったね」

「あ、二度言うか、根に持っているのか? ゴメンな、コーマ」


 下から上目づかいでワザとらしく否定するように話す、妖艶な笑顔のコーマ。


「ううん、いいのよ。大丈夫よ、大丈夫よ」


 いや、根に持っているし参ったな。後ろの二人に恥ずかしいから、少し小声でコーマに話す。


「俺のコーマに対する愛しさは変わっていないよ、知っているだろ? 帰ったら約束通り目一杯可愛がるからさ、勘弁してよ」


 読んでいたのだろう知っているかのように、勝ち誇っているかのように、追随は許されないかのように大声になるコーマ。


「やっぱりぃ? 帰ったらラサキがいつもより可愛がってくれるのぉ? うれしいー、私のラサキー、好きよー。ウフフー」


 神なのにそんなんでいいのか? 大丈夫なのか? 問題ないのか? 何だか性格が変わったような気が……。

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