第13話 小旅行 4
「ファルタリアも成長したな、凄いよ」
俺に振り向いて笑顔になり、急に態度を豹変するファルタリアが、嬉しそうに腕を組んで顔をぐいぐい寄せて来る。
「ええ、ラサキさんの嫁ですからこれくらい当然ですよ。えへへ、もっと言ってくださいよ、もっとくっ付いてくださいよぉ。いいのですよ、デレてくださいよぉ」
そう言いながら俺の反対の腕には、興味を持たないサリアが、ブスッ、として腕を組んでいる。
「サリアは静かにしていようね」
「フンッ! ……がや」
ちょっとふて腐れているけど、我慢してくれているサリア。サリアも嫁になった自覚があるのか何も言わなかった、ありがとう。
ただ不思議に、ギルド内ではサリアには眼が向けられていなかった。ん? ああ、魔女たる威圧を振りまいていれば当たり前か。
そのまま掲示板と案内板を見に行く。
掲示板には、閉鎖的な町とは裏腹に依頼が思ったより多く貼られていた。
だがしかし、スラム街の人達を助ける事が出来る依頼や要請等は無かった。諦めて帰ろうとした矢先、案内板を見たサリアが俺を止めた。
「ラサキ、あれはどうかや? あそこの張り紙を見るがや」
サリアの指差す案内板に貼ってあった紙には、こう書かれている。
≪武道大会 挑戦者募集 集え強者 主催・マハリク領主≫
優勝 侯爵と同様の地位
準優勝 金貨一〇〇〇枚
三位 畑に使える土地の所有権
「お、いいね、これだよサリア、よく見つけたよ」
「当たり前がや、あたいはラサキの嫁がや。アハハー」
ペタンの胸をのけ反らせ、両手を腰に当てて仁王立ちで喜ぶサリア。今度はファルタリアが、グヌヌ、と闘志を燃やしている。
おいおい違うだろ、勘違いするなよ、スラム街の子供達を助ける為だろ。
「おいファルタリア、お門違いだから止めておけよ」
「え? あ、すみません、私としたことが。エヘヘ」
笑顔で舌を出し、自身の拳で頭を軽く小突くファルタリア。
読めるようになって来たな。
するとサリアがご不満のようだ。
「フン! いいがやいいがや、あたいはのけ者がや」
すぐ目の前に、仁王立ちで俺に向かって文句を言うサリア。
俺は小さいサリアを両手で覆うように抱き寄せる。
「サリアはいいんだよ。嫁なんだから今回はファルタリアに頼むけど、サリアに頼むときはしっかりお願いするから機嫌を良くしてくれよ」
抱きしめられて喜ぶサリア。
「アハハー、いいがやいいがや、あたいはラサキの嫁がや、問題無いがや。アハハー」
んー、サリアは三六〇歳に近いけど以外にちょろいな。
よし、出て見るか。
コーマに貰った力を発揮すれば、問題なく優勝するだろう。
しかし一方的に勝ってしまっては、観客から眼を引くから問題は力加減だな。
ギルドを出て歩きながら考えていると嬉しそうなファルタリアを見たサリア。何か不満そうな表情をしている。
俺を見たサリアが口を尖らせた。
「やっぱり、あたいも出るがや」
あ、それはダメだ。魔女だから力を使ったら大変になるだろ、いや、大騒ぎになるな。
「無理だよ、サリアが出たら魔法の力が大きすぎて不味いだろ。王国に知られても困るからさ」
サリアは食いつく。
「なら、単発の魔法だけがや、苦戦しながら勝つがや。極々簡単な魔法がや」
「でもこの町は、魔法使いが貴重らしいから眼を付けられるよ。止めておいたほうがいいと思うよ」
「ラサキ! 出るがや!」
んー、無理に引き留めてもサリアは納得しないか。
「仕方ないな、いいよ、みんなで出場しよう。その代り、頭巾を被って素性がバレ無いようにしようか」
「はい」
「わかったがや」
事前準備で、俺は表情の無い仮面を、サリアも同じ仮面と容姿がすっぽり隠れる頭巾をかぶり、ファルタリアは毛色を変え黒に染めて仮面を被り、ウォーウルフに変装した。
綺麗な獣人がバトルアックスを持っていたら、すぐにバレるから気を付けるようにね。
コーマは皿食を食べる時と、一緒に寝る時以外は消えている。相変わらず面倒事が嫌いなようだけど、こういう状態でも文句ひとつ言わないでいる。
かまってあげられなくて悪いとは思ったけど、もう少しだから我慢してもらおう。
「いいよラサキ、頑張って……ん」
「あ、ああ、ありがとう」
読んでいるし、神だから要領がいいな。
「楽しい事は帰ってからね。可愛がってよ、ウフフ」
あー、これはレムルの森に帰った夜は決定だな、覚悟しよう。
そして武道大会当日。
実の名を伏せ、俺はガンマと言う剣士。サリアはアーサと言う魔法使い。ファルタリアはグランナと言う重剣士で登録して出場した。
この名を付けたのは俺。実は名前を決める時に一悶着あった。
二人共、地上最強のグレート、とか、魔王を倒すキャスター、とか、神のバルキリーアックスとか言い出したので、人眼を引くだろ、と穏便に宥め、渋々承諾してもらった。
何も考えていないのかな。隠密に、と言っているのに大丈夫か? まったく。
また、素性に関しては後で問題が発生しないように、登録用紙には頼んでおいたサリアの魔法が掛けてあり、大会後消滅するように仕掛けてある。
さすがサリアだね、と褒めたらのけ反る仁王立ちで喜んでいた。うん、ちょろいな。
大会が始まり、幾つかに別れた各闘技場で予選の試合も始まった。
俺の動体視力はコーマ譲りで、簡単に演技が出来たので、どんな相手でも弱弱しく勝ち上がり、サリアもさすが魔女だけあって対戦相手の攻撃は軽く避け、小さなファイヤーボールだけで偶然当たったように見せかけ勝ち上がって行った。
しかし、観客から見た小さな小さなファイヤーボールはサリアの特製で、超高熱のヘルフレイム並みの破壊力があった。
さらに弾ける時には、弱い威力に変換する念の入りようで、上手い事バレずに済んだ。樹海の魔女たる強さを垣間見たよ。
ファルタリアも「ヤー、ター」と下手な演技で勝ち残り、ヒヤヒヤしたけど大丈夫なようだった。
そして俺は、ファルタリアと当たる前に、勝ち上がったけど負傷した、として棄権した。
二人は順調に勝ち残り、準決勝ではファルタリアとサリアの対戦で、いつも手合せしているから加減するのも手慣れたものだ。
少し遊んでいたようだけどファルタリアに勝ちを譲ったサリア。
決勝でも、ファルタリアの下手糞な演技でハラハラしながら見ていたけど、相手の動きは見切っていたようで上手く? 負けていたよ。
一応悔しがる演技も忘れていなかった。下手な演技とはいえ、上手く誤魔化せたね。
良かった良かった。
結果
優 勝 マハリクの町の騎士
準優勝 重剣士グランナ
三 位 魔法使いアーサ
正直言って、出場選手達は、思っていたほど手ごわい相手も寝く、俺達にとっては、雑魚しかいなかったつまらない大会。
三人で手合せしたほうが、全然身になるくらいだ。
しかし、今回は目的が違うから、簡単に欲しい物が獲得できたので良しとしよう。




