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第12話 小旅行 3

 朝早く、コーマが消えて検問所に向かう街道を、三人並んで歩いている時、脇道から何かを大事そうに抱えて走って来た子供が、前が見えないのか出会いがしらに俺にぶつかって来た。

 決してお世辞にも綺麗とは言えない汚れた布の服一枚を纏った少年。

 俺は何ともないけど男の子は倒れ転んで、持っていたものが乾いた音を立てて道に転がった。見たら、それは硬そうなパンだった。


「あ、ごめんな大丈夫か?」


 手を差し出そうとしたら、その子供の声を聞く前に、別の場所から罵声が上がる。


「おい! そのガキは俺の店のパンを盗んだんだ」


 話しを聞いて男の子を見れば、本当のようで怯えていた。追いついた痩せ細った店の主人が、男の子の首根っこを掴んだ。


「くそガキ! どうなるかわかっているんだろうな!」


 その光景を見て、何だか嫌な気分になるし、余計な事に巻き込まれた感があるが。


「なぁ、主人。その子供をどうするんだ?」


 俺を見るパン屋の店主。


「ん? あ? ああ、捕まえてくれてありがとよ。こいつは盗人だから極刑だ」


 何だそりゃ。それだけで極刑、死刑か、酷いな。その話に首を突っ込む俺もお人好しなのかな。


「俺がこのパンの金を代わりに支払ったら許してもらえるか?」

「ふざけるな! いつも盗られて逃げられているんだ。払っただけじゃ割に合わないし、廻りへの示しがつかない」

「なるほど、なら金貨三枚で償おう。そのパンも返す事でどうかな。それなら文句も無いと思うけど」

「え? 本当か? パン一つの謝罪で金貨三枚か。な、ならいいだろう、乗った」

「交渉成立だな」


 金貨を支払いホクホク顔で去って行く主人。見届けてから座り込んでいる子供を引き起こした。


「なぜこういう事をするのかな? 犯罪じゃないか」


 助けられて嬉しいのか、食料が無くなって悲しいのか判断できないけど、号泣を始める少年。


「ううぅ、食べ物が無いんです……みんな何日も何も食べていないんです」

「君も空腹なのか?」


 下を向き小さく頷く男の子。

 ファルタリアが腰袋から果物を取り出す。同調したサリアも背負い袋から果物を出す。


「どうぞ、食べてください」

「食べるがや」


手に取った男の子は、食べるのかと思いきや大事そうに懐に仕舞い込んだ。


「ありがたく頂きます」

「食べないのか?」

「僕だけ食べたら不公平だから、みんなで分けて食べます。ありがとうございました」


 男の子は顔を上げ俺達を見回し、一礼して走り出した。礼儀正しいし悪い子ではなさそうだ。

 あー、また面倒事だな。マハリクの町の陰の部分か。

 俺一人考えても、仕方がないと思って話をしようとしたら、先にファルタリアが声を掛けて来た。


「ラサキさん、行きましょう。助けてあげましょう」

「あたいも賛成がや、行くがや」


 助けたい感がタップリだね。お人好しと言うか何というか、優しい二人だな、そう言うの好きだよ。


「んじゃ、後を追おうか」


 子供の走る速さは、たかが知れているからすぐに追いつき、気づかれないように後方から後を追った。


 マハリクの町を、北に進み町外れまで行けば、住宅街の街並みから景色が変わった。男の子は、スラム街らしい場所に入って行った。

 更に追うと、強風が吹いたら飛んでしまいそうなほどの、バラックで出来た、お世辞にも家とは言えない掘っ立て小屋が、小道の両側にひしめいている。

 腐ってすえた臭いが鼻を突く。

 遠巻きに隠れて眺めていると、その一角にある広場らしき所で子供達が、ワラワラと集まり出して来た。その中心にはさっきの男の子がいる。

 全員痩せ細り、汚れた布の服一枚を羽織っている子供達。俺から見たら、生きているのもおかしいくらいの細さで、骨と皮しかない子供達ばかりだった。

 それでも生きて行かなくてはならないのだろう、全員、生に執着しているような必死な形相だった。

 ――見たくない光景を見てしまったな。

 その集まった子供達に、言って聞かせる男の子。


「みんなぁ! この果物は、優しい人が恵んでくれた明日へ生き残る食料だ! 大きい子は最後尾に、小さい子を優先して並んでくれ!」


 うわっ、これは恥ずかしい。恥ずかしすぎるぞ。や、優しい人って……。

 当の二人を見れば、気にしない様子で前のめりになり、さらに助けたい感が出ていた。つ、強いなお前達。

 素直に従って並ぶ少年少女たち。そして……。

 ごく小さいスプーンのような物で、果物の果肉をすくって先頭の子の口に入れた。

 信じられないくらい小さい雫程の果肉なのに。

 さらに驚愕した事は、口に入れてもらった子供のみならず全員がすぐに呑み込まず、口の中に入れたまま嬉しそうに味わっている。

 しばらく堪能したのか、ごくん、と聞こえるような表情で飲み込んだ。空腹でも嬉しいのだろう。

 ――その光景を見て思わず、涙が頬をつたわった。

 恥ずかしかったけど、出た涙は仕方がない。と思っていたら、ファルタリアとサリアも嗚咽を吐き号泣していた。


「こんなにひどいスラム街はシャルテンの町にもありません」

「酷いがやラサキ、可哀そうがや。ううぅ」


 心優しい二人を見て安心したよ。落ち着いた頃に話をする。


「どうやって助けるかだな、この規模だと大人数だし」

「食料を大量に渡しましょう」

「そうがや、肉と野菜がや」


 短絡的な二人だな。


「それじゃ進展しないよ。その場しのぎで元に戻るのが落ちだ」

「ではどうすればいいのでしょうか」

「問題はそこなんだよな、この状況は今さら始まった事じゃないし、少し考えよう」


 何かいい案はないものかな。子供達は生きるために、いいか悪いかは別として前向きに貪欲みたいだ。 しかし、ここの大人はもうダメだな、隠れながら見て回っても、全員が生きる屍のようで気力も無い。 大人を無視して子供だけ助けるか。でも親を慕う子供もいるだろうし、悩むな。どうしたものか。

 そこで、行く予定も無かった町のギルドに、何かいい情報かヒントでも無いか見に行く事にした。

 ギルドに入るや否や、視線が俺達、いや、ファルタリアに注がれる。

 はぁ、またか――。

 またもその場に似つかわしくない、背負っている重量級のバトルアックスの獣人。

 嫁になってから美しさに磨きがかかって、色気も妖艶に出しているスタイル抜群な、フォックスピープルのファルタリア。

 ただ、今までと違った事は、俺の嫁という自覚が強いのか、ギルド内の冒険者に向かって威圧を込めた睨みを効かせ、周囲を黙らせた。

 え? スキルか? 凄いな、いつの間に習得したんだ? ま、それはそれでありがたいけどね。

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