第11話 小旅行2
「修理費をお支払いしますから、四人部屋を造っていいですか?」
「え? はは、はい、それなら……」
何を言い出すんだ? 長期間滞在する訳じゃないんだから別にいいだろ。と言おうとしたら、素早くクリケを連れて行くファルタリア。
「では壁を抜いてもいい部屋はどこでしょうか」
俺とサリアを余所に、二階に行ってしまった。はた、と気が付いたようにサリアもついて行くので俺も従った。
……やれやれ。
クリケが立ち止まりファルタリアと向き合う。
「ここ、この部屋でしたら、問題ないと思います」
クリケを廊下に待たせ、部屋に入ったファルタリアの後について入り、バトルアックスを上段に構え壁を切り破った。それも紙でも切るように、サクサク、と簡単に。
開口部の仕上げは、サリアの魔法で綺麗に仕上げてもらったよ。廃材は了承を得ていた裏窓から裏庭に投げ落として終了。
クリケを招き入れるファルタリア。
「フゥ、完了しましたよ。どうぞ」
部屋に入って、両手を口に当て驚くクリケ。
「ええぇ? もも、もう? すす、凄いです」
視点が定まらず、右往左往しているクリケに、ファルタリアが腰袋から小袋を取り出し、金貨五〇枚を出す。
「これで修繕費に当ててもらっていいですか?」
クリケは、後ずさりしながら両手を前に出す。
「いい、いえ、ここ、こんなに大金はいらないです、そそ、それにこんなにも綺麗にしていただいて、ここ、こちらが得して嬉しいくらいです」
クリケ曰く、そろそろ四人部屋も造るかどうか悩んでいた。しかし、費用が掛かるからどうしたものか、と検討していた矢先の出来事だったので渡りに船だった。
仕上げも綺麗なので、お金なんていただけない。
ファルタリアは、両手を腰に当てて、浅いくの字に体を前に倒しクリケに向く。
「では金貨一〇枚でいいですね、いいですね?」
強気で迫るファルタリアの気迫に、鬼でも見るように女の子は怯えながらも貰っていた。
「あ、はは、はい、すす、すみません。とと、とても嬉しいです」
で、結局納得がいった四人部屋が出来上がったようだ。勿論四つのベッドは二人によって中央に寄せられていた事は言うまでも無い。
でも、小さい居間が二つに水浴場も二つ、いいのかな。ファルタリアの気迫に押されたけど、何となく悪い事したような……。
その夜、コーマが帰って来て開口一番、お腹が空いた、と言い出したので宿屋に聞いたら簡単な食事は出せる、と言うのでお願いした。
部屋まで持って来てもらって、テーブルに乗せられる料理。野菜炒めだな。
肉は入っていない。正真正銘の野菜炒めだった。
さっそく一口。
「味は悪くないよ、いい塩子量加減で美味いな」
「うん、美味しい」
「あー、野菜だけでも美味しいですね」
「んー、美味しいがや。あむ」
美味しく頂きました。
就寝前、お勤めはどうなるのか不安だったけど、さすがに今夜の順番は無かったよ。
――ふぅ、よかった。
今晩はファルタリアの予定だったけど、急に襲われたら拒否する事がいいのかわからないし、二人じゃないんだから怖かった。
見られながらなんて恥ずかしくて絶対に出来ないしさ。あー、良かった、安心して寝よう。
二人の寝息を余所に、耳元でささやくコーマ。
「ウフフ、私はいいよ、見たいな。ウフフ」
「頼むよ、止めてくれ、無理だ。俺も羞恥心はあるからさ」
「おやすみ……ん」
マハリクの夜は深まって行く。
朝から町の散策を始めた翌日、町で売られている品は、シャルテンの町と変わらず同じだった。少し閉鎖的だけどそれ以外は何ら変わりは無かった。
そして、何か変だと感じた一つがわかったような気がする。
それは町の往来を歩いている人の四割ほどが、住民では無く騎士風、剣士風等々、さらにあの黒っぽい大きなつばと、とんがり帽子に首だけ通したポンチョ。
止めが先の曲がった杖を持った老若男女が歩いている。うん、本当かどうか疑問だけど魔法使いだろう。
やはり戦争に向けて、下準備が進んでいるのかな。
俺達は、関わりを持たないように差し障りなく歩き、皿食屋を探していた。歩く事しばらくしたら、先の方に、数軒の皿食屋が立ち並んでいる一画を見つけた。
「ラサキさーん、ありましたよー。どの店にしましょうか」
「やったー、あったがや、美味しい店がいいがやー」
俺の横に現れた、笑顔のコーマ、嬉しそうだ。
「ウフフ、私も美味しい店がいいな」
その数軒の皿食屋が一望できる片隅で見ていたけど、どの店も人の出入りは同じだった。これなら外れは無いのかな。
他の町の皿食屋と違ったのは、看板に肉専門、魚専門、野菜専門、とあった。
「私は肉でも魚でもいいわ」
「私は魚が食べたいですね」
「あたいは肉か野菜がや」
「俺はどの店でもいいよ」
「「「 え? 」」」
うわっ、一斉に三人に睨まれたよ、そこまでして俺が決めないといけないのか? その睨みにも動じず俺は、黙って三人にお任せして一歩曳いて待つ事にした。
食事の事となると、女の子だからか一歩も譲らない攻防が始まった。俺は話を余所に店を見回していたら、片隅に建っていた三人の納得する店を発見した。
その店の看板には、こう書かれていた。
≪言われた料理を注文してください、何でも造ります。その代り時間はかかります≫
ヤイヤイと、言い合っている三人に向かって、
「なあ、あの店なら希望に沿うんじゃないのか?」
で、結局話も終わりその皿食屋に決まりました。
店に入って並ぶ三人。時間がかかると聞いて三人とも仲良く同じ肉料理に決めていたようだ。何だ、結局食べられればいいだけじゃないか。
あ、なるほどお代わりか、そう思った矢先、待っていた料理が出てきたと思ったら、早くも肉料理を食べ終わったコーマが立ち上がって、魚料理を三人前頼んでいたよ。
ファルタリアもサリアも、美味しそうに食べて納得していた。
ならお代わりしないで専門の店を、はしごしたほうがいいような気がするけど、それは言わないでおこう。
「ウフフ、今度そうしようかな」
全く、こういう時には読んでいるし。
「それも一つの案だよ」
俺とコーマの話を聞いていた、美味しそうに魚料理をバリバリ食べているファルタリアと、アムアム食べているサリアが、ジト目で俺を見る。
「またそれですか、また二人の世界ですか、いいですよいいですよ、聞こえませんから語り合ってください」
「フン、あたいも気にしないがや、魚は美味しいがや」
二人とも嫁になって強くなったようだ……。
閉鎖的だけど、それ以外は何の変哲もないマハリクの町。
俺達はこの数日を、誰とも関わりも無く静かに過ごし、皿食も十分堪能した。
出立の日。
ギルドにも寄らず、日も昇らないうちに町を後にしようと、検問所に向かった。




