第 7話 日常 7 隠密行動
深夜、静かにベッドを抜け出し居間で装備を身に付ける。嫁を貰った事、いや、コーマと契りを交わした事で、自分の身体に変調が起きていた。
寝付く前に、あの赤い剣を持った男の事で、どうしたら捕まえられるか若しくは倒せるか、そして何処に潜伏しているのかを考えていたら、居場所が脳裏に現れた。
いわゆる千里眼だ。俺に出来たのだから魔法では無いのだろう。これもまたコーマの力だ。
なら事は早く解決したい。嫁達の寝ている間に、こちらから出向いてみよう。
家を出る時、無理しないでね、と感じ、静かに部屋を覗けば、コーマが横になったまま、小さく手を振っていた。俺も手を振りかえし静かに扉を閉め家を出た。
暗い街道まで出たら走る。そして全速力を試したら超人的な速さだった。うん、やっぱり俺、人間止めているな。
向かう先はシャルテンの町。暗い景色が飛ぶように流れ、息切れも無くほんの十数分で到着した。
「フゥ、いいのかな。これもコーマの力なのだろうな」
町に入れば深夜なので静かだ。あ、まだ酒場は明るく開いている。これは昔と同じだな。
店の前を気配遮断を掛けて通り過ぎ、町外れにある一戸建て平屋の男の住居まで来た。
感づかれないように音を立てず窓からのぞけば、向こう側は広々とした広間があった。その中央にあるソファに座り、まだあの男が起きていた。
フードをとった男の顔は、のっぺりとした顔立ちで金髪を肩まで伸ばしている。
早く片付けて帰りたいから、踏み込もうとした時、人の気配を感じて瞬時に隠れる。
すると二人の男が現れ、その家に入って行った。窓越しに聞き耳を立て、中の様子を確認する。
一人は髭を生やした厳つい大男で、もう一人は痩せているが筋肉質の男。冒険者なのか、二人とも剣を装備している。
中に入った二人は、ソファにふんぞり返って座り、赤い剣を持った男と対峙する。
「おい、ノランデル、まだラサキを始末してねえじゃねえか」
「御頭も苛立っているぞ」
「まあ待てよゴラウにスーコン、あのラサキだ。そう簡単にやれないよ。先日強さを確認したら、尋常じゃない理不尽な強さだよ。それに付き従う二人の従者も習って強い」
「そ、そんなに強いのか?」
「ああ、小さく見積もっても、あの三人で一個大隊並みだな。対峙して良く分かった」
それでも反して憤慨する大男。ゴラウと言うらしい。
「それは凄いが。だがよ、それじゃ、御頭が納得しねえだろ。依頼を受けたノランデルの責任だんだから何とかしろよ。Sランク何だろ? だから一目置いているんだ」
「まあまあ急かすな。依頼は遂行するから、待っていてくれ、と伝えてくれ」
「いつやるんだ、どうやって始末するんだ」
俺を始末する方法を、話し始めたノランデル。
なるほど、二人は盗賊だな。何処の盗賊かを特定するより、依頼を受けた男が失敗すれば諦めるだろう。なら三人とも始末するしかないか。
もう一度踏み込もうと扉の取っ手に手を掛けようとしたら、奥からまた一人出てくる気配があったので窓に戻る。
二人の盗賊は何も感づいていないのか無防備だ。黒く体に密着するような服を着た細身の女が、気配を隠して、瞬く間に盗賊の後ろに回り込み二人の間に二本のナイフを首に突き立てる。
長い黒髪が艶やかで美しいけど、氷のような眼に冷淡さが漂い近寄りがたい。
「私がこうして掻っ切ればいいのでしょ? フフフ」
事態を理解した、自信満々な態度の女。首にナイフを当てられている盗賊は観念し、焦って両手を軽く上げる。
「ちょ、ちょっと待て、俺達は伝えに来ただけだ。ちょ、おい止めさせろ」
「リアイズ、もういい。下がっていいよ」
ナイフを下げる女は、ノランデルにリアイズと呼ばれている。
ゆっくりと歩いて、対峙するノランデルの後ろに立つけど隙が無い。あのスタイルはアサシンだな、と思ったら一瞬こちらを見た。
感づかれる前に隠れたよ、フゥ、危ない危ない。気配遮断をしっかりかけて再び覗くと、また俺を抹殺する算談をしている。
あまり時間をかけても仕方がない、行こうか。
剣を片手に扉を蹴破り中に入る。その刹那アサシンの女はいなかった、反応もいいしさすが速いな。
俺を見て驚く盗賊。
「ラ、ラサキ! な、何の用だ!」
「始末しに来ただけだ、運が無かったな」
「ま、待ってくれ、俺達は、ゲフッ」
話半分だったけど、奴らの眼にも止まらない速さで剣を一振り横一線、スーコンの首からゴラウの胸にかけて切り飛ばし、血しぶきを上げて、グウ根のも出さずに倒す。
その間に後方に跳び、構えるノランデル。
「なぜ此処がわかったかは予想外だったが、ラサキには今ここで死んでもらおう」
「上手くいくかな」
ノランデルの持った赤い剣の、構えが中段からゆっくりと上段に変化させ注意を引く。
その時、背後から俺の首めがけてナイフが迫ってくる。盗賊にしたよりも速い動きだ。
だがしかし、そのナイフが首に届く寸前に、リアイズの手首を掴んで男の方向に投げると、受け身をとって翻り男の隣に立った。
「な、チクショウ、今まで失敗なんてしたことが無かったのに、何故わかった」
「何となく背後から極微量の殺気を感じたから。かな」
その会話の間に、ノランデルは腰を落とし居合抜きの格好に変化していた。
俺は言う。
「それがお宅の戦い方か切り札かな、面白い、受けて立とう」
ノランデルはほのかに光る赤い剣に手を掛けながら、じりじり、と詰め寄ってくる。
「最初で最後だ、しっかり味わえよ、ラサキ」
俺もノランデルに合わせて、剣を両手で前に構えながら近寄ると、間合いに入ったのかノランデルが、腰を低くしたまま一瞬で踏み込み横一線、人間業ではない程の速さで抜刀した。
見ていた俺は、剣で受け流し――体が炎に包まれ轟音と共に爆発した。
同時に後方に飛んだノランデルは高笑いを上げる。
「あーっはっはっはっ、この魔剣は炎が宿る剣だ。知った時が最後、死が待っているだけだ」
俺を倒したと確信したノランデル。
「それだけか?」
爆発した炎の中から何事も無かったように無傷で現れる。
反して驚愕し、動揺するノランデルと背後のリアイズ。
「え? な、何で死なない、化け物か?」
「し、信じられない」
コーマに強化してもらった、と言っても信じてもらえないから黙っていよう。驚いているノランデルもつかの間、その首が本人も知らずに落ちる。
鈍い音と共に落ちた頭部を見て、アサシンのリアイズが変な声を上げた。
「へいっ?」
「フゥ、終わったな。で? そこのアサシンの女、どうする?」
言い終わったと同時に、我に返ったリアイズが勢いよく飛びかかって来た。




