第 6話 日常 6
ここしばらく、家造りや畑作りでレムルの森に籠っていたら、三人から皿食皿食と言われ、せがまれていた。
なので、晴れたいい天気の中、久しぶりにシャルテンの町に来て皿食を食べている。
もちろん来るときには荷台の上に、朝獲れた新鮮な猪や鹿の肉を乗せて曳いて来た。ファルタリアの狩り技術も向上しているから、多くの獲物が乗っている。
同行しているサリア曰く、今のファルタリアは、気配遮断や気配感知が魔法を使用していないのに、普通に出来る。
もしかしたら一部の獣人は、何かの経験をすると、そう言ったスキルが身に付くのかな。
ファルタリアに言わせると、
「それは合体ですよ合体。合体によってラサキさんの力が私に入って来たのです。エヘヘ」
と言ったが無視した。
まず先に、肉を売ってから皿食に行こうと準備をして、ギルドの横で店を広げれば、新鮮な肉を心待ちにしていたのだろう、あっ、と言う間に売り切れてしまった。
買えなかった人は悔しがっていたけど、それも運だよ。
今回荷車は、肉類をたくさん積んで使用していたので、車軸が疲労して少し歪んでしまった。なので修理に出して直してもらう。
皿食を美味しそうに食べている三人は、上機嫌でお代わりもしに行った。本当によく食べるね、太らない、と言っているからいいけどさ、沢山食べなよ。
シャルテンの町からの帰り道、久しぶりの道中なので、デート感覚で順番で腕を組んで歩く。コーマ、ファルタリア、サリアの順だけど特に取り決めがある訳では無い。
みんな楽しそうで思わず俺も嬉しくなった。会話も、さっき食べた皿食の事など談笑しながら歩いて帰る。
すると突然、コーマが口づけをして何も言わず消えて行った。
すぐに俺も違和感があったので、サリアに腕から離れてもらって、ファルタリアとサリアは両サイドを並んで歩いてもらった。
嫁になったからなのか分からないけど、二人も察知しているようだ。
そのまま歩いていると、風切音とともに矢が飛んで来た。すかさずサリアの眉間の前で飛んで来た矢を掴み、続いて俺の額に向けて飛んで来たので、顔を傾け余裕で回避する。
「サリアも避けるくらいしないと、刺さったら痛いぞ」
「知っているがや、あたいはラサキの嫁がや、信頼しているがや」
サリアは、飛んで来た矢を俺が掴むのも予測していたようだ。
二人も何が起こったか察知しているので何も言わず、ファルタリアが戦闘態勢で、撃って来た方向に走り出す。援護するサリアは後衛で構える。
居場所がばれた事を察知したのか、街道脇の茂みからフードを被った男が弓矢を構えて出てきた。ファルタリアも視認して一定の距離を保ち構える。
その男の腰には綺麗な赤い装飾を施した剣が納まっている。
ん? どこかで見た事がある剣だな。あ、以前、旅に出る前にシャルテンの町の中で見た男だ。
その男に問う。
「おい、これはどういう事かな。事と次第によってはタダじゃすまないよ」
「ちっ、反応が人間離れしている、くそっ」
男は懐から何か取り出して地面に叩きつけると、煙が吹きだし辺り一面が見えなくなった。
「ハァ、子供だましだな。ん? 男の気配が一瞬で消えたよ、魔法か? 上手く逃げたな」
結構やり手のようだ。サリアの魔法探知からも逃げおおせた。
「逃げ足が速いスキルがや、もうこの辺りには居ないがや」
構えていたファルタリアが、バトルアックスを背中に納め振り返る。
「ラサキさん、どうしますか?」
「逃げたんだからいいよ、帰ろう」
「いいのですか? また来るかもしれませんよ?」
「だからそれでいいんだよ。わざわざ苦労して探さなくても向こうから来てくれれば上々だ」
フードの男を気にする事無くレムルの家に帰った。
家に入ると、コーマがお茶を飲んで待っていた。俺達もテーブルを囲んでお茶を飲み、一息入れる。
「ラサキさん、あの男がまた来るとしたら、この家にも来るのではないのでしょうか」
「そうがや、戦闘準備するがや」
「いや、ああいう男は用心深いから、敵の本拠地には来ないと思う。安心してもいいだろう」
事実、今日の最初の攻撃でダメだと判断したら、すぐに撤退したからね。でも、俺の予想も外れる事もあるから気を付けるとしよう。
結果、この数日は何事も無い毎日を過ごした。
そして今日は朝から、またシャルテンの町に行く。荷車は曳いていないので、また順番に腕を組んで歩く。けど飽きないのかね。
よく考えると、俺は常に腕を組んでいるけど三人は自由な時間があるじゃないか。これは不公平じゃないのか? 俺も歩き辛いから疲れるんだけど……。
「ラサキ頑張って。ウフフ」
「おいコーマ、ウフフ、じゃないだろ」
「たまになんだし、これは夫のお勤めよ。ウフフ」
「はいはいわかったよ、お勤めしますよ頑張ります」
コーマも、俺を読んだり読まなかったりと、気ままに、好きに、楽しそうに過ごしている。いい事だ。
シャルテンの町に入ったら、さっそく皿食を美味しく食べ、出来上がった荷車を引き取りに行き、少なくなった香辛料や塩、酒を購入して荷車に積んだ。
特に酒は、選んで選び抜き大量に購入したよ、俺の楽しみだからね。
今日は飲もう。そう誓って荷車を曳いて家に帰った。
家に着けば日も傾いている。荷物を家の食料庫に運び込み食事の用意を始める。
鹿肉の生姜焼きと蒸かしたジャガイモを作って出すと、待ってました、とばかりに喜んで食べる。
「ラサキ美味しいよ」
「美味しいや、あむ」
「はい、美味しいですね。皿食も美味しいですが、ラサキさんの料理も好きです」
毎日作るのは俺。コーマは別としてファルタリアとサリアは未だに作る気が全くない。
そう思っている時に、ファルタリアと眼が合う。
「え? わ、私は獲物を獲りに行っていますよ。よ、嫁ですから。エヘヘ」
次にサリアと眼が合う。
「あ、あたいは野菜と果物を採って来てるがや。それと縄を編んでいるがや。アハハー」
「いいよそれで。十分だよ、ありがとう。お代わりもあるよ」
そんな二人は可愛いから許そう。もちろんコーマも綺麗だよ。
「ありがとうラサキ。好きよ。ウフフ」
満足している三人を横眼に、外に出て椅子に座り麦酒のグラスに手を掛け、喉を鳴らして一気に飲み干す。発砲した麦酒がのどを潤す。
「クゥー、美味いな」
続いて蒸留酒の入ったグラスを傾け、あおる。
「フゥ、美味い。やっぱり晩酌はいいな」
背もたれに寄りかかり、星降る夜空を見上げて一息ついた。
つまみの、香辛料で焼いた鹿肉を食べ、また酒をあおる。繰り返す事数回、これが至福のひと時だ。
このまま楽しく、俺にとっては贅沢な毎日が送れる事を願った。
ただ、あの男には注意しないとな。次に会ったらけりをつけよう、と心に誓う。
そこに入口の扉から、ファルタリアが可愛い顔を出す。
「ラサキさーん、お風呂入りますよー、来てくださーい」
いつも呼びに来るけど、これも日課か、お勤めか。
「ああファルタリア、すぐ行く」
今日も、わいわい賑やかだ。




