閑 話 ご満悦なのか?
俺を、つがい、と呼び好いてくれている神コーマ。たなびく銀髪が輝いて、スタイルも良く美しい神。
コーマはいつも冷静沈着で、その上、いくら酒を飲んでも酔わない。
レムルの森の家では、俺に付き合って一緒に飲んでも楽しそうにしているだけで、全く顔に出ないし、酔っている様子も無い。
神と言われるだけあって、いつも凄いなと思った。あ、神と知っているのは俺達だけだけどね。
ちなみにファルタリアとサリアは、付き合い程度しか飲まない。
ファルタリアは幼い頃の経験なのか、酒にいい印象が無いようだ。サリアは、飲んだ事はあるけれど魔法の力加減がわからなくなるとの事。
二人は優しいから、たまに一緒に飲んでくれるし、その時は楽しそうにしている。
今夜は家に、ファルタリアとサリアがいない。それは二人がシャルテンの町に行っているから。
実は今夜、年に一度のシャルテンの町で豊作を祝う夜祭りがあるらしく、何度か見ているファルタリアが、その祭りを楽しそうにサリアに教えた。そんな話を聞かされたんじゃ、黙っているサリアじゃなかった。
その流れで二人が、夜祭を満喫したい、と言ってきたので、どうぞいってらっしゃい、と許可した。
ファルタリアに、一緒に行こう、と誘われたけどやんわり断った。だって俺は夜祭より晩酌だよ。
コーマがお勤めでいない中、二人を見送りその夜、つまみになる食事を多目に作って、晩酌の準備をしてから初めて一人で風呂に入った。
俺以外誰もいない風呂……。
いやーいいな、癒されるよ、お湯に手をチャプチャプ当てていたら、改めて風呂の広さを再確認し、嬉しくなってサリアじゃないけど泳ごうかと思ったくらいだ。
今後、たまにはこうして、一人でゆったり、まったり、じっくりと入りたいな。
ゆっくりと堪能して温まって出た後、酒の置いてある倉庫に行く。
どの酒をを飲もうか棚に並んでいる酒瓶を眺めていたら、コーマがお勤めから帰って来て現れ、嬉しそうに後ろから首に両腕を絡めてきた。。
なので今夜は久しぶりにコーマと水入らずだ。
テーブルに、酒を置いて座りくつろぐ。グラスに麦酒を注ぐとコーマも、飲む、と言う事で、もう一つグラスを持って来て、ご希望の葡萄酒を注ぎ乾杯する。
「コーマと二人で飲むのは初めてだね、乾杯」
「ウフフ、乾杯」
隣り合わせで座り、グラスどうしを小突くと、小気味の良い音が居間に響く。こうも静かだとグラスの音も繊細に聞こえる。
コーマは一口飲み、俺は喉を鳴らして一気に飲み干した。
「プハーッ、うまいな」
「フゥ、美味しい、これはラサキと二人だけだから、余計に美味しいのかな。ウフフ」
「今こうして一緒に酒を、美味しく飲めるのもコーマのお陰だよ、ありがとう」
「ウフフ、私も楽しいよ。ウフフ」
俺は蒸留酒に切り替え、小さめのグラスに琥珀色の酒を注ぎ入れ、あおる。
コーマのグラスにも、注いであげた葡萄酒を飲みながら、初めて会ったときの他愛もない昔話しに一喜一憂し、話に華が咲いた。
……そして。
楽しそうに銀髪を揺らし、いつになく美しくも可愛い笑顔が絶えないコーマ。
「今夜は酔わせてもらうわねぇ、あはは、ラサキィ楽しいねぇ、好きよぉ、あはは」
「酔っぱらっていいのか? 珍しいな」
「うん、大丈夫ぅ。ラサキとぉ二人きりだからぁ、今日だけぇー、お酒の免疫を解除してるのぉ、初めてだけど酔うって楽しいねぇ、あはは、気持ちいい―」
「え? 毒耐性を弱めているのか? いいのか?」
「少しだけだからぁ、だいじょぶよぉ」
ほんのり顔が赤くなり、俺にもコーマが酔っている事がわかる。話をしながら更に飲み続け、今まで飲まなかった度数の高い蒸留酒に手を付けた。
そんなコーマは、楽しそうに美しい銀髪を揺らしている。話の合間に時折俺を、じっ、と見つめる深紅の瞳もまた美しかった。
……そして。
「美味しいねぇー、ラサキィ―、楽しいぃ―、あははぁー」
「なあ、そろそろ耐性強めたほうがいいんじゃないのか?」
「まだまだだいじょぶよぉ。楽しいんだからぁ、ラサキは邪魔しないのぉ。アハハ」
え? なんだかコーマが壊れだしたぞ。楽しそうだけど、大声になって笑いながら隣で俺の背中を、バシバシ叩くコーマ。
……そして。
酒を注ごうとするコーマの手が揺れて零しそうなので手を添えてあげる。けど、勘違いするコーマ。
「ルァサァキィー、あらしのさけがぁ、のぉめないのかぁ? ええぇ?」
「飲み過ぎだよコーマ。そろそろお開きだ、顔を洗って寝ようか」
「にゃにおーう? あらしがぁ、よっぱらかってるってえぇ? そういうかぁ? どのくちがぁそういうんだぁ? ええぇ? どのおくちだぁ、ルァサァキィー」
「……いいから寝るよ」
俺は手足をばたつかせているコーマを、ひょい、とお姫様抱っこすると急に嬉しそうになって両手を俺の首に絡ませ抱きついて来る。
「うひゃひゃ! らさきぃー、すきよぉ。うひゃひゃ、あいしているわぁー」
まだ足をバタバタしているコーマを、抱き上げたまま部屋に連れて行く。
「わかったよ。ゆっくり寝なよ、お休み」
「わらしのことぉ、好きかぁ?」
「勿論好きだよ。愛している」
「うひゃひゃ、あらしもぉ、あいしてるぅ」
納得して嬉しそうなコーマを、ベッドに下ろし出て行こうとしたら。今度は焦点の合わない深紅の眼で俺を睨むコーマ。
「らんでぇ、いっしょじゃぁ、らいろかぁ? あらしをひろりにするきかぁ?」
もう少し飲みたかったけど、今夜は仕方がないか。コーマに近寄りベッドに座る。
「そんな事しないよ、開いている扉を閉めただけだよ。一緒に寝よう」
コーマの隣で横になったら、俺に両手を回し、頭を胸にぐりぐり押し付けてへばり付いて来る。
「きょうはぁ、ちぎりだよぉ、ちぃぎぃりぃ、ルァサァキィ、はやくぅ」
「だーめ。コーマは飲み過ぎだから今日は寝なさい」
「ええぇ? いやだぁぁぁ! なくぞぉぉ!」
「酔ってるからまた今度ね」
「らぁさぁきぃ、あらしはぁ、いまぁぁ、しあわせぇ……う、う、うえぇぇぇん」
「支離滅裂だな、飲み過ぎだよ、お休み」
コーマの背中に手を回し、軽く優しく叩いてあげたらすぐに、スゥスゥ、と寝息を立てて眠るコーマ。 初めての事だな。二人きりだから羽目を外したのだろう。
それもまた可愛かったし一興だよ、人らしく羽目を外す一面を見せたコーマも覚えておこう。……何だか少し嬉しかった。
翌日は、何事も無かったように、二日酔いも無かったように、覚えているか知らないように、いつものように眼が覚めるコーマ。
「ラサキ、おはよう。昨日は楽しかった。ウフフ」
「それは何よりだよ、コーマが楽しめたのなら良かった」
「幸せ、私はラサキとめぐり合えて本当に幸せ、好きよ……ん」
窓から日差しが入り込む。欠伸をしているコーマが寝ているベッドを降り、朝食の用意をしに部屋を出る。
――今日もいい天気だ。
日も高くなり、そろそろファルタリアとサリアも帰って来る頃だろうし、今夜は夜祭の話題で盛り上がるのかな。
今日も、楽しい一日でありますように。




