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第 5話 日常5 手合せ

 サリアが剣で受けたあれは、魔法の力で怪力の一撃を受けているのだろう、でないと納得する事は出来なかった。

 でも、いくら魔法と言えどあの一撃を動かずに受けきるとは大したものだよ。さすが魔女。


「今度はあたいの番がや」


 踏み込んだサリアの速さは、ファルタリアにも負けない速さだった。

 サリアは腰を落とし、白髪をたなびかせ剣を片手に持ち替えて、下から逆袈裟懸けですれ違いざまに切りだした、けどそこはファルタリア。いとも簡単に軌道上でバトルアックスで止め受ける。

 サリアは通り抜け瞬時に反転し、また同じ攻撃を二度繰り返す。その尋常ではない速さに、ファルタリアも反撃が出来ないで防戦一方だ。

 うん、フェーニ達の戦い方に似ているな。

 そしてまた同じ攻撃をファルタリアが受けた瞬間、サリアの魔女たる強さを垣間見た。

 同時にもう片方の手で至近距離から攻撃魔法のファイアーボールを無言で放ち、ファルタリアが炎に包まれた。

 いくら魔法を警戒していても、これは避けられないよ。これが樹海の魔女の力か。

 しかしこれは、軽い怪我じゃ済まないだろ、ファルタリアは大丈夫か?

 吹き飛ばされて横たわる、黒い煙を上げている見るも無残なファルタリア。

 すぐにサリアが治癒魔法で、焼け焦げたファルタリアを治した。これもまた凄い事を簡単にしているし。

 傷が治り目を覚ますファルタリアは、上半身を起こし疲れたように話す。


「フゥ、勝てるとは思いませんでしたけど……負けましたか。サリアさん強いですね」

「あたいが負けたら魔女の威厳に関わるがや。でも、ファルタリアも強いがや、威張っていいがや」

「ありがとうございました。まだまだ精進します」


 項垂れてはいたけど、納得した表情だね。サリアはサリアで当たり前のように宥めているし。

 もしかしたら、俺より強いのかもしれないな。それでまた一つ疑問が出た。


「なあサリア。そんなに強い上に、妖精たちに生活の教えを貰っていたのなら、一人で世に出て旅をすればよかったんじゃないのか? 今さらだけど、その流れで好きな人を探せばもっといい人とめぐり合えたんじゃないのか?」


 そう言い終わると、予想に反して、大粒の涙を流し始めているサリアが俺に食って掛かる。


「ラサキだけがや。あたいは優しいラサキだけが好きがや。何でそんな事言うがや。う、う、うわぁぁぁぁん」


 走り寄り抱きついて、顔をうずめてくるくるサリア。


「わ、悪かったよ、ごめんごめん」


 うわっ、ファルタリアにも睨まれているし、これは地雷と言うやつだったか。今後は注意して踏まないように気を付けよう。

 抱きついて顔をうずめているサリアの頭を、謝りながら撫でていたら落ち着きを取り戻す。

 廻していた両手を離し、今度は首に回してくるから腰を落として合わせるように口づけをした。

 納得したのか離れると、後ろで耳をピコピコさせ、嬉しそうな顔をしたファルタリアが待っていた。はいはい、次ね。

 機嫌も直ったサリアが話してくる。


「ラサキも手合せするかや? 胸を貸すがや。ラサキが負けてもあたいの愛は変わらないがや。心配いらないがや」

「じゃ、胸を借りるとするか」


 強気だな、でも本当に気が抜けないぞ。あの攻撃もそうだし、まだ隠し玉があるかもしれないから注意しよう。

 ファルタリアは少し離れて、観察するように傍観している。偉いな。

 俺と対峙するサリア。


「ラサキ、行くがや」


 言うと同時にあの素早い攻撃が来た。なるほど、常人であれば防戦一方の戦いになるくらいサリアの動きは俊敏だ。

 ただ、身体能力の向上した俺は難なく剣で受ける。そして数回、攻防したらファルタリアの躱せなかった攻撃魔法が来る。

 その差し出す剣を持っていない手も一瞬前に見極めて、手の動きが見えるから手首をしっかり掴んで違う方向に向けると、無詠唱で大きいファイアーランスが勢いよく放たれた。

 おいおい、俺を殺す気か? 大きすぎだろ全く。

 掴んだサリアの手首を引き寄せ、剣の握り手でサリアの頭に拳骨を落とすと「ぴゃんっ!」と悲鳴を上げて転がり、これで終了。


「おいサリア、魔法が大きすぎだろ、俺を殺す気だったのか?」


 頭を両手で押さえながら起き上がる涙眼のサリア。


「ラサキだからがや。その位しないと勝てないがや。まだ全然小さいがや」

「でも今後は気を付けるようにな」

「ラサキは強いがや。さすがあたいの旦那様がや。アハハー」


 見ていたファルタリアも興奮している。


「凄いですよラサキさん。やっぱり強いですね。私はラサキさんにメロメロですぅ。ハァハァ」

「ファ、ファルタリア? こ、興奮しないようにね、まだ昼間だからさ」


 ファルタリアは、両腕を胸辺りで組んで余韻に浸りながら、うつむいて話す。


「わ、私はいつでもいいですよ。すぐにデレて頂いてもいいのですよ。いつものように受け止めますよ。って、あれ? ラ、ラサキさん? ラサキさーん、待ってくださーい」


 話しをしている途中で、無視してサリアと歩いて家に帰る。後を追ってくるファルタリアは、ああ言う性格だから気にしない。

 家に近くなり居間の窓からコーマが果物を美味しそうに食べているのが見えた。俺達を見て窓越しに手を振るコーマ。

 返答するように手を振り家に入る。


「――お帰り」

「ただいま、コーマ。お勤めご苦労様。寂しかったよ」

「ウフフ、私に慣れて来たね、でも嬉しい……ん」


 立ち上がり、俺の首に両腕を回して口づけをしてくるコーマ。

 先ほど口づけを済ませた二人は、コーマに挨拶だけしてその横を通り過ぎ、鍛錬した汗を流すのに風呂に行く。

 振り返った笑顔のファルタリア。


「ラサキさーん、お風呂で待ってますよー。エヘヘ」

「待ってるがやー」


 そう言っているうちに、ここで素早く衣服を脱いだ全裸のコーマが、顎を風呂に振って話す。


「ラサキ、早く」

「え? あ? コーマも? あ、ああ、今脱いで行く」


 で、いつものように変わりなく、四人仲良く風呂に入った。あ、ただ最近は必要最小限の会話だけで静かに温まっている。

 サリアが歌うちんこの歌も飽きたのだろう、浮かんで漂っているだけだ。俺としてはとてもいい事だと思うよ、やっと精神的にも安堵する。

 日も暮れて暗くなり、夕食を作る。出来上がりテーブルを囲み談笑し、楽しい夕食のひと時。

 俺も晩酌して、料理を食べる至福の時間。

 そして夜も更けて行く。

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