第 2話 日常 2
これで仲良く風呂に入れるな、と思っていた矢先、コーマが現れ、一緒になって素早く全裸になった三人が風呂に入って行く。
一度、扉の前で振り返るコーマ。
「ラサキ、早く」
「あ、ああ、今行く」
旅行していた時の、町の宿と変わらない大きさの風呂。俺の両側にはコーマとファルタリアが寄り添って並んでいる。
一方仰向けでお湯に浮かび漂いながら、ちんこの歌を歌っているサリア。これが定番になるなのかな。
「おいファルタリア。輪唱しなくていい」
「ちーん、ええぇ? いいじゃないですかぁ、我が家だから誰も聞いていないですよ。それに、ちんこの歌の輪唱も楽しいですよぉ」
最近は強く反論してくるファルタリア。
「そ、そうか。ならいいか」
「ウフフ、ラサキ、私も楽しいよ」
何だか負けた気分なので、ファルタリアの大きくなっている尻尾を掴んで引き寄せてモフッたよ。
急に輪唱を止めて、赤ら顔になる嬉しそうなファルタリア。
フフフ、なるほど、こういう時はモフればいいのか。よし、覚えておこう。
数日に一度はシャルテンの町に行って、みんなで楽しく美味しく皿食を食べている。
今日も皿食を食べに来て、四人テーブルを囲み談笑しながら食べた。
皿食屋を出た後、ギルドにやって来て、受付のレニに、帰ってから一度も見かけないネリセルの事を聞いたら、冒険者になって各地を回っている、との事。
そうか、頑張っているんだな。
もう一つ、お願いをしてギルドマスターのウルバンさんに頼んだら、二度返事で快く了承してもらった。
それは、獲った獣の肉をギルドの横庭で庇の付いた台を作り売る事だ。ただこれは不定期で販売する。
町の中は知っているし特に見る場所も無いし、皿食を食べにくるついでだったからさ。
資金は十分あるけど備えあれば憂いなし、猪や鹿を獲っては荷車を曳いて売りに行った。
特に売れなくても時間つぶしには丁度いいし、商に合っているのか結構楽しい。仮に余ったとしても施設に寄贈すればいいや、みたいな乗りで始めた。
だがしかし、場所が良かったのか売りに出せばすぐに完売した。嬉しい誤算の俺達は肉を売ってから皿食を食べるようになった。
そしてまた、資金が溜まって行く。
俺達は自給自足だし、皿食と香辛料、塩等以外は金がかからない。
あ、そうそう俺は変化があったよ、実は酒を飲み始めたんだ。酒を買い込みレムルの家に持って帰り飲んだ。
麦酒や葡萄酒、蒸留酒を飲み始め比べて見た。
麦酒は昔と同じく泡の香りと苦みで喉を鳴らして飲んだ。葡萄酒はコクと酸味、甘みが調和されて味わうように飲んだ。
蒸留酒はアルコール度数が高く、福与かな香りと濃厚な旨味で強い酒だったから少量づつ口に含んで味わい飲んだ。久しぶりに飲んだ酒はどれも美味いな。
でもおかしい事にも気が付いた。
普通、酒を飲めば酔っぱらう。これは昔も今も変わらないはずだった。
俺も飲む量を、どれだけ飲めば酩酊するかは知っているつもりだ。
だがしかし、気持ちよく酔う感覚はあるものの、どれだけ飲んでもそれ以上は全く泥酔しない、酩酊もしない。
俺を読んだのだろう、隣で一緒に飲んでいたコーマが擦り寄って来た。
「あ、ラサキ、ごめん。お酒にも強くしておいたのを忘れていたわ。ウフフ」
「なんだ? それ。まるで酒豪だな」
「その方が沢山飲めるでしょ」
「アハハ、ありがとうコーマ」
「ところでコーマは酔わないのか?」
「普段なら酔わないしましてや飲まない。ラサキが一緒だから制御を弱めて飲んでいるの。ウフフ」
銀髪を揺らしながら話す、赤ら顔のコーマも珍しいな。少し酔っているのかな、その容姿が可憐で綺麗だった。
「ラサキさーん、また二人の世界ですかぁ? ズルいですよぉ」
「ずるいがやラサキ。あたいもかまってほしいがや」
「ああ、悪かったよ、ごめんごめん」
勿論ファルタリアとサリアも葡萄酒を飲んでいる。二人はすぐに酔うようで、すでに頬は真っ赤になっている。
普段は飲まない二人だけど、たまに俺につきあってくれた。
俺は酒を飲んで昔を思い出し、一人で飲みたいと思っていたんだけどこうして付き合ってくれているから無理だった。
嫁が三人もいれば誰かしら一緒だから、一人になんかなれやしないからね。
それに、俺の順番のお勤めも増えたから尚更だ。
だが、しかし、ダメもとでテーブルを囲んでいる三人を前に聞いてみた。
「あのー、お願いがあるんだけど。いや、頼みがある」
「何?」
「何ですか? 改まって」
「何かや?」
「たまには一人で飲みたいんだけど……」
「いいわよ」
「いいですよ、飲んでください」
「いいがやいいがや」
あ、簡単にまとまった。何だ、もっと早く言っておけばよかったな。気が変わらないうちに、さっそく一人で飲ませてもらったよ。
三人は居間でテーブルを囲んで座って、ファルタリアを中心に、ちんこと夜伽の話を楽しく談笑している。
俺は外の椅子に座って、窓から漏れる光の中、テーブルに蒸留酒を置いて飲む。蒸留酒の瓶を傾けグラスに注ぎいれ、おもむろにあおる。
魔物も出ない森からは、虫の音が至る場所から奏でられている。晴れた星降る夜空を眺めながら昔を思い出した。
「フゥ、美味い。――よく安酒を飲んだ店の名は何だったかな」
忘れてしまった。そして二杯目をあおる。
「――贔屓にしていたあの高い女の名は何と言ったっけ」
思い出せないな。それだけ今が充実しているからか。事実、今は昔より楽しく暮らしている。
俺には勿体ないくらい気の合う? 三人と会えて嬉しいしさ。ろくでなしだった俺が、コーマと出会った事で今を生きている。
俺にチャンスをくれ、好いてくれたコーマと、俺の何処がいいのか知らないけど、嫁になってくれたファルタリアとサリアに乾杯しよう。
「ありがとう、乾杯」
星空を眺めて乾杯の酒を一気にあおった。
そんな時、背後から両腕を俺の首に回し頭の上に顎を乗せるコーマ。読んでいたのだろう、たわわな双丘が後頭部に当たって気持ちがいい。
「ウフフ、ありがとうラサキ。私は今幸せよ」
「ああ、俺もコーマに感謝しているよ、ありがとう」
頬に口づけをしてくれたコーマ。そして沈黙のまま夜空を見ていると、ファルタリアとサリアも外に出てきた。
「抜け駆けはずるいですよ、コーマさん」
「抜け駆けはダメがやー」
「ウフフ」
結局一人の時間は終了して、いつもと変わらない賑やかで楽しい夜になった。実感したよ、俺は今、幸せなんだな。
今日も充実し、楽しい夜は更けて行く。




