第 7話 襲われた
今日は早めですが、よろしくお願いします。
敵はガエルを含む武装した五人。全員冒険者なのか?
先頭にいる一人の男が俺に切りかかってくる。あ、剣筋が見えるよ、コーマの言った通りだ。左、右と切りかかって来るが、俺も軽く合わせ剣で受ける。
今度は俺が男に切りかかる。男は咄嗟に剣で受けたが、俺の力が上だったのか、剣を落とした。その隙に袈裟懸けに切り倒す。
血しぶきを上げて倒れる男。身体能力が上がり、思考と行動が合致するとなんて楽なんだろう。
そう思っていたところに後ろから殺気が来た。振り向けば別の男が切りかかって来ていたが、間一髪、剣で受け流し、横から脇腹に突き刺した。引き裂くように剣を抜くと倒れ、動かなくなる。
あと三人。
「ガ、ガエル。俺達じゃ無理だ、勝てないよ」
「いいから行けよ、オラッ!」
押し出される男。怯えたようだが、切りかかって来たので剣で受け、男の右腕を切り落とした。左手で右腕を抑え、悶絶して倒れる男。もう戦意喪失している。
あと二人。
「俺は嫌だあっ!」
男が走って逃げて、暗闇に消えて行った。
「チッ、どうしようもねえ奴らだ」
ガエルが俺を睨み剣を構える。他の男達とは違う雰囲気だ、強いな。素早い動きがあるから気をつけないと。
踏み込んで来るガエルは、連打で撃ち込んできた。速いな、でも見える。
コーマの言った通り、動体視力も格段に良くなっている。良くなり過ぎじゃないか? ただ、他の男達より力は凄かったな。並大抵の受けだったら剣が吹き飛んでいる。
一度距離を獲った。
「ハァハァ、お前は何者だ? ラサキ。ハァハァ、俺の攻撃を受け止めるくらいなら、名前が知れ渡ってもおかしくないのに。ハァハァ」
「最近越して来たんだよ。この森にな」
「ふざけやがって。行くぞっ、死ねっ!」
あの瞬間移動の技が来た。一度見ているし構えていたので避ける。ガエルは、俺が避ける事を見越していたかのように、瞬時に止まり、剣を振り降ろしてきた。
俺は剣で受け、すかさず下から力いっぱいかち上げた。ガエルの剣が手から離れ、夜空に飛んで行く。
「なっ」
ガエルが驚愕の表情になり、膝を地面について両手を手を前に出した。
「ま、待ってくれ、ラサキ。悪かった俺の負けだ」
「何を言っているんだよ、ガエル。これは殺し合いだろ。ここで許したら他の奴らが可哀そうじゃないか」
「た、頼む。助けてくれ、後生だ」
俺は何も言わず、ガエルを袈裟懸けに切り倒した。助けてくれると思ったのだろう、驚きながら血しぶきを上げて倒れるガエル。残念だったな、俺は優しくないよ。
本当に一八歳ならまだしも、四〇年生きて来た経験で、この状況で助けていい事なんかない。むしろ逆だ。こういう奴は必ずまた襲って来るからな。
右手を切り落とした男は、いつのまにか居なくなっていた。町まで逃げたのだろう。血の匂いに誘われて、魔物が襲ってこない事を祈るよ。
終わった事を知っているかのようにコーマが出てくる。
「終わったみたいね。ラサキは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。コーマのお陰で強くなっていたよ」
「ウフフ、良かったね」
「人を切るって事は好きじゃないけど仕方がないな。また明日、ギルドに行って来ないとね」
死体はそのままにして家に入る。
翌日、コーマはまた俺の胸を枕に全裸で密着している。慣れてきた俺もおかしいのかな。
明るくなっている外を眺め、死体がそのままなのを確認する。――ん? おかしくないか? コーマを揺さぶって起こす。
「コーマ、起きてくれ。コーマ」
「んー、おはよう、ラサキ。なに?」
「死体がそのまま残っているんだよ、おかしくないか? 普通、魔物が出る森だったら血の匂いを嗅ぎつけて来るのに」
「あー、ごめん。この周囲だけ、あと、ラサキに魔物除けしてあるの。魔物が来ると面倒くさいから」
「ああ、そうなんだ……え? そんな事も出来るのか?」
「うん、ラサキと私だけね。森の中や町に降りた時も魔物は出なかったでしょ?」
ああ、確かに一度も出会っていない。凄いな、コーマ。
「ご飯食べようよ、ラサキ」
「今作る。その前に、後ろから両手を回して全裸のまま密着している体を離してくれ。あと、頬擦りもね」
「ウフフ、だってラサキの背中が気持ちいいんだもん」
料理を作り、食べる。美味しそうに食べるコーマ。こうやって見ていれば、可愛いんだけどな。いや、俺の好みだからいつも可愛いよ。
「ありがとう、ウフフ」
「だから心を読むな。――ゆっくり食べなよ」
その後、俺はシャルテンの町に入りギルドに行く。コーマは、関わりを持ちたくないので消えている。
ギルドマスターのウルバンさんに面会を頼み、事の真相を話そうとしたら知っていた。あの場所から逃げ帰った男が、ギルドまで来て話したそうだ。
ガエルと一緒にいた四人は、いつもガエルに逆らえない冒険者だった。
俺は、男が逃げ帰った後の事、遺体がまだある事を話した。
ウルバンが数人を連れて、俺の案内で山に入り遺体のある場所に着いた。
三人の遺体を引き揚げたが、右手を失った男はシャルテンの町に戻らず、行方不明になっていた。多分、夜の森を一人で逃げたが、血の匂いに誘われ魔物に襲われたのだろう。そうなったら骨も残らない。 運が悪かったな。
ウルバンが俺の家を見る。
「いい家だが……よくここで暮らしていられるな。大したものだよ」
「ええ、お陰様で」
「明日またギルドに来てくれ」
ウルバンもそれ以上は話さず、他の男達も無言で遺体を包み、運び出して行った。夜には、シャルテンの町に着くだろう。
俺が見送っていたら、家からコーマが出て来て、後ろから抱きついて来た。
「おかえり、ラサキ。終わったみたいね」
「一応はね、遺体を検分でもするんだろう。明日結論が出るんだろうな」
「そう、明日は一緒に行こうかな。皿食も食べたいし」
「皿食か。そうだね、ギルドに行った後に行こうか」
辺りが暗くなってきたので、家に戻り、皿食の事など談笑しながら二人仲良く夕食を食べた。
そして夜も更けて行く。