第68話 旅行も終わりだ
元いた森に戻って見れば、不自然にも木のテーブルが幾つか置いてあった。その一つの上にはたくさんの見た事が無い果物が置いてある。
それを見たサリアが言っていたけど、精霊達の今できる精一杯のお礼だそうだ。
一つ手に取って食べたら美味かった。柑橘系だけどとても甘く、上品な美味さだった。コーマも現れて三人も手に取り美味しそうに食べていた。
この森だけに実る果実、だそうだ。
サリアに説明してもらったら、この森の精霊は共に体長三〇センチ程。四種の精霊が住んでいる。
ウンディーネ 水を司る精霊 蒼い髪と青い羽根を持つ
シルフ 風を司る精霊 白い髪と透明な羽を持つ
ノーム 地を司る精霊 茶色い髪と薄茶色の羽根を持つ
ドライアド 木を司る精霊 緑色の髪と緑色の羽を持つ
みんな透き通ったような可愛い女の子、だそうだ。
へぇ、見えないけどそんなにいるんだ。説明を聞いていたら空から女の子の声がする。
「私達の住処を守っていただいてありがとう。代表してお礼を申し上げます。私はシルフのリズレアーナ」
「俺はラサキだ、連れはファルタリアとサリア」
話し声だけで見えない。サリアが、精霊のシルフが降りて来て隣のテーブルの上に立っている、と教えてくれた。
「ラサキさん、ファルタリアさん、武器をテーブルに置いて下さい。磨きをかけ手入れをして差し上げます」
鍛冶職人でもあるノームが手入れをしてくれるらしい。なら断る理由は無いからお言葉に甘えてお任せしよう。
剣とバトルアックスを、果物が乗っているテーブルと別のテーブルの上に乗せる。
何処かに運ぶのかと思ったら、その場で研いでいるのか刃先が光り始めた。これが地の精霊ノームの力なのかな。
光が無くなり終わったようだ。さっそくファルタリアがバトルアックスを手に取り振っている。
「いいですね。切れ味は勿論いいとして、重心が変わって扱いやすく良くなっています」
その言葉に俺も剣を手に持ってみる――本当だ今までと違うな。
何が、と言われたら言い辛いけど、振る、切る、受ける動作をしたら今までより楽に動ける。
精霊の力は凄いな、驚いたよ。
剣を鞘に入れ、果物を食べながら話を聞いた。俺とファルタリアは見えないけど、リズレアーナが立っているテーブルに向く。
するとまたリズレアーナの声が聞こえる。
「私達精霊は、この森に一五〇年以上前から住んでいます。しかし五〇年程前、森の横に人の手によって小道が作られました。」
リズレアーナ曰く、気には留めなかったが、森に入って来る人が出始めた。荒らされたくなかった精霊達は、拒んで迷わせたりしたけど逆効果だった。
なら話をしようと、幻術を掛けて宿に泊まったように見せかけ、その時に、精霊の森だから来ないでくれ、と忠告したけどこれも失敗に終わった。
しかしこのままでは不味いから記憶を消して解放した。
なるほど、精霊達もひっそり暮らしていたのに、飛んだ迷惑だったんだな。
話しを聞き終えた俺達は、旅行の途中、と簡単に話をしてレムルの森に住んでいる事も話した。
精霊の事は何も話さないと約束してエリーナの森を後にする。部外者は邪魔だからね。
でも、精霊達の反応は違った。
代表してリズレアーナが話してくれた。
リズレアーナ曰く、いつの日か俺達の住むレムルの森に、それも俺の家の近くに精霊が住む。
全体が引っ越してくる訳では無く、数人の精霊が移動して定住場所を検討していたから丁度いい。
いつかは決まっていないが確約する。精霊が住むと良い森になる。
何にしても結構な事だ、ありがたいな。精霊達に感謝しよう。
エリーナの森を出る時、俺とファルタリアには見えないから知らないけど、サリアが教えてくれた。
「何人もの精霊が手を振って見送っているがや。ラサキは気に入られたがや」
そう言われても見えない。でも、森に振り返って笑顔で、さよなら、の手を振った。釣られて三人も手を振った。
サリアに聞いたら見送っていた精霊達が飛び回って喜んでいたそうだ。
エリーナの森を後にした俺達は、小道を北に向かって歩いている。途中、西に向かう道があった。
その行き着く先はタレーヌの丘がある。でも行かない。その場所は戦争が起こるであろう舞台だからね。
一日歩いたら木々の間から山が見えた。更に歩くと北に行く道は、前方に見える山を迂回するように右にそれている。
ファンガル国で購入した携帯食を食べながら歩く。さすがに残りも少なくなっている。
実を言うと、エリーナの森を大きく迂回しながら北に進めば、シャルテンの町に辿り着く。そう、俺達の旅行の出発地であり最終地だ。
王国と帝国を回り込むように一周したんだ。そしてもうすぐ旅行の終わりが待っている。
「旅行も終わりが近づいているね、楽しかったな」
コーマも満喫したのかな。読んだのか、腕を組んで来る嬉しそうなコーマ。
「ウフフ、ラサキと旅行が出来て楽しかった」
ファルタリアは感慨深いようだ。
「ラサキさんとの旅行はとても楽しかったです。思い出したら涙が、ううぅ」
泣き始めたファルタリアの横を歩くサリアは、樹海の外に出て楽しい事ばかりだっただろうね。でも、思い出すよりも興味はもう別の所にあった。
「もうすぐラサキの家かや? 家は大きいのかや? あたいの部屋はあるのかや?」
心配そうなサリアに、泣き止んでいたファルタリアがいたずらっ子の笑顔で答えた。
――え?
「エヘヘ、サリアさんには私の部屋をあげますよ。お世話になりましたからね」
「そうかやそうかや、ありがたく使わせてもらうがや、アハハー」
ファルタリアの奴、あとで揉めるなよ、もう一部屋あるのにさ。
更に歩く事一昼夜、山を迂回して小道を歩けば、懐かしくもある見慣れた街道に出た。いつも通っていた道だけどここに小道があったんだな、わからないものだ。
右に向かうとシャルテンの町だけど、俺達の家は反対だから左に歩く。
そして日も傾く頃、街道から家の入口に向かうレムルの森を上がって行けば、前方に家が見えて来た。
一番興奮しているのは先頭を歩くサリアだ。振り返りながら話す。
「あれかや? あの家かや? 早く行くがや、アハハー。ギャ」
あー、また後ろ向きに転んだ。気を付けような。すぐに立ち上がって気にする事無く小走りで進んで行ったよ、元気だな。
我が家に到着。何も変わっていない、出発した時と同じままだ。
様子を見ても、フェーニ達は来ていない。
家に入れば埃が溜まっていたから掃除をして綺麗にした。保存食の肉も大丈夫だ、使える。
ファルタリアに野菜と果物を採りに行くように言ったらサリアも一緒に付いて行った。楽しいんだろうな。
その間に肉を水で戻し、仕込みを始めたらコーマが後ろから抱きついて来る。
「ラサキ、本当に楽しかった。ラサキが私を見つけてくれなかったら何も出来なかったもの。嬉しい、ありがとう」
「俺こそ礼を言うよ。ありがとう、コーマ、楽しかったよ」
離れ振りかえれば、濃厚な口づけが待っていた。あー、もうそろそろか。覚悟を決めよう。
「ラサキさーん、たくさん採れましたよー」
「この森は凄いがや。野菜も果物もたくさんあるがやー」
「二人ともありがとう。夕食を作るから向こうで待っててくれ」
肉野菜炒めと蒸かしたジャガイモを三人に出した。そして俺の分も並べる。
食べ始める三人。
「久しぶりに食べるラサキの料理だけど美味しいよ」
「ラサキさんの料理が食べられて幸せですぅ」
「美味しいがや、美味しいがや。ラサキは凄いがや。あたいも幸せがや」
「それは良かったよ。お代わりも作ったからどうぞ」
食べながら四人仲良く旅行の事など談笑して夜は更けて行く。
食後やはり一悶着ありました。ファルタリアの部屋を使わせてもらったサリアは、嬉しそうに部屋に入って行く。
そしてベッドに寝転がる。
「ん? あれ? あたい一人かや? ラサキはどうしているかや?」
一人部屋を出て俺の部屋に入る扉を静かに開き、顔だけ覗きこむ。そこには広いベッドの上に俺、コーマ、ファルタリアが横になっている。
その光景をみて、当然の如く、必然の如く、泣き出したサリア。
「うわぁぁーん、ズルいがや。あたいだけのけ者かや? うわぁぁーん」
そのまま飛び込んできた。
「ほら見ろ、ファルタリアが悪戯するからこうなるんだよ」
「エヘヘ」
「エヘヘ、じゃない」
四人だと少し狭いけど我慢しよう。このベッドも大きくしないといけないな。
定位置を確保したサリアは安心したのかすぐに寝息を立てていた。
戦争が起こらない事を祈るよ。
この先も、みんなと楽しい平和な生活を満喫したいと切に願います。
――やっぱり嫁になるのかな。
これにて第一章が閉幕です。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
目標としていた連日の投稿で疲労困憊です。
いっぱいいっぱいだったので、この先のプロットがまだありません。
これから休養を兼ねてプロットを作りたいと思います。
よろしければ、のんびりとお待ちいただければ幸いです。
よろしくお願いします。




