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第67話 発散した

 ファンガル中立国を出て、南に戻ればペコムの村から来た道。西に向かう道を行けばアルドレン帝国。

 北西に向かう道を行けば、戦争の舞台になるであろう場所。北に向かう細い道を行けば、エリーナの森に行き着くと言う。

 これが先日、ギルドで聞いた事だった。

 なら、行く先は決まった。ペコムの村には戻らないから、これから進む先は、エリーナの森だ。

 さらにギルドで聞いた事だけど、エリーナの森は、人を拒んだり招き入れたりするらしい。

 拒まれば、迷わされて強い魔物に襲われたり、酷い時には全滅もある、のだとか。

 逆に、招き入れられたら、宿が現れ泊まれるらしい。ただ、泊まれた誰もが宿の内容を話さない。

 と言うのも、宿に泊まった事はおぼろげに覚えているけど、何一つ思い出せないらしい。どんな宿か、主人、料理、部屋、何もかも。

 人によっては全て幻だった、と言い出す始末だとか。

 ここ数年は、誰も泊まれた事はおろか、エリーナの森に入った事も無くなった。そして今では誰も話さなくなった。

 ただ、その森の横を通り過ぎる分には、問題ないらしいが気分も良くないので通る人も少ないのが今の現状らしい。

 面白いね、余計に行きたくなったよ。何が待っているのか、楽しみだな。


 日も昇り、天気も良く、軽快に爽快に、ファンガル国の皿食のや風呂の事など談笑しながら歩く。

 エリーナの森に向かう景色は、岩山から徐々に木々が見え始める。更に歩き続け、日も沈む頃、景色は森に変わっていた。

 草木や太い樹木も多く緑豊かな深い森。まるで樹海そのものだ。星空も見えない程濃く、真っ暗な道。

 普通なら何も見えないから危ないし当然野宿だろう。

 しかし、この森での野営は厳しそうだ。明かりを付けたら、魔物に打って付けの餌になるからね。

 俺達四人は何事も無く、楽しそうに談笑しながら歩いている。いや、俺は聞いていない、聞く耳を持たなかった。

 それは、三人でちんこの話や肉奴隷の話で盛り上がっていたから。

 最近は何も言わなくなったからって、こう大っぴらに話さなくてもいいと思うんだけどな。

 今は他に聞いている人なんていないからさ、どうぞ話に華を咲かせてください。

 あ、とうとう今度は、ファルタリアがちんこの歌を歌いだしているし。サリアも輪唱するなよ、恥ずかしいな。

 歩く事しばらく。日が昇り始めたのか、薄暗くなる。辺りは樹海そのものだ。携帯食を食べながら歩き続け、さらに進む。


 昼を過ぎた頃、森の中に入れる小道を見つけた。人は通れるけど、けもの道、と言った方がわかりやすいか。

 多分これが、エリーナの森の入口だろう。

 中に進んでみよう。さて俺達は、招かれざる者か招かれる者か、怖くも楽しみだ。念の為、辺りを警戒しながら進んで行く。

 しかしながら、コーマだけは俺と腕を組んで楽しそうに歩いている。何かあったらコーマは消えればいいからね。


「ウフフ、ラサキ、楽しいね」

「コーマが楽しいなら何よりだよ」


 前を歩いているファルタリアとサリアが振り返る。


「いいなぁ、コーマさん。次、私ですよぉ」

「あたいは最後でいいがや。ちゃんと待っているがや」

「狭い小道で腕を組んで歩き辛くないか?」

「楽しいよ、ラサキ。ウフフ、変な国よりよっぽど楽しいよ」


 あ、根に持っているね、何気なく根に持っているね、神なのに。


「たまにはいいじゃない。私はラサキだけなんだから」

「ああ、悪かったよ」

「いいのよ。ウフフ、愛してる」


 コーマが離れた後は、順番に腕を組んで歩きました。

 歩き辛いのに、と思っていたら。ファルタリアもサリアも、腕を組む、と言う行為が重要なんだそうだ。

 そうなんだ、俺には理解できないけど、二人が言っているんだから理解するよう努力しよう。

 更に歩き、エリーナの森の奥地に入って行く。何も起こらないし、拒まれている様子も無い。

 木々がさらに濃くなった。これはもう樹海レベルじゃないな。歩く事もやっとの密林地帯だよ。するとサリアが理解したようだ。


「ラサキ、わかったがや。この森は精霊の森がや。向こうにいっぱいいるがや」


 コーマも知っていたようで同調する。


「そうね。精霊が生活している森ね。でも様子がおかしいよ」

「本当がや。おかしいがや」


 俺とファルタリアは全く見えないけど、二人には何かが見えているのだろう。


「サリア、何がおかしいのか?」

「精霊や妖精は普段、楽しく飛び回っているがや。でも、この森の精霊達は荷物をまとめて移動しようとしているように見えるがや」

「引っ越しか?」

「本来それはないがや。精霊はその場所を定住と決めたら、そこが消滅するまで動かないがや」

「じゃあ、この森が消滅するのか?」

「違うがや。みんな焦っているがや。何かが迫って来るから仕方が無く逃げようとしているがや」


 話しを終えたサリアは、何かを感じ取ったのか密林の中を掻き分けておくに進んで行く。俺達もサリアの後を追った。

 少しして濃い樹木が切れる小高い丘に出た。その先を見下ろしながら一望できる場所だった。

 青い空と流れる白い雲、木々の緑との色合いの景色は見事な綺麗だったよ。これこそ絶景だな。しかし、サリアが指差し声を上げる。


「あれが原因がや。何かがこっちに迫って来るがや」


 サリアの指差した方向を見下ろせば、まだ距離はあるものの数百体もの魔物の群れが、俺達のいる方向に向かって来ている。

 魔物の姿が確認できる距離まで来たけど何かが違うぞ。確かに魔物だけど昆虫みたいだな。そうだ、バッタだ。

 体長二m程で茶褐色のバッタの群れが、草どころか強靱な牙で太い木々まで切り倒し、食べながら一直線に向かって来る。

 通り過ぎた後ろ側は何も残っていない。草木を全て食べ尽くしていた。あ、そうか、それで精霊達はこの住処を諦めて逃げようとしているのか。

 それは可哀そうだな、ここは一肌脱いであげよう。


「ファルタリア、サリア、あの魔物と戦って見るか」


 俺の言葉に驚くと思ったら返答は違ったよ。


「あ、それはいいですね。久しぶりの討伐です。切れ味試しに行きましょう」

「やるがや、やるがや、アハハー」


 何だ? 欲求不満だったのか? 二人ともいつになく嬉しそうだな。


「私は消えるから頑張ってね……ん」


 コーマは俺の首に両手を回して口づけしながら消えて行った。

 じゃ、始めよう。高台にいる俺達に対して、魔物の先頭は下方一〇〇m程先から草木を食べながら迫ってくる。

 二人を余所に高台から飛び降りた。思ったより跳躍が大きすぎたか? と思ったのはすぐに取り消した。

 とりゃーっ! と飛んだファルタリアは俺の先に着地して、地面を陥没させていたけど気にしないで進んで行ったよ、凄いな。

 更に強靱になったんじゃないのか?

 サリアは、風魔法で同じ位置に静かに降りた。魔法使いは便利なものだ。


「ファルタリアもサリアも思い切りやっていいよ。ここなら誰も文句は言わないからさ」

「イヤッホーッ! 全力で行きまーす」

「やるがや、やるがや、枯渇するまでやるがや、アハハー」


 んー、ちょっと挑発し過ぎかな、程々にお願いしますよ、二人とも。

 前を進む二人が魔物を視認したようだ。

 開口一番サリアが両手を前に出す。


「魔物を大爆裂するがやー!」


 サリアの手の前に幾何学的な魔方陣が何層も展開される。その先に炎の塊が飛んで行き魔物の頭上で轟音と共に爆発した。

 木々が揺れ、爆風が巻き起こる。


「大爆裂するがやー!」


 お構いなしに爆裂呪文を連打して放つサリア。それこそ全力だな。

 サリアのお陰で楽な展開になった。先頭の中心から後ろに向かって爆裂魔法を連打して、右にこぼれた魔物をファルタリアが切り倒し、左は俺が切り倒していく。

 魔物の攻撃も直線的な鋭い牙だけなので切り倒おすのは簡単だ。ただし、多数を相手に出来ればだけど。

 あ、失言でした。

 ファルタリアは、バトルアックスを高速回転させて振り回し、今までのうっ憤を晴らすように、軽快に爽快に豪快に魔物を切り刻んでいるし、余裕さえ見せている。

 唯一残念だったのは、勢いが付きすぎて派手に転んで鼻血を出していた事だな。手で押さえろよ、何で顔面からぶつかるのか未だに理解できない。


 大半の魔物を倒すと、逃げようとする魔物も出て来るけど回り込んで切り倒す。

 サリアも、範囲魔法から単体攻撃に変更していた。


「打つがや打つがや打つがや」


 次々といくつもの魔方陣から展開される氷の矢が魔物の群れに突き刺さる。俺もファルタリアも、目の前にいる魔物はこぼさず倒していく。

 魔物が大きく飛び跳ねて逃げようとする事もあったけど、そこはサリアの攻撃魔法に任せた。


 終盤はあと数体が残っていたけど、一目散に逃げて行くので追わなかった。考えてみれば可哀そうだよ。

 魔物にも訳があるのだろうし、勝手に数が増えてそれでも生きて行かなきゃならないし。生きるために進んだら、こうやって討伐されるし。

 俺達に会った事を悔やむよ。矛盾を言っているけど、何か虚しさを感じた。

 でも仕方がないか、自然の摂理より自分可愛さが勝つのはどの世界でも同じだからね。

 ――気持ちを切り替えよう

 そして、魔物を討伐したファルタリアとサリアは十分楽しんだみたいだな。


「気持ち良かったですね、あー楽しかった」

「加減しないから面白かったがや、アハハー」


 君たち二人が魔物に見えたのは気のせいにしておこう。

 魔物が見えなくなった事を確認して三人仲良く戻った。

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