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第66話 しつこかった

 聞こえちゃったし……行って見るか。厳つい大男と女店主だろうか、何やら揉めていた。


「何、人の体触ってんだよ! この助平野郎! 私の店はそんな店じゃないよ!」

「少しぐらい触っても減るもんじゃないだろ! サービスしろよサービス!」

「その前に金を払いな! 払ったら中に入る事を許すよ!」

「付けときな! フン、じゃあな」

「待ちなよ! 金を払いなよ!」

「うるせぇ!」

「きゃ!」


 男が女主人を突き飛ばした。それだけならまだしも、そのまま女性に殴り掛かろうとした所で、男の腕を掴んで止めた。


「止めときなよ、大の男が女性に手を上げるとは、恥ずかしくて見てられないな」

「なんだと? じゃ、お前が殴られとけっ!」


 掴んだ手とは反対の拳が飛んで来る。避けていなして、掴んでいる手を後ろ手に回し、締め上げる。


「いだだだっ。は、払う、払うよ。払います。いだだだっ、払わさせてください」


 手を緩めると、男は肩を差すって、女店主の言う金額を支払った。初めから素直に払えばいいのに。

 女店主はファルタリア達に起こされていた。


「ありがとうよ兄さん。助かったよ」

「いいんだ、通りがかりだったしな」

「女二人をはべらせているとは豪儀だね。よく見りゃいい男さね。飲んで行くかい? 一杯奢るよ」

「いや、行く所があるから遠慮しとくよ」

「そうかい、残念だね。期会があったら来てよ。一杯は借りにしとくよ」


 そう言って酒場に入って行った。威勢のいい綺麗な姐さんだな。そろそろ酒も飲みたくなって来たよ。

 人助けか、今日は変な日だな、本当に。

 ギルドに付いて、ファンガル国の隣接する町を聞いて帰った。


 その夜、居間でファルタリアとサリアを前に、出立の事など談笑していたら扉を叩く音がした。コーマじゃ無い事は確かだけど誰かな。

 扉を開けば、ダマナクテアと頭巾を被って身を隠す人が立っている。眼が合ったダマナクテアが話しかける。


「夜分に申し訳ありません。宜しければ中に入れていただきたいのですが」

「どうぞ」


 二人を部屋に招き入れた。ファルタリアとサリアには悪いが、部屋で待つように指示した。素直に部屋に行く二人。

 テーブルの横にある椅子に座ってもらう。


「悪いな、椅子しかないんだ」

「いえいえ飛んでもございません。急に押しかけた私が悪いのです」

「で? 俺に何の用かな」

「はい、私どもは今、隠密に動いておりまして、ファンガル王国の騎士団とは関係がございません」

「ダマナクテア、面倒事は御免だよ」

「はい、それは重々承知しております」

「ならいいけど、その隣の王女様が関係あるのかな」

「フフフ、さすがラサキ殿。お分かりでしたか」


 頭巾を取れば、あの縦ロールのディーテ王女が顔を出した。


「そのディーテ王女が何のようかな」


 俺の質問に、ダマナクテアは答える。


「実は本日、ラサキ殿を試しておりまして」

「ああ、あの子供と老人か」

「おお、既にお分かりでしたか、さすがラサキ殿」

「違うよ、今言われてから思い出したんだ。それが何の試になるんだ?」


 俺に向いた、ディーテ王女が赤ら顔で話し始める。 え?


「ラサキの優しさが十分見えました。だから、副団長とは言わぬ。私の婿に来てはいただけないだろうか。この上ない話しだと思うが」


 はい? 何を言っているんだこの王女。狂ったのか? いや、違うな。ダマナクテアもいるんだから何か裏が、いや、策でも考えているのか? もう少し様子を見よう。


「王女様は俺の事、よく知らないですよね。何処の輩か知らないのに婿にするなんておかしくはないですか?」

「ラサキの対応は素晴らしかった。今後はファンガル中立国に必要な存在だと思っている。だから婿に迎えたい。いや、ラサキは何もしなくて良い。全て私に任せていただければ悪いようにはしない」

「なんだ、やっぱり国絡みじゃないですか。俺を取り込んでおけば、いざって時に駆り出すのも楽だし。王女の婿って肩書が物を言うんですよね。それこそ、ご遠慮しておきます」

「う、しかし、ラサキ。それでもいい話しだと思わないのか? 何も起こらねば、悠々自適に過ごせるのだぞ?」

「もう止めましょう。どんな事があっても辞退します。それに、俺には嫁にする約束をした女性がいます」

「で、では一番で私が」

「一番の約束をしていますから無理です」

「で、では、意に反するが二番で」

「いえ、二番も決まっています。ついでと言えば三番も決まっています」

「ヒョエ? さ、三番までとは」


 変な声を発した王女。黙っていたダマナクテアも降参気味だ。


「致し方ありません。これでは引き下がるしか、無いようですね」


 さすがに四番では無理だと感じたのか項垂れるディーテ王女。


「残念だが、ダマナクテアに従うしか方法は無いようですね」


 色々やりとりはあったけど、最終的にはこの話は、無かった事、となって帰ってもらった。


「フゥ、疲れた」


 王女って言うのも大変なんだな。ダマナクテアが言ってたけど、第一王女は別として、第二王女以下は政略結婚の対象になるんだって。

 ディーテ王女も自分の意見も言えず、好きでも無い俺みたいのと結婚させられるんだから、可愛そうと言えば可哀そうか。

 ダマナクテアも何も言えないみたいだし、そんな事を聞いたら王国は好きじゃなくなった。また来られても困るから早く出立しよう。

 ディーテ王女とダマナクテアが、帰った事を確認したファルタリアとサリアが部屋から出てきた。

 二人で聞き耳を立てていたな。ま、そうなるよな、わかるよ、その気持ち。まずファルタリアが抱きついて来る。


「ラサキさーん、嬉しいですぅ。しっかり二番と言っていただいて……んー」


 次はサリアが、俺の首に手を掛けてぶら下がるから中腰になってあげる。


「嬉しいがや、ラサキ。あたいも三番と言ってもらえたがや……ん」


 順番に口づけしたよ。でも、誰が何番、とは言っていないんだけどな。自分らで取り決めているんだからいいのか。


 翌日は、携帯食を買いに行ったり、商店を見て回ったりして出立の準備をした。皿食の時だけコーマが現れて一緒に食べ、早く行こう、と急かされた。

 その夜は、最後の日だから、と四人仲良く一緒に風呂に入って、俺の隣で嬉しそうに寄り添うコーマ。

 ファルタリアの尻尾をモフる俺。赤ら顔で嬉し恥ずかしのファルタリア。仰向けで、水面を漂うサリアはいつもの如く。


「フフーン、フーン、ちーんこちんこ。ラーサキさんのちんこ。ラーサキさんのちんこは、でっかいちんこ。フーン、フフーン」


 これも楽しいひと時だった。レムルの森の自宅にも、このくらいの風呂があったら楽しいな。期会があったら考えよう。

 そして翌日早朝、外はまだ暗いけど宿を出た。俺達三人は、足取りも軽くファンガル国に入って来た道を戻る。

 検問所に差し掛かると、もう順番待ちの列があって並んでいたよ。俺達も最後尾で順番を待つ。

 でも、国を出て行くときは入国するより楽みたいで、番が来るのは早かった。

 俺とファルタリアが証明書を出す。ファルタリアはすぐに返され出て行くけど、門番は俺の事で何やら話をしている。

 不味いな、ダマナクテア絡みか?


「ラサキと言ったか。証明書には何ら問題は無い。が、少し待つように」

「問題が無いなら遠慮しておきます」


 俺は、門番の持っていた証明書を素早く取り返すと、横にいたサリアを担ぎ上げ、一目散に走り出した。

 静止するよう呼び止められたけど、無視して走った。関係ないファルタリアも、俺に習って走っている。

 門番も追っては来ないから大丈夫だろう。しばらく走ったところでサリアを下す。ん? サリアがおかしいぞ?


「ラサキに抱かれたがや。アハハー。ラサキに抱かれたがや。アハハー」


 担ぎ上げただけだよ……嬉しそうだから、異論を唱えるのは止めておこう。

 さあ出立だ。

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