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第64話 面倒だった

 俺は、ダマナクテアに向かって最大限の殺気を向けると、すぐに両手を前にだし反応する。


「お、お待ちください。し、失礼しました。冗談ですよ、ラサキ殿。貴方と敵対していい事などありませんので」


 やはり、ダマナクテアは色でわかるようだ。


「俺もファンガル国を相手に敵対したくはないよ、いい国だしさ。一組の旅行者だと思ってもらえれば、観光したら静かに出て行くよ」

「良い話しだと思ったのですが、残念です。では今後、ラサキ殿ご一行には何の手出しもしない事をお約束します。ごゆっくり我が国を観光して頂きたい」

「それはありがたいな」

「では失礼します。ごきげんよう」


 ダマナクテアが馬車に乗り込み、扉が閉まって走り去って行った。

 国単位となると、計り知れない奴が出て来ても可笑しくは無いか。勉強になったよ、今後は気を付けよう。


「フゥー、危なかったな。生きた心地がしなかったよ。ダマナクテアか、体に悪いな」


 そこに、動かなかったファルタリアとサリアが両側から抱きついて来た。


「ラサキさんは凄いです。あの暴風のような威圧の中を、物ともせずに冷静に話をしているなんて、やはり師匠です」

「凄いがや、ラサキ。あの威圧の中で平然としているだけでも凄いがや。ましてや普通に話しをしていたがや。あたいは、あの男が怖くなったがや」


 ダマナクテアが途中から威圧を掛けていたらしいけど、全く感じなかった。それもあったから、素直に引き下がったのかな。

 ま、良しとしておこうか。


 翌日朝から宿の正面に、あの黒塗りの豪華な馬車が止まっていた。入口には、ダマナクテアが立っていて、俺を待っていたらしい。


「おはようございます、ラサキ殿。先日は突然の事で大変申し訳ありませんでした。しかし、王城に報告をしました処、直接話がしたい、と言う事になり、私、ダマナクテアは本日、ファンガル中立国を代表してお伺いした次第でございます。つきましては、王城にお越しくださいますよう、節にお願いいたします」


 深々と頭を下げるダマナクテア。立ち位置も大変なんだな、お気の毒に。しかし、公式に来たのかよ、参ったな。

 一度行くしかないようだな。


「サリア、ファルタリア。ちょっと言って来るよ。観光して待っててくれ」

「ラサキ、気を付けて行くがや」

「ラサキさん、何かあったら助けに行きますよ」


 俺は馬車に乗り込み、王城に連れて行かれた。

 馬車で揺られる中、同乗しているダマナクテアは、瞑想しているのか目を瞑っているので、考える。

 俺みたいな一冒険者でも呼ばれるなんて、ファンガル国を侮っていたな。

 まだ中立国だったからいいようなものの、戦争をしようとしている王国や帝国だったらどうなったか。

 つくづく行かなくて良かったと思う。

 しかし、中立国とは言っても昨日の事もあるし、最悪の事態を考えれば個人対国か? いくらなんでも無理だろ、勝てる訳ない。

 さっきのダマナクテアの態度なら、何かするつもりも無いようだから大人しくしていよう。

 王城の広間に通され、少し待つ。

 すると、前方の一段高くなっている場所に、騎士に見守られた女性の姿が見えた。少し離れた横には、着飾った侯爵らしき人が十数人も座っている。

 俺の隣に並んでいるダマナクテアが、真似をしてください、と言ってきたので、それに合わせ、同じように俺も膝間付いた。


「表を上げよ。私はファンガル中立国、第二王女、ディーテ、ラドバリタ、ファンガル」


 頭を上げて第二王女を見た。

 身長一五〇センチ程で、腰まである縦ロールの金髪。豪華な衣装で身を包んだ、凛々しい王女らしい王女だった。

 うん、綺麗は綺麗だな。


「ラサキ。と言ったか。我が王城に呼んだのは他でもない。先日、ダマナクテアの要請にも耳を傾けなかった。と聞くが本当か?」


 何だよ、昨日は話も終わって、何も手を出さない、って言っていたのに。と横目でダマナクテアを見れば、申し訳なさそうに下を向いていた。

 あ、第二王女か誰かのわがままか? ダマナクテアも大変なんだな。


「はい、本当の事です。私は旅行者で、この国には観光で滞在しているだけです。事と次第によっては、すぐにでも出立しファンガル国を出て行きます」

「しかし、腑に落ちない。ファンガル中立国の副団長の座につけば、安泰な生活が送れ、将来も約束されたような事であろう。何故拒むのか聞きたい」


 事と次第によっては捕縛されるのかな。でも正直に話そう。


「はい、私は貴族や皇族、騎士などの地位には全く興味は無く、ましてや御仲間入りしたいとも思いません」


 俺は訴えた。普通の旅行者だと言う事。自宅は森の中で、仲間と楽しく過ごせればそれでいい。

 戦争になりそうな事は知っている。なので王国と帝国には行っていない。ファンガル国に来たのは中立国だから観光に来た。

 それ以上でも以下でもない。


「なので、旅行が終わったら、レムルの森で静かに暮らします」


 俺の話を聞いて、貴族がどよめく。その中の一人の男が声を上げた。


「レムルの森だと? あの森は魔物の森ではないのか?」

「はい、その通りです。その魔物のお陰もあって、盗賊にも襲われず安心して住んでいます」

「何と言う事だ。それだけ貴様が強者なのか」

「普通の冒険者です」


 聞いていたディーテ王女。


「それでも我がファンガルの騎士団に入っては貰えぬのか」

「申し訳ありません」


 その時、一人の侯爵らしき男が大声を上げる。


「ならば、その男を捕縛せよ! 拘束して締め上げれば、服従するだろう!」


 声に反応した騎士十数人が、俺の周囲を取り囲んだ。ああ、やっぱりこうなるのか。

 さて、実力行使で全員殺すか。そこに、ダマナクテアが、俺の前に背を向けて立ちはだかり、侯爵に向けて歩き出しながら声を発する。


「止めていただきたい。今ならまだ間に合います。公爵様、すぐに手を引いてください」


 ダマナクテアの声に、ディーテ王女も手を前に出し声を上げた。


「下がりなさい」


 しかし、その声も虚しく同時に発した侯爵の声が一際大きく、掻き消される。


「怯むなっ! 捕縛しろっ!」


 騎士の一人が俺の体を掴んだとき、騎士達の横に踏み出しながら剣を抜き、瞬時にすり抜けた。

 その瞬間、取り囲んでいた騎士の上半身と下半身が、声もあげられずに分断され崩れ落ちる。

 屍の山から見る見る血の海が出来上がった。

 その惨状に、何が起こったかわからない侯爵達は声が出ない。ディーテ王女は両手で口を押えている。

 ダマナクテアも言葉を失っている。


「で? どうする? 今ならここに居る全員、瞬時に切り倒す自信はあるけど。動いた奴から切り倒そうかな」


 そう言った俺に、愛国心の高い騎士が、壁の陰から弓矢を放って来た。飛んで来た矢を手で掴むと驚愕の顔になる騎士。

 すぐに矢じりを持ち替えて強めに投げ返し、その騎士の額に突き刺さって貫通し倒れる。


「次、誰がやるんだ? 早くしろよ侯爵。何なら動かなくても順番に切り倒してやろうか」


 動かない侯爵達。ファンガル国か、ここまで来たら俺も腹をくくろう。

 いつの間にかダマナクテアは、驚きで声が出ないディーテ王女を守っている。

 王女とダマナクテアに向かって発言する。


「王女様、ダマナクテア、失望したよ。何だったら今から一戦交えますか? 俺は一向に構いませんよ。俺はこの、中立国、と言う国で理不尽な目にあったんだ。勝てるとも思いませんけど、渾身の力で抗って見せましょう。王女様は巻き込まれない事を願います」


 俺は士気を高め、渾身の殺気、覇気を解放すると、広間全体が震えるように振動して、立っている侯爵が一人、また一人と気を失い倒れる。


「残念だよダマナクテア。昨日の紳士的な態度に騙されたな」


 ディーテ王女の前に立ち、守っているダマナクテアが、両手を前に出し大声で止めに入る。


「ラサキ殿! ご無礼大変申し訳ない。敵対しないので、ここまでで気持ちを沈めていただけないだろうか」


 我に返った、ディーテ王女。


「し、失礼した、ラサキ。貴殿と敵対しようとは思わぬ。気を静め、この事は忘れて貰えればありがたいのだが」


 どっちが悪いとは言わないけど、いい加減だな。でも、強く言っても仕方がない。そっちは被害が出ているからね。


「はい。王女様がそれで良ろしければ、何も無かった事にしますが」


 二人とも安堵の表情になり、ディーテ王女が話す。それに引きかえ、ここぞとばかりに侯爵達が逃げるように奥に引っ込んだ。


「おお、ありがたい。この度の殺生は仕方がないと諦めよう。私の一存で、ラサキには今後手出しをさせない事を約束しよう。ゆっくり我が国を堪能して下され」


 その後、俺は馬車に乗せられ宿屋に帰り解放された。同乗していたダマナクテアは終始謝っていたよ。

 第二王女もいい人らしく、団とは関係なく力になって欲しいそうだ。はい、とは言わなかったけど、そのくらいだったらいいかな。


 さて、まだ時間も早いけど、嫌な事は忘れて風呂に入ろう。

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