第63話 今度は国だった
宿を探して歩いていたら、さすがファンガル王国。地域の案内所の建物があった。
そこで宿の場所を聞いて行って見たら、十数軒の宿屋が軒を連ねて立ち並んでいる。この地域は宿屋街と言った所か。
宿屋を見回しながら四人で歩いていると、呼び込みの女の子が気が付いて話しかけて来た。
「お兄さん、お兄さん。奴隷が二人もいるのなら何かと大変でしょ。うちの宿は、大型の四人用ベッドがあるよ。更に、金額が高くなるけど、一緒に入れる大型の風呂付があと一つで満室だよ。どうする? お兄さん」
いや、もう三人が宿に入って行っちゃったから決まりです。呼び込みだけあって、話も上手く商売上手だな。
人を見ただけで希望する部屋を見抜くとは、これはもう職人だよ。でも、俺の事をどう見ていたのだろうか。
聞いてみたいけど、後悔しそうだから止めておこう。
案内された部屋は、広くていい部屋だった。ベッドも四人どころか、その倍は寝られるよ。
風呂も、呼び込みが言っていた通り偽りなく、泳げるほど大きかった。これならサリアが、思う存分に漂えるね。
ここは国の宿屋だし、宿泊料金が高くないかと心配になったけど、部屋に見合う価格だったので安心した。
むしろ良心的だったので、この宿を拠点にしよう。
しばらく滞在する事を伝えると、宿屋もしっかりしているね、保証金として二週間分前払いで支払った。
風呂に入ろうと部屋に戻ったら、既に三人が入っていた。お、これなら三人が出た後に入れば、ゆっくりと癒される一人風呂だ。と考えていた。
しかし、それは無駄に終わったよ。一糸纏わぬ濡れたコーマが風呂から出てきた。相変わらず、艶っぽく色っぽく絵になるいい体だ。
「何しているの? ラサキ、早く来て」
「え? あ、う、うん」
コーマの誘いに断りきれず、入ってしまいました。いつものように、コーマが隣で俺に寄り添う。
反対側にファルタリアがいるのでモフッている。案の定、サリアは仰向けに浮かんで、ちんこの歌を歌いながら、漂っているし。
ま、いいか、と諦めよう。三人とも早くから入っていたらしく、先に上がる、と出て行った。
あー、いいなぁ、久しぶりにゆっくりと風呂を楽しんだよ。温まりながら、ファンガルの国の過ごし方を考える。
広すぎて、どうしたものだかよくわからない。取り敢えずギルドか案内所で聞く事にするかな。
ベッドで寝ころべば、俺とファルタリアは疲労が溜まっていたので、疲労しないコーマと回復魔法のあるサリアを余所に、すぐに爆睡した。
翌日は、ギルドに行って、どんな依頼があるのか見て、他の町との違いを探ってみる。
コーマは宿を出てから消えていない。ファルタリアとサリアが掲示板を見に行っている。
けど、いい顔していないな。俺も見に行ったけど、依頼は少なかった。いや、言い方を買えよう。
護衛の依頼は、今までの他の町の比ではない程多かったけど、魔物の討伐は二件だけで、それも数週間規模の長期間。その他、人探しが一件だけだ。
確かにファンガルの国は、周囲が切り立った山と谷に囲まれているから、魔物は来ない。
唯一と言えば、飛来する魔物だったけど、わざわざ人ごみの中に来る事は無いだろう。
この国の冒険者は、主に護衛専門として受けているようだな。
護衛の依頼は、面倒だから受けない事にした。広い国だから、散策していれば面白い事でもあるだろうしさ。
別に急いでもいないから気長に行こうか。
それから防具屋に行って、サリアの装備を購入した。皮の胸当てと手甲、ブーツくらいだけど気休めにはなるだろう。
タペトの村の魔物退治は防具無しだったからね。いらないと思うけど、念には念を入れておかないと。
あれ? 喜ぶと思ったら、自分の胸とファルタリアの胸を見比べて悲しい顔になっている。
「皮の胸当ての大きさが違うがや。ファルタリアと形が全然違うがや。あたいは引き立て役かや?」
「サリア、似合っているよ。とても可愛いよ」
「ほ、本当かや? なら良しとするがや。アハハー」
俺の回りを走り回って喜んでいる。サリアは単純で、いや、素直で良かった。三五七歳になっても素直な事は良い事だよ。
それから数日、俺達は宿屋を拠点に、散策しては皿食屋、散策しては風呂とのんびり過ごした。
国も規律正しいし、街並みも綺麗だし、商店を見て回るのも面白いしね、これも普通に楽しかったよ。
三人も、美味い皿食を食べて国を見て回り、充実していたようだしさ。
そんな時、腕を組んでいたコーマが何かを察知したようで俺に話す。
「ラサキ、何か変、消えるよ。サリア、これは独り言。すぐに魔力を消した方がいい」
コーマが消え、それに合わせて落ち着いてサリアが魔力で魔力を隠して歩き出す。歩き出して少ししたら、前方から黒塗りの豪華な馬車が走ってくる。
ファンガル国の貴族か王族か、その黒塗りの馬車は俺達の横で止まった。
俺達には関係ない。偶然だろう、と歩き出したけど、馬車の中から野太い声で呼び止められた。
「そこの御三方。少し話をさせていただけまいか」
俺達が振り向いて馬車を見る。ゆっくり扉が開いて、出てきた男は黒づくめの服で牧師のような姿だ。
肩まである灰色の髪に光る眼。え? 眼球が宝石で光っている。それで見えるのか? でも、俺達に向いているのだから見えるのだろう。
言わないようにしないとな。しかし、サリアが構わず食いついた。
「ラサキ。あれは何かや? 宝石の眼で見えるのかや?」
「サリア。そう言う事は言ってはいけないよ。人には人の事情があるんだからね」
「あ、失礼したがや、ゴメンがや」
その男は、笑って話しかけて来る。
「アッハッハ。よく言われるから気にしていませんよ。私はダマナクテア、以後お見知りおきを。吸い込まれるように綺麗に見えませんか? この眼は真実が見える竜神眼と言います」
「その竜神眼は、俺達の姿が普通に見えるのか?」
「全て見えますよ。御三方も建物も空も全て色の形で見えています」
「色で識別?」
ダマナクテア曰く、建造物は緑系、構造の違いで少しずつ濃さが変わる。
人は肌色で、男は濃く、女は白に近い。獣人は種別にもよるが茶色系、景色は青系、雲や煙は白……云々。
おいおい、くどくど話し始めたぞ。そこまで細かい説明いらないよ。色の話に興味ないしさ。
俺は、ダマナクテアの話の途切れ目にくぎを刺す。
「で? 俺達を呼び止めたのはどうしてかな」
「あ、これは失礼。耳障りでしたか、私とした事が」
「そうじゃないけど、訳が聞きたい」
「なるほど。そうですね、まずバトルアックスを背負っている獣人の女性は、異常な強さをお持ちですが、それは問題ではありません。次に、奴隷の女性は隠し事をしていますね」
不味いな、サリアが魔女だとバレたのか? いや待て、まだ決まった訳じゃない。
「フフフ、私は色で識別すると言ったでしょう。奴隷でありながら、強さと力量を全く感じません。それがおかしいのです。竜神眼でもはっきり見えないとは。何か途轍もなく大きな力を持っていますね」
参ったな、やはりサリアが魔女だと確認しているのか? 出方次第によっては、一戦交えるか。と、思っていたらダマナクテアが俺に向く。
「フフフ。まあ、それは良しとしましょう。いいのですよ、今回だけは大目に見ましょう」
フゥ、助かった。ダマナクテアは結構寛大なのかな。
「私が興味を持ったのは、貴方です。ラサキ殿。強い力をお持ちだからこそ、その二人が従うのでは?」
「お、俺? 何でまた。しがない冒険者なのに」
「いえいえ、ご謙遜を、ラサキ殿。貴方が世界最強だと、私はすぐに理解しましたよ」
やはり色で見えるのか? いや、これはコーマの力だし、そんな訳ないだろ。
でも、一発で見抜いたから本当か。
「どうして俺が最強だと思うのか? 何かの間違いじゃないのか?」
「思ってなどいませんよ、事実を言っているのです。私には見えるのですよ。人族は、肌色と言いましたが、武人は別です。強い冒険者や騎士、剣士など、強い人ほど黒に染まって行きます。今まで最強と言われていた人族は漆黒でした。フフフ」
「一応聞いておくけど、俺は何色に見えるのかな」
俺の質問に、自信満々の笑みで答えるダマナクテア。
「はい、ラサキ殿は銀色です。フフフ、人では無い色です。代々伝わる古文書によれば、この色が出せるのは太古の世界において頂点に君臨した、竜族、竜人族の強者に匹敵します。この私も初めて拝見させていただきました」
「それこそ間違いだろ。俺はごく普通の冒険者なんだけど」
「いえいえ、今も眩しいほど銀色に輝いています。して、話と言うのは他でもありません。我がファンガル中立国の騎士団、それも副団長に入団して頂きたく馳せ参じた次第でございます。勿論、領地、屋敷もご用意します。ご了承いただければ、後ろのお二人も同隊中隊長各に入っていただきます」
「強いかどうかは別として、申し訳ないけど、その申し出は受けられない。戦闘は嫌いだし、旅行中でもあるし」
「では、強制、と言ったら? どうしますか? ラサキ殿」




