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第62話 大変そうだから次だ

 ソニアが下を向き独り言を言い始めている。


「ダンジョンが出来たら来る人が増える。増えたら受付が忙しくなる。忙しくなったら大変になる。大変になったら代わりが居る。でも、代わりはいない。大変になってもいない。いない……どうしよう。ううぅ」


 あ、今度は泣き出した。両手を顔に当てて号泣し始めた……こうなるか。村長に言い直す。


「メラニさん。人が居なくて、この先大変になるんだったらダンジョンを公表するのを少し待って、人員確保してからでいいんじゃないか? 知っているのはここにいる俺達だけだし、ダンジョンは逃げないよ。そんなに、急ぐ事ではないんじゃないか」


 俺の話に安堵するソニア。


「そうですね、段取りして準備して、人を確保してから始めればいいのですね。村長、そうしましょう」

「そうね、混乱してしまったわ。コホン、出来る事からゆっくり進めましょう」


 居づらくなったので、そそくさと村長の家を出る。


「フゥ。どうなる事かと思ったよ」


 ファルタリアが横で歩く。


「ダンジョンが見つかると、色々、大変なんですね」

「ギルドがあれば簡単なんだけどね、ペコムの村には無いからな」


 前を小走りで回るサリア。


「でも楽しかったがや。アハハー。また行きたいがやー」


 ダンジョンの話が広まれば、ダンジョンで繁盛しているヴェンタの町のように大きくなって、活気に満ち溢れるようになる。

 将来のペコムの村の財を稼ぐ事が出来るだろうね。これで安泰だよ。

 そろそろペコムの村も終わりだな。俺達も宿に帰って出立の準備をしようか。


 出立当日、宿代と食事代は村長が支払ってくれていた。それと携帯食も四つ用意されていたよ。

 魔物の討伐のお礼だそうだ。これはありがたく頂いておこう。

 さあ出立だ、歩き出そう。

 ファルタリアとサリアは、後ろ髪をひかれる思いみたいだな。


「二人残って未踏破のダンジョン行って来れば? お宝があるかもよ。俺とコーマは先に行っているからさ。後から追って来ればいいよ」

「そんなぁ、一緒に連れて行ってくださいよぉ。私の事、好き好きですよねぇ」

「冷たいがや、ラサキは冷たいがや。一緒に行くがや」

「ウフフ、好きな人には苛めたくなるのかな。ウフフ。でも私は苛めないのね、嫌いなのかな」

「な、何を今さら言っているんだよ、読んでて知っているだろ」

「ウフフ、さあどうかしら」

「なんだ、やっぱりラサキさんは、私の事、愛しているんじゃないですかぁ。いつでも私の胸に飛び込んで来てもいいんですよぉ」

「ラサキは、勿論あたいを愛しているがや。アハハー、胸揉むかや?」


 歩き出して早々にそんな話をしたよ。はぁ……。

 ペコムの村から行けるのは、来た道を戻るザルダ山。西に行く街道のアルドレン帝国。そしてもう一つ、北に向かう街道。俺達四人は、北へ行く街道を歩いている。

 先にあるのは国だ。帝国でも王国でもない国で、言わば中立国。ファンガル中立国に向かっている。

 ソニア曰く、切り立った岩の山々に囲まれ、中央に国を置き、その周囲を深い谷で囲まれた国。

 ファンガル中立国に入るには、国の東側にある、一本の大きい橋のみ。

 橋の外側、つまり国に入る人から見たら、橋の手前になる場所に検問所が建っていて、大きな両開きの扉が建物の前と後ろに二重にある。

 普段は開いているが、何かあればすぐに閉まる。検問所を通れれば橋を渡り、晴れてファンガル中立国に入れる。

 中立国の定義は、他の国と戦っても勝てる程強く武装している国。その為、常に強い冒険者を探しては引き抜いている。

 戦争にも加担しない独自の武装国家。

 ファンガル中立国は、活気に満ち溢れた国だと言っていたし、消去法でもここしかないから行く事にした。

 国は初めてだから楽しみだな。


 一昼夜歩き、景色は森からの岩場に変わり、平坦な道から上りの道になった。徐々に切り立った山が近づいて来る。

 携帯食を食べ、更に一日歩くと、切り立った山の中腹に沿って歩いている。谷の底を見るファルタリア。


「ラサキさん、この谷は深そうですよ」

「高いがや、凄いがや」

「そうだな、落ちたら止まらなそうだな。気を付けよう」


 俺達は、万が一を考えて街道の山側を歩いて進んだ。

 切り立った山を抜ける頃、日が昇って山の頂から日差しが差し込む。照らされるようにファンガル中立国が見えた。

 ソニアが言っていた通り、この場所から見える景色は、壮大に見下ろせた。

 切り立つ山を斜めに削り取ったような傾斜の中、一番高い場所に王城があって、そこから下に広がるように街並みが形成されている。

 谷との境には、灰色の塀が国を取り囲んでいる。岩と同調色にしたのかな。


「ラサキ、綺麗ね」

「うわぁ、綺麗ですねぇ。国も大きいし、美味しい皿食屋がありそうですね」

「綺麗がや、ラサキ、綺麗がや。楽しいがやー」

「楽しみだな、行こうか」


 街道は東に向かい、ファンガル中立国を横目に、一路検問所を目指す。やはり国は広く、到着する頃には、すでに昼を過ぎていた。

 さすがに国だから、検問所は行きと帰りで別々だったよ。さらに、二か所に別れて効率よくしている。

 それでも長い列になっているのは栄えている国の証拠だな。俺達も最後尾に並んで待った。

 少しずつ流れて行く中、暫く待っていると、貴族が乗っているような馬車は優先されている。皇族貴族だから、仕方が無い事だな。

 俺達の順番が来る頃には、コーマは口づけして、後でね、と消えて行った。

 検問所には、俺、サリア、ファルタリアの順で入る。眼つきの鋭い門番に証明書を見せ、サリアが奴隷、ファルタリアが同行者の説明をする。

 問題なかったけど、最後にファルタリアのバトルアックスの取り扱いに注意するよう指示され、無事通過できた。

 やっぱり国は厳しいな。

 橋を歩くと来た道が見える。今度は逆から見る景色だ。岩の山々に囲まれた国。これはこれで綺麗だよ。何となく、いい国のように感じるのは俺だけかな。

 橋を渡りきった場所にも、検問所のような建物はあったけど誰もいなかった。この建物は、扉を閉める防壁みたいだな。

 ファンガル中立国に入れば、道も広くレンガで敷き詰められている。馬車の往来も人も多く、町の比じゃなかった。

 俺は今まで間違っていたよ、これこそが、活気がある、と言う事なんだな。

 現れるコーマが、一層嬉しそうに腕を組んで来た。


「ラサキ、皿食屋行こうよ。ウフフ」

「ラサキさーん、美味しい皿食屋を探しましょう」

「食べるがや、ラサキ」


 そうは言っても、何処に皿食屋があるのか知らないし、それほど国は広いよ。迷うように道を歩いていたら、偶然にも数軒の皿食屋を見つけた。

 しばらく人の出入りを見て、一番多い皿食屋に決める。これなら失敗は無いからね。

 順番を待ってテーブル席に案内される。コーマが持って来た料理は、牛のステーキだ。ペコムの村で食べて気に入ったのかな。

 この国は何でもありそうだ。

 ファルタリアは、レイクフィッシュの塩焼き、サリアは、豚の生姜焼きだった。初めて三人の意見がわかれたな。

 ファルタリアが俺に持って来てくれた料理は、コーマと同じステーキだった、ありがとう。

 一口食べたら、肉汁が溢れて旨味が口いっぱいに広がる。いやー美味いね、当たりだね。料理人の腕も一段上を言っている感じがするよ。

 三人とも、眼を輝かせて同じ物をお代わりしていた。てっきり違う料理を持ってくるかと思いきや、三人ともさっきと同じ料理だったよ。

 折角なんだから、他の料理を楽しんだ方が良かったんじゃないのかな。ま、言う事ではないから好きにさせておこうかな。

 調理する料理人の腕も違うのか、悪気はないけど今まで皿食を食べた中で一番の美味しさだった。

 さすがファンガル国か、明日から楽しみだな――その前に宿探しだ。

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