第61話 ダンジョンだった
仕方がない、二人の後を追おう。洞窟の中は暗くなっていくけど、俺も二人も見えるから問題ない。さらに奥に行ったら、いましたよ、魔物が。
体長三m程で青い肌を待ち筋肉質。片手に大きな偃月刀、反対の手には盾を持った黒い一つ眼のサイクロプスが立っていた。
こいつは強いぞ。
サイクロプスの強さは、昔の世界でも一体を倒すのに十人は必要なくらい強い。洞察力もあるから気を付けないと。
「二人とも油断するなよ、強いぞ」
「はい、了解しました」
「わかったがや」
サイクロプスに躊躇しないで向かって行く、バトルアックスを構えるファルタリアと、両手を前に出しているサリア。
俺はその後ろで援護に回る。
ファルタリアは頑丈だし、サリアは距離を保って防御魔法があるから、二人のお手並みを拝見しよう。
危なくなったら助ければいい事だしね。これならコーマもいれば良かったのにな、忙しいのかな。
二人とも、強い魔物を相手に眼が輝いているね。楽しそうだな。
サイクロプスが動かない前に、サリアが魔法攻撃を発動した。
「炎の矢よ、魔物に突き刺さって爆裂するがや」
サリアの手の前に魔方陣が展開され、中から炎の矢がサイクロプスめがけて飛び出した。
しかし、反応したサイクロプスは、瞬時に盾で弾いた。サイクロプスは、俺達を敵と判断したようで向かって来た。
サリアの前にいたファルタリアが、踏み込んでバトルアックスを上段から振りかぶったが、それも盾で防がれる。
すぐさまサイクロプスが偃月刀でファルタリアを襲う。
反応したファルタリアはバトルアックスで受けたが、サイクロプスの力が圧倒的に強く、弾き飛ばされて激しく岩壁に叩きつけられた。
続いてサリアが、両手を向けて攻撃する。
「無数の氷の矢よ、魔物に突き刺さるがや」
幾つもの魔方陣が、サリアの前に展開されて十数本の氷の矢がサイクロプスめがけて飛び出した。が、サイクロプスはすぐさま盾を前に縮こまって対処して防いだ。
いい判断だ、さすがに強いな。その間に、ファルタリアは立ち上がって戻り、体勢を整え構えている。
さらに二人の攻撃とサイクロプスの攻防は続いたけど、一進一退でいい勝負だったよ。ただこれには訳があった。
それは、二人の初めての連携が、少しずれていて強いサイクロプスに反撃のチャンスを与えてしまったから。
でも、次第に息が合って行く二人。
「こんのぉーっ! うりゃーっ!」
「無数の風の刃よ、魔物に飛んで切り裂くがや」
「どっせーぃ!」
二人の息がかみ合った時、サイクロプスの動きが一瞬止まった。そこを見逃さなかったファルタリアが盾を横に弾く。ここで勝機が訪れる。
「氷の矢よ、魔物に突き刺さるがや」
サリアの攻撃がサイクロプスの足に突き刺さった。すかさずファルタリアが、襲いかかるようにバトルアックスを横一線に薙ぎ払う。
「せいやっ!」
サイクロプスが、盾で防ぐ寸前にバトルアックスが入るのが速かった。
切り倒されるサイクロプス。昔と変わらず強かったな。
でも何だろう、見ていた俺は、今の攻防がゆっくり見えたので、そこまで強くは感じなかったよ。
これもコーマが強くしてくれたからかな。改めてコーマに感謝しよう。
「フゥ、ラサキさん、倒しましたよー」
「倒したがや。エヘン」
「二人ともよくやったな。凄いよ」
「エヘヘ、楽しいですね」
「アハハー、面白いがや」
倒したサイクロプスの後ろには、横穴があった。 横穴? もしかしたら、ここはダンジョンか?
村長に報告したほうがいいかもしれないな。
ファルタリアとサリアが横穴の奥を眺めている。
「ラサキさーん、行って見ませんか? 楽しそうですよ」
「ラサキ、あたいも行って見たいがや」
「いいけど、余り奥までは行かないからな」
俺達は横穴に入った。進んで行くと、徐々に地下に向かっている。この造りは、まさしくダンジョンだな。
奥から1体のサイクロプスが現れた。
「あれは俺がやろう」
走って向かうと、相手も気づき構える。一撃で倒そうと思ったけど、そう上手くは行かないな。
反応した盾で防がれ無理だった。瞬時に盾を力強く蹴り飛ばせば、盾を持った手が上がる。
そこに剣を突き刺し、動きを一瞬止めてサイクロプスの首を切り飛ばした。
「フゥ、こんな感じかな」
「さすがラサキさんですね、手際がいいです。私も見習わないと」
「強いがや、強いがや。さすがラサキだがや」
更に進んで行く。途中、オーガ、オーク、それにミノタウロスが何度も現れたけれど、二人は楽しく倒して進んだ。
今いる場所は、多分三階層だな。
この先何階層あるのかもわからないし、どんな魔物が現れるかも知らない。
面倒臭くなった俺は、引き返そうと思っていたけど、楽しそうに魔物を倒している二人が進んでいるから、まだ言えなかった。
ただ、これ以上進んだら帰りが大変だよな。
「二人とも、帰るよ」
振り返ったファルタリア。
「ええぇ? もう帰るのですか? ラサキさーん、もっと進みましょうよー」
サリアも同調する。
「楽しいがや、ラサキ。もっと行くがや」
お前ら、後先考えていないな。
「これ以上進んだら一日じゃすまないよ。携帯食も持って無いしな。帰り道も長いんだぞ」
二人は渋々納得したよ。帰路に入った俺達、いや、二人は数回現れた魔物を倒して洞窟を出た。
ほら、もう夕暮れだよ。ペコムの村に着く頃には暗くなり夜になっていた。宿に帰って部屋に入ったら、既にコーマが現れている。
「ご苦労様、ウフフ」
「コーマは洞窟がダンジョンだと知っていたのか?」
「さあ、どうかな……ん」
俺の話を聞かないで、口づけをしてくるコーマ。神だから、それ以上は聞かなかった。
振り返って、ファルタリアとサリアを見れば、飢えた野犬が獲物を捕らえようと息を殺して、ジッ、と待っているように見えた……何だか怖いな。
はいはい、順番にお約束は果たしました。
翌日は、村長宅に行って昨日の事を話したら驚いていた。
「ダ、ダンジョンですか? 本当ですか? どうしましょう」
ソニアも、右往左往しながら、しどろもどろになっている。
「わ、私も、ど、どうしたら、こ、困ります」
村にダンジョンが生まれたらこうなるのか。でも、いいんじゃないか? これから発展する事が確約されたもんだし。
「メラニさん、とりあえず他の町のギルドに報告して、ペコムの村にギルドを作ってもらいなよ。先に建ててから宣伝すれば、後はギルドに任せれば順調に事が運ぶよ。人が増えたら町にすればいいしね」
村長なんだからそれくらい出来るだろ。
「はい、ラサキさん。頑張りましゅ」
噛んでるし。一方ソニアは微動だにしていない。さすが受付順応が早い、と思ったら、何やら様子が変だ。




