第60話 討伐した
昼も近くなり、一度村に戻って昼食にする。宿に入る時に、コーマも現れた。
今日の料理は牛のステーキだ。切れば柔らかくて肉汁もたっぷり出てくる。ガーリックが効いてて、これは美味いよ、絶品だ。
三人は、お約束のお代わりして美味しく頂きました。
午後も魔物退治に出かけ、その日は、一日中魔物を切り倒して遊んでいた。
夕方には、倒した魔物の山が幾つも出来上っている。依頼を達成するには魔物の一部を持って行かないといけない。
面倒だな、と思っていたら、ファルタリアが手際よく小さい触手を次から次へと切り取って袋に詰めている。
それを見たサリアが、ファルタリアに声を掛けた。
「ファルタリア。あたいがやるがや、見てるがや」
サリアの指示に従い、手を止めるファルタリア。
サリアは、両手をやや広げるように前に出す。
「魔物の小さい触手を切り取ってここに集まるがや」
キャタピラーの触手が、見る見るうちにサリアの前に集まった。
「これでいいかや? アハハー」
ドヤ顔で仁王立ちするサリアだったけど、つくづく魔法って便利だと感じた。
「さすがだよサリア、手間が省けた」
「凄いですよ、サリアさん。いいなぁ」
「そうかや? アハハー。エヘン」
集めた触手を、三人で袋に入れたけど入りきらない。仕方がないけど、残りは放置する事にする。
事と次第によっては、村長に現場で確認して貰おう。俺達の目的は、報酬じゃないからさ。
ファルタリアとサリアは、後ろ髪をひかれる思いだったようだ。
いいじゃないか、切れ味を試して魔法も発動出来たんだからさ、旅行の資金も十分にあるんだし。
それにこれだけの魔物の数なんだから、報酬額も上がるだろ。ペコムの村に負担を掛けてどうするんだ。
これでいいんだよ。
夕暮れ時に村長の家に行くと、ソニアは帰ったのかいなかった。なので魔物の袋は、面倒だから受付のカウンターに乗せて置いて帰った。
翌日は、ゆっくり起きて宿の料理を四人で堪能した後、村長の家に向かう。
コーマは消え三人で中に入ると、ソニアが受付の回りを挙動不審に右往左往している。
「おはよう、ソニア」
「ひゃい。あ、ラ、ラサキさん、お、おはようございます」
「昨日はソニアが居なかったから、依頼の袋を置いて行ったよ」
「やはり、ラサキさん達でしたか。多分そうだとは思ったのですけど、もの凄い数ですね。今までで最高数です。ただ、討伐数が多すぎて払えない、と村長が困っています」
丁度そこに、村長が帰って来た。
身長一五〇センチ程の長い赤髪、青眼の女性。女性? てっきり白髪頭の初老、と思っていたら違ったよ。
思い込みって良くないな。
「初めまして、ペコムの村長、メラニです」
「俺はラサキ、連れはファルタリアとサリアだ」
「存じています。この度は、依頼を受けていただいてありがとうございます。しかしながら、あまりに多い魔物の討伐数で、ペコムの村で対応できる限度を遥かに超えてしまいました。現状で支払える金額は、金貨三〇〇枚が限度です」
「いや、いらないよ、安心してくれ。依頼を受けたけど俺達にとっては遊びだからさ、遊び」
「それはいけません。依頼を受けていただいて報酬を支払わないとなれば、ペコムの村の尊厳に傷がつきます」
「なら、メラニさんの気持ちを汲んで、金貨一〇〇枚貰うよ。それでどうかな。ましてや口外なんてしないからさ」
「い、いいのですか? これだけ沢山の討伐をしていただいたのに」
「ああ、構わないよ。ちなみに、退治した魔物の数を正確に出すのなら、持ってきた袋の倍以上はある。持って帰れないから放置してきたよ」
「ええぇ? この倍以上ですか」
「何なら現場を見に行って見る?」
「はい、是非」
メラニさんの希望で一緒に見に行った。その現状を見て、両手を口に当て驚愕するソニアと腰を抜かすメラニさん。
仕方がないから抱きかかえて起こしたよ。それを見て、羨ましがる他の二人の事は無視しよう。
「こ、この山になっている全部、討伐した魔物ですか?」
「そうだよ、メラニさん。ペコムの村の周囲にいたキャタピラーだ」
「こ、こんなに沢山。改めてお礼を言わせていただきます。ありがとうございます。でも、報酬額は本当にいいのですか? 村にとってはこの上ない話しですけど」
「いいよ、気にしないでメラニさん。魔物の討伐依頼は、生活が懸かっているペコムの村の人には悪いけど、俺達にとっては遊びだからさ」
涙を流し始めるメラニさん。
「ううぅ、ありがとうございます。ラサキさん達にとって遊びでも、ペコムの村ではありがたい事です」
話しを聞いていたソニアも泣いているし、苦労しているんだな。
――んじゃ、一肌脱ぐか。
村長の家に戻って、ソニアから報酬を受け取った。
「確かに報酬は受け取った。メラニさん。明日から数日だけ勝手に森に入って魔物の討伐をさせてもらうよ」
話しを聞いて涙を溜めているメラニさん。
「いいのですか? 報酬も無しに、この辺境の村で討伐して頂けるなんて。ラサキさんと皆さんは神様です。ううぅ」
また号泣し始めたメラニさん。後ろのソニアも同じくもらい泣きしているし。村の財政は思ったより深刻なのかな。
しばらくして落ち着きを取り戻した頃に話をする。
「メラニさん。さっきも言った様に、これは俺達の勝手な遊びだ。でも一つお願いしたいのは、口外はしないことを約束して欲しい」
「是非お願いします。口が裂けても八つ裂きにされても口外しません」
何だか凄い事を言っていたけど、その後数日は、森に入って討伐しまくった。もうこれは討伐と言うより蹂躙だな。
コーマは魔物に感知されない姿で一緒にいて、楽しそうに傍観していた。
思う存分に倒しているファルタリアとサリアは充実していたようだね。
俺も加わって討伐して、一番多かったキャタピラーを始め、森の奥地にいたゴブリン、オーガ、ミノタウロスも片っ端から倒した。
ただ、途中群れでいたウルフファングに、サリアが爆裂魔法を放って森の一部を崩壊させていたけど、今回は大目に見よう。
結果、数日で千体を越える魔物を倒した。最終的には、森の広範囲にはコーマの感知にも掛からなくなっていた。
全滅ではないだろうけど、ほとんどいないらしい。しばらくは出てこないだろう。
そこにコーマが俺に抱きついて来る。
「楽しそうね、ラサキ。この先にある洞窟に強い魔物がいるよ。頑張ってね。ウフフ」
「ファルタリア、サリア。この先の洞窟に」
コーマの話を聞いていた二人は、すでに洞窟に向かって歩き出していた。ファルタリアもサリアも、やる気満々だな。
コーマに言われた通りの方向に行けば、切り立った岩壁になっていた。その一角に洞窟が、控えめに、潜むように、見つからないように、ひっそりと口を開けていた。
さて、どうやって入って行こうか。と考えようとしたら、二人は無防備にも我先にと、小走りで入って行った。
おいおい、危ないよ慎重に行こうよ。




