第 6話 再会した後鍛錬した
よろしくお願いします。
ウルバンが、部屋に戻って行くのを見計ってファルタリアが笑顔で近寄ってくる。揺れている金色の大きい尻尾が綺麗だな。
「ありがとうございました、ラ……」
「ラサキだよ、ファルタリア」
「あ、ありがとうございました、ラサキさん。二度も助けて貰うなんて、これも何かの縁ですね。私は運命を感じます」
「いや、偶然だ。それにしても、力があって頑丈なら、ガエルを押しのけて逃げられたんじゃないのか?」
「私、小心者なので、びっくりしたりすると、少しの間動けなくなるんです。今、直そうとしている所ですけど」
「ふーん。そうは見えないけどな」
「ラサキさんも冒険者なんですか?」
「一応は登録しているけど、それだけだよ。生活するには働かないとね」
「ラサキさん、折り入ってお願いがあります」
「パーティは組まないよ」
「ええぇー? 何で知っているんですか? スキルですか? 能力ですか? ラサキさんは能力者ですか?」
両手を胸辺りで握って、俺を見つめる目が輝いている――天然か?
「さっき大声で募集していたじゃないか」
「あ、聞いていたんですか。そうですか」
「ま、気長にやればいいんじゃないか? くじけず頑張れよ」
「はい、頑張ります。でも、もしいなかったら、ラサキさんと、ラ、ラサキさん? ラサキさーん、話を聞いてくださいよー」
面倒臭くなりそうだったから、ファルタリアの話も最後まで聞かず、依頼を見に行く。一通り見たけど、めぼしい依頼は無かった。
部屋に入っていたギルドマスターのウルバンが、また俺に向かって歩いて来る。何か言いたいようだな。
「なあラサキ。君はレムルの森に住んでいるのか?」
ウルバンの声が聞こえた冒険者達がざわつく。
「レ、レム? 名前は知らないけれど、シャルテンの町から南に位置する山の森に住んでいます。それがどうかしましたか?」
「あの森には魔物がいるだろう。大丈夫なのか?」
「はあ、今の所普通に生活していますが」
「ならいいんだが、気を付けるようにな」
要件も終わったので、家に帰る。
足取りも軽く、魔物も現れず、夕方には無事着いた。扉を開いて中に入るが、まだコーマはいなかった。戻って来たのは、辺りも暗くなってからだった。
「ただいま、ラサキ。寂しくなかった?」
「お帰り、コーマ。色々と楽しかったよ」
「もー、冷たいな。もっと優しくいてくれてもいいのに。嘘でも、寂しかったよ。とかさ」
「そのうちな。腹減ったろ、料理作っといたよ」
「わぁー、ありがとう。ラサキ、好きよ」
簡単な肉野菜料理をテーブルに出す。
「おいしそうだね。いただきます――うん、美味しいよ、ラサキ」
「ゆっくり食べなよ」
俺は、コーマが何して来たかは聞かなかった。神の行いなど興味は無いからね。それに、聞いても何も手伝えないだろうし。
コーマも食べ終えて、満足そうだ。
それよりも、コーマに聞かないといけない事があった。
「なあ、コーマ。俺の体に何かしたのか?」
「どうしたの? 急に。何かあった?」
俺は、ギルドでの経緯を話した。
「ああ、それはラサキが体に力をいれて耐えようとした時、金剛石並みに硬くなったのよ。そこに生身で体当たりすれば当然怪我するわ」
「はあ? 何ですか? それ」
「だって、多少は強くしておかないと、ラサキに何かあったら私、嫌だもん。せっかくの楽しい生活なのにさ。ダメなの?」
「……いえ、嬉しいです。ありがとう」
「ウフフ、良かった」
こんなんでいいのか? 神だからいいのか? 俺の希望をコーマの解釈で考えるとこうなるのかな。仕方がない、ありがたく使わせてもらおう。
――楽しい夜も更けて行く。
◇
翌日の朝は、またコーマの裸体が密着していた。疲れたのか、気持ちよさそうに眠っていたので、起こさずに家の外に出る。疲れた事は無い、と言っていたけどね。
昨日のガエルの件もあって、剣を持って素振りをしてみれば、軽い。先日までは気にしなかったが確かに軽い。
身体能力も、さらに向上したのが良く分かる。そこにコーマが家から出てきて、右手を上にあげ、左手で口を当てている。
「ふぁー、おはよう、ラサキ」
「おはよう。気持ちよさそうだったから起こさなかったよ」
「ありがとう、大丈夫。手伝おうか?」
「頼もうかな。そこに剣があるよ」
剣を構え、コーマが素早く切りかかってくる。俺が剣で受け流し、切り返して撃ちこむ。コーマも剣で受け、素早く返してくる。
俺は後方に飛んで体制を立て直す。俺の器量に合わせて、この一連の動作をしばらく続けた。
後半は、全力の俺の剣の打ち込みに付き合ってくれた。やっぱり強いわ、コーマ。
「ハァハァ、これくらいに、ハァハァ、して置くかな。ハァハァ」
「そうね、お腹が空いたから止めようよ」
「フゥフゥ、コーマは息切れしないのか? フゥフゥ」
「うん、した事無いわね」
「フゥ、やっぱりコーマは強いよ」
「そうかな。剣を交えるのもラサキが初めてだから分からないわ」
「でもいい鍛錬が出来るよ。ありがとう、コーマ」
「じゃ、お礼を貰うわよ……ん」
俺に近寄ってくるコーマ。手を俺の首に回し口づけをしてくる。ああ、また何か吸い取られるのか? 唇が離れる。
「何を吸い取った?」
「何も吸い取らないわよ。お礼に口づけを貰っただけ」
「なんだ、それだけか。構えて損した気分だ」
「ウフフ。ご飯食べようよ」
こうして数日は、俺の鍛錬に付き合ってもらった。
コーマのお陰で、自分の向上した体にだいぶ慣れ、思考に行動が追いついた。昔の俺より、格段に強くなっているのがわかるほどだ。
ついでだから、と威圧と殺気を教えてくれた。使う事は無いと思うけど、教わっておいても損はしないからね。
その日の夜、寝る準備をしていたら、コーマが探すように外を見る。
「ラサキ、誰か来るよ。五人いる」
「こんな時間にか? 誰だ?」
「分からないけど、殺意がある」
「盗賊か? どっちにしても出て行かないと不味いな。一度に五人を相手にするなんて……勝てないかな」
「大丈夫よ。私の見立てでは、ラサキの方が強いわよ」
「コーマにそう言ってもらえると助かるよ。やってみる」
俺はすぐに武装をして、部屋の明かりを消し相手の出方を見る。
暗闇で何も見えない。星明りでも厳しいか。
「ラサキ、こっち向いて」
「ん? なんだこんな時に。 ん?」
暗い中、コーマが俺の首に腕を回し唇を重ねてきたが、すぐに離れた。
「あれ? 薄暗いけどコーマの顔が見えるよ」
「ラサキに、暗視の効果を付与したわ。これで大丈夫」
窓から外を見れば五人の人影が見えた。俺は家を出て進み叫んだ。
「誰だっ! 見えているぞ! 五人いる事は知っている!」
聞き覚えのある男の声が、一番奥から聞こえた。
「ちっ、おいっ、火をつけろ、明かりだっ! ぐずぐずするなっ!」
「ガエルかっ!」
回復魔法とは凄いな、肩の怪我はもう治ったのか。
数か所からランプの火が灯り、木に吊るされ薄明るくなる。
「あーはっはっはっ。先日の借りを返しに来たぞ、ラサキ。あの世で後悔するんだな。お前らっ! ラサキを始末しろっ!」
五対一の戦闘が始まった。