第58話 そろそろ次かな
「サーラ、触手の料理を振る舞ってやってくれ」
「あらあら、ウフフ。腕によりをかけて作りますか、少しお待ちくださいね」
バルガン曰く、触手の料理は作り置きより出来立てが最高に美味い。下準備はしてあるからすぐに出来上がる。
天気も良く、そよ風が気持ちいい、バルガン家の庭先に設置してあるテーブル席で座って待つ。
今日のサリアは、はしゃぎ回らずに大人しく椅子に座っているね。
サーラさんとバルガンさんが料理を運んできた。
「お待たせしました、お口に合えばいいのですけど」
いえ、どれも美味そうです、合います。
まずは、触手を細かく切った野菜炒めだ。触手の旨味が野菜に染み込んでいる。うん、美味い。
俺の作った野菜炒めとは雲泥の差だな。野菜のシャキシャキ感もあって、とても美味かった。
三人も黙々と食べているし。
次は、触手を輪切りにした塩焼きだ。程よい弾力で塩加減と旨味が相まってって、とても美味い。
簡単で作りやすそうだ。素材もいいけど、サーラさんの腕がいいんだろうな。
最後は、船でも食べたステーキだ。香辛料がタップリ掛けてあって三皿目でも食欲を湧かせたよ。一口食べれば、申し分ない美味しさだ。
三人はお代わりしているし、皿食屋じゃないんだから少しは遠慮しろよ。この具材をアルドレン帝国が一人占めなんて許せないな。
お代わりを言われたサーラさんは、嬉しそうに、あらあら、まあまあ、とすぐに作ってくれた、感謝します。
皆で満足したよ、侮れないな触手。一息ついてからバルガンさんが来た。
「どうだった? 美味かったろ」
「市場に出ないで帝国が一人占めする意味が何となく分かったよ。とても美味しかった。サーラさんに感謝する。とても上手で丁寧な料理だった」
丁度出てきたサーラさん。聞いていたようだ。
「あらあら、ウフフ。それは私がご馳走様です。いつでも食べに来てくださいね。ウフフ」
バルガンさんも笑顔だった。
……厳ついのに。
「ラサキ、明日もよろしくな、待っているよ」
「こちらこそ。今日は堪能したよ、ありがとう」
それから数週間は、この依頼を受けた。コーマを始め、ファルタリアとサリアが釣りを楽しみたい、と言ってきたからさ。
毎回、依頼と称して釣りを楽しむ三人。魔物の触手も、一つも漏れることなく完璧に切り倒す。
漁もすこぶる順調で、三人の活躍も大きく、いつも大漁で早帰りだったよ。釣った魚は買い取ると言ってくれたけど断った。
それは、毎回サーラさんの手料理を食べさせて貰っているからね。そのお礼だから差し上げます、儲けてよバルガンさん。
俺達を見ていた他の漁師達が、バルガンさんに、不公平だ、と不満を言ってきた。
けど、この依頼は、俺達がギルドの掲示板の中からバルガンさんの依頼を受けた事で、何の問題も無いはずだよな。
まあ、三人の活躍が噂になっていたから仕方がないか。困っているバルガンさん。
俺達は、バルガンさんの依頼内容と同じにしてくれた漁船に順番に乗り込んで、一度だけ依頼を受けた。
それでも感謝してくれた、良かったな。三人もそれぞれ釣りを楽しんだようだね。
十分楽しんだし、そろそろシーガイの町も終わりかな。
依頼を受けていたバルガンさんに話をしたら、悲しそうだったけど、旅行の途中だから、と納得してもらった。
サーラさんにも、直接話をした。
「美味しい料理、ありがとうございました」
「あらあら、まあまあ、折角賑やかだったのに、寂しくなるわね」
悲しい表情のサーラさんだった。
俺も情が湧いたけど、いつでも来れるし、いつかまた来ることを約束した。
ギルドで依頼の報酬を受け取ったけど、旅を出る時より更に増えた。ファルタリアにも聞いたけど、凄く増えているらしい。
ギナレスの町の報酬もあるから、今は俺より多く持っている。
ファルタリアが、今回の報酬である金貨の入っている布袋を、俺に差し出して何かを言いたそうだったけど遮った。
「それはファルタリアの金だから、自分で自由に使えばいいよ」
「でも……それでは納得できません。ギナレスの町の報酬もあるし十分です」
うーん、どうした物かな――あ、そうだ。
「それじゃ、サリアと分けて使えばいい。サリアは奴隷扱いだから、依頼の報酬が無いからね。俺の持っている金は、コーマと使うからさ」
納得はしていないようなファルタリア。
「……はい、了解しました」
さっそくサリアと話し合っていたよ。サリアも、蓄えはある、と言っていたけど持っていて損は無いから気にしないで使いなよ。
それから数日後、宿を出て特に見送りも無い検問所に行く。それは、漁師達は今日も漁に出ているから。
名残惜しくなるからこの時間にしたのさ。只一人サーラさんを覗いて。
サーラさんには数日前、携帯食を作るから出立の日を教えてくれと言われ、せっかく作ってくれるのだから、断る理由も無くお願いして教えた。
「寂しくなりますね、亭主も喜んでいたのに。ううぅ」
涙を流すサーラさん。そのまま続ける。
「これが携帯食です。道中気を付けて行ってくださいね。ううぅ」
綺麗な人の泣き顔は絵になるよ。こんな事を考えるのは俺だけか。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
「また、いつでも来てくださいね」
「はい、約束します。サーラさんもお元気で」
三人も礼を言った後、サーラさんの見送りで俺達はシーガイの町を出立した。
今日も天気が良く、シーガイの町が映えている。バルガンさんの船と他の漁師達の大漁を願うよ。足取りも軽く四人仲良くザルダ山を目指した。
次に目指すは、町ではなく村だ。
出立前に、ギルドのマーマナに帝国を迂回していける町は無いか聞いておいた。
「では、ペコムの村は如何でしょうか。ザルダ山の山頂から、北東に向かう別れ道がありますから、そこだけ間違わずに道なりに行けばペコムの村に辿り着きます」
「何か特産とか名所とかあるのか?」
「特に何も無いと思います。ギルドもありませんが宿はあります。依頼は村長宅に貼られていると聞きました」
「ペコムの村か。ありがとう、行って見るよ」
「ラサキさんの好きな温泉があるといいですね。混浴とか。ウフフ」
「な、何を言っているのか意味がわからないが」
「色々と噂で聞こえて来たものですから。四人部屋の話とか、四人部屋の話とか。ウフフ」
そこを二度言うか。
「だ、誰が、ね、根も葉もない噂を流したんだ?」
後ろを見れば、口笛を風切音だけ吹かせているファルタリアとサリア。俺と眼を合わせていないで横を向いている――お前達か、全く。
恥をかき捨ててギルドを出た。
そしてその話を聞いた今、ペコムの村に向かって街道を歩き始めた。




