第56話 依頼を受けた
翌日の港
依頼の漁船に案内され、四人で乗り込んだ。言わなくとも、コーマは問題なく乗船している。俺たちが立っている甲板は思ったより広いな。
サリアが、はしゃいで走り回っていたら、漁師に怒られていたよ。
奴隷だけど、直接言ってくれ、と前もって言っておいたから問題ない。俺が言うより効き目がありそうだからね。
そのうち漁師も乗り込んで来て一〇数人になった。
全員筋肉質で浅黒く、素手なら強いな。その中で、更に茶髪で強そうな強面の船長が出てきた。
「俺はこの船の船長の、バルガンだ。依頼を受けてくれてありがとうよ。要領はその都度教えるから、それまでは見学でもしてゆっくりしてくれや」
「一ついいかな。他の冒険者は、何でこの依頼を受けないのか? 試験を受けたけど簡単すぎだよ」
少し困った顔のバルガンさん。
「それも後で教えるよ。それとも、身を持ってすぐに知るかな」
まだ日も昇らない港を出港する。堤防を出れば、すぐに外洋だ。波もあり大型船だけど揺れ始める。
大海原の波は大きく強いから、船も大きく波のうねりに合わせ、そこそこ揺れた。あ、わかったよ、他の冒険者達が受けないのは船酔いだ。
大きく揺れる中、慣れた歩き方で船長のバルガンさんが来る。
「ラサキ、体の調子はどうだ? やれそうか?」
「ああ、全く問題ないよ。全員大丈夫だ」
コーマとファルタリアは、並んで海を見ながら談笑しているし、サリアは揺れが楽しいのか、はしゃぎまわってまた漁師に怒られているし、それだけ元気だった。
厳つい船長も、当たりをひいたように嬉しそうだ。
「今回は期待していいようだな。ラサキ、よろしく頼む」
操舵室に戻って行くバルガンさん。色々大変なんだな、俺達も依頼された事はしっかりやろう。
出向して一時間ほどが経った。進むのを止めて全員が周囲を探るように見まわしている。漁場に着いたようだね。
魚影を探している一人の漁師から、すぐに声が上がった。
「いたぞー! 前方右舷に魚影だ!」
船長の指示で、静かに魚の群れの中に入る。その魚群を逃がさないように、まき餌を投げ始めると海面に魚の群れが集まる。
漁師達が釣竿を海に出し釣り始めると、すぐに様々な魚が釣れ始めた。釣り針は、小魚に似せた物が付いていて、投げ込むとすぐに釣れていた。
体長五〇センチ程から一mを越える程の魚。力強い引きにも負けず、一本一本釣り上げられてくる。その様は、豪快そのものだった。
釣り上げた魚が後ろの甲板に乗ると、勝手に釣り針から魚が外れる。そしてまた投げる、の繰り返しだよ、すぐ疲れるな。
これじゃ、コーマ達が釣り出来るレベルじゃないだろ。引き込まれて危ないよ、と見回したらいない。
あ、コーマはすでに漁師に混じって釣り始めているし、いとも簡単に釣り上げているし、とても楽しそうに釣り上げているし、次から次へと釣り上げているし。
ファルタリアは兎も角、サリアも豪快に釣り上げていた。
「サリア、大丈夫か? 引き込まれるなよ」
「アハハー、ラサキ。簡単に釣れるがやー。アハハー、楽しいがやー」
ファルタリアは、漁師と同じように力任せに釣り上げている。
「どっせーいっ! ラサキさーん、魚釣りって楽しいですねー。ウリャーッ!」
はいはい、楽しんでください。俺は見ていますよ。後でサリアに聞いたら、重力魔法を使って魚の引きと重さを軽くしていた、との事。便利なものだな。
しばらく楽しく釣っていたけど、疲れないのかね。三人とも笑顔のままだ。
コーマとサリアは息切れしていない、けど、ファルタリアは疲れが出てきたようだね、息切れしているし。でも止めなかった。それだけ楽しいのかな。
甲板が魚で山のように埋め尽くされる頃、釣れなくなり終了。
さて、これからが俺の仕事だ。
仕分けを始めた漁師達。俺は船の外を見ていれば、何本もの触手が海から生えるように出現してきて船べりに近づく。
息を整えたファルタリアも、焦ることなく、探るように船べりから入って来る触手を切り伏せ始める。
三本ほど切り倒すと、触手は海に戻り、また別の魔物の触手が出て来て切り伏せる。その繰り返しが続いた。
魚だけじゃなく、魔物も多いようだね。
仕分けを終えた漁師が、切った後も、動いている触手を仕分け始める。
「その触手はどうするんだ?」
「これも食材だよ。魔物だけど、美味いぞ。高級食材だから市場では流通していないけどな」
「何処に運ばれるんだ?」
「帝国だよ、アルドレン帝国。獲れたてを馬車で、その日のうちに運べば幾つもの高級店に回り、即日完売になるらしいよ」
それを聞いたら食べたくなるな。丁度いい具合に甲板に料理長と料理人の男が、鍋や寸胴を運んで出てきた。
「飯が出来たぞー!」
その声に漁師達が並び始める。俺達にも、並べ、と言われて四人で並んで順番を待つ。お、船上の皿食だよ、楽しみだな。
各自、思い思いの甲板で座って食べ始めている。俺達も四人囲んで食べ始める。何だ? 美味いぞ? あ、これは魔物の触手だ。
輪切りにして油と香辛料で炒めてあり、塩をまぶしてあるな。高級食材と言われるだけあるし、美味いよ。
三人も美味しそうに頬張っている。ん? お代わりも出来るようで、料理長が並び直した漁師達に順次配っている。と思っていた矢先に、コーマが並んでいるし、残る二人もお代わりするだろうね。
高級、と言っていたから今日は俺もお代わりしたよ。魔物の料理に舌鼓を打った。どこかの店で食べられないのかな。
食べている漁師に聞いてみる。
「シーガイの町では、食べられないのか?」
「無いな。市場に出ずに、アルドレン帝国ご用達の商人に渡るからな」
帝国に行かないと食べられないのか。行きたくはないけど……。
そこに、会話を聞いていたのか船長のバルガンさんが来た。
「ラサキ、家に来るか? いつも何本か持って帰るから、食べたいなら来ればいい、今回の礼だ」
聞き耳を立てていたコーマが来る。
「ラサキ、食べたい」
「ラサキさーん、私も食べたいですぅ」
「あたいも食べたいがや」
「四人だけどいいかな」
「ガッハッハ、いいぞ。沢山食べそうだし今回は多めに持って帰る事としよう」
魔物の触手は漁師の特権で、大漁の時は数本持って帰れるらしい。良かったな、これで町に帰ったら食べられるね。
一段落ついたら三人が漁師に囲まれているよ。あ、面倒臭がりなコーマが消えて二人が囲まれている。 どうしたのか?




