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第55話 ギルドだ

 依頼を見てみると、シーガイの町の近くにある、小さな湖の周囲での魔物の討伐がいくつかあった。

 シルバーフィッシュが獲れる湖で、町が管理している、と書いてあったよ。二人の好きな釣りは出来そうにないな。

 次は、海で獲れた魚介類を、朝一番に船から下す荷運びが多かった。報酬はいいけど、体力勝負の厳しい依頼だね。唯一いい事は、魔物に襲われる心配が無い事くらいか。

 残りは、漁業に出ている船の漁師を魔物から守る依頼だった。漁船じゃなくて人だけ? どうするんだ? 蛸とか烏賊とか聞いたけど、よく分からないから受付で聞いてみよう。

 受付には、身長一六〇センチ程だろう、日に焼けた褐色の肌が似合っている、青髪青眼の短髪女性が笑顔で応対してくる。


「こんにちは、受付を担当しているマーマナです」

「俺はラサキ、連れはファルタリアとサリアだ」

「ご用件を伺います」

「船からの魔物退治について聞きたいんだけど」

「はい、漁船の周囲から襲ってくる触手を切り飛ばすだけです」


 マーマナ曰く、魔物の触手は、船の上にいる人と、獲れた大物の魚を狙ってくる。

 船は大型なので、船ごと引きずり込まれる事はおろか、ひっくり返る事も無いように出来ている。

 なるほど、だから大型船なのか。釣り上げるのは面倒だけど、何事も安全第一だからな。 

 もう一つ、マーマナが言ってきた。

 魚を釣っている時は襲ってこない。それは、魔物も魚の群れの中で捕食しているから。

 襲ってくる時は、釣り終わって船上の魚を仕分けをしている時が一番多い。

 仕分け作業に集中していると、魚を獲り逸れた魔物が音も無く静かに触手を出して、魚や漁師が海に引きずり込まれてしまう。

 その触手は、探るように伸びて来るので決して速くは無い。だが、獲物の近くまで来ると、反応して素早くなるから、うっかりしていると巻かれてしまう。

 こうなっては一人では逃げられない。助けに入っているうちに魚が取られてしまうので、こうした依頼がある。

 襲ってきた魔物は、伸ばして来た触手を数本切れば逃げて行く。

 海の魔物は案外臆病なのかな。あまり人気が無いからなのか、結構余っているよ。何故だろう。

 折角だし、一つ受けて見ようか。二人も賛成してくれたので、再度依頼を見ていると、ファルタリアから声がかかる。


「ラサキさん、この依頼、良くないですか?」


 ファルタリアの指差す依頼を一緒に見てみる。ああ、納得したよ。ファルタリアが興味を持った一文に、こう書かれていた。


 ≪魚の群れを発見し、漁師が釣りをしている時間は、一緒に釣りをしてもいい。各自が釣った魚は、市場値段より安いが買い取る事も出来る≫


 よし、これにしよう。依頼書を持ってマーマナに見せた。


「この依頼を受けようと思うんだけど、いいかな」


 依頼書を受け取ったマーマナ。


「はい、受けられます。ただ、初めての場合は試験がありますが、どうしますか?」


 試験か、面倒だな。俺はファルタリアに振り返ると、眼を輝かせて俺に何かを訴えている。あ、受けたいのね、わかったよ。


「ああ、受ける」

「では、地下の試験場へ行ってください。手配しておきます」


 横の通路を通って、地下に通じる階段を降りて行く。

 道場のような広間に通された。四方の壁を見れば、縦状にいくつもの穴が開いている。

 ああ、その穴から何かが飛んで来るのかな。マーマナが準備を終えたのだろう、汗だくで出てきた。

 手配と言うより、自分で準備していたのね、余計な事させちゃったかな、ご苦労様。


「ハァハァ、準備が整いました。ハァハァ」


 息を切らせながら、俺とファルタリアに木剣が手渡された。

 サリアは俺の奴隷扱いだから、試験はいらない。険しい表情のサリアだったけど、言い聞かせて納得してもらったよ。

 隅でいじけて、膝を抱えて座っている涙眼のサリア。後で埋め合わせが必要かな。

 マーマナが試験内容を教えてくれる。


「フゥ、それでは試験を始めます」


 マーマナ曰く、壁から触手に見立てた木の棒が、放物線を描いて飛んで来る。

 棒はいつも自分に飛んで来るわけでは無いので、瞬発力と動体視力も必要だ。それを木剣で叩き落とす数で実力を見る。

 俺もファルタリアも剣とバトルアックスを装備したまま構えた。


「いつでもいいよ」

「そ、その格好でいいのですか? で、では始め!」


 マーマナは躊躇したけど、なんて事は無かった。

 木の棒が緩やかに飛んで来る。いや、四方八方に飛んでいる。それほど多くは無いから出てきた順に叩き落とす。

 これくらいなら俺一人かファルタリア一人で十分だ。でも試験だから半分ずつにした。正直、これが試験か? と歯がゆい思いだよ。

 結局、完璧に払い落とした。ただ、ちょっとした事は起きた。途中で楽しんでいたファルタリアが、派手に転んで鼻血を出したくらいかな……つまらなかった。

 マーマナは、驚愕の顔で両手を口に当てている。


「ラ、ラサキさんとファルタリアさんは合格です。全ての棒を叩き落としたパーティなんて、初めて見ました」


 はい? こんなのでいいの? ファルタリアも、あっさり終わってつまらなそうにして腕で鼻血を拭いているし。あ、鼻血が横に伸びた。

 見かねたサリアが歩み寄り、布で拭いてくれている。さすが年の功だ、気が利くね。

 しかし、この試験は甘くないなかな。まあいっか、他の事は気にしないで依頼を受けてみよう。

 明日の早朝に漁船に乗り込む手配をしてギルドを出た。

 予定も決まったし、次は皿食屋だ。皿食屋に向かう途中でコーマが現れる。どこかで見ていたのだろうね。

 嬉しそうにコーマが腕を組んでくるし。


「ウフフ、ラサキも読めるのかな? ウフフ」

「読める訳ないだろ、感だよ、感」

「フーン、そう。当たっているのに……ん」


 町中で、俺の首に両腕を巻きつけて口づけをしてくるコーマ。町の人々は、奴隷のする事だから当たり前のように気にしていない。

 ただ、俺に向けた視線は冷たく、痛い……我慢しよう。

 ファルタリアとサリアも、コーマが一番だからなのか何も言わなかった。

 ゆっくりと離れ、満足するコーマ。次にファルタリア、サリアとお約束は果たしました。嫌いじゃないから、いいけど。

 更に冷たい眼で見られた事は言うまでも無いけどさ。周囲の人から見た俺ってどう見えるのかな、心配だよ……仕方がないか。

 気を取り直そう。今日の皿食はどうかな。人も入っているし心配なさそうだね。順番を待ってテーブル席に案内された。すでに三人は、注文しに行っている。楽しみだな。

 コーマが持って来た皿食を見ると、大きい二枚貝の料理だった。貝の殻ごと炭火でじっくり塩焼きにしてあり、上の貝殻が開いている。身は白く弾力がありそうだ。煮汁も溢れんばかりに溜まっている。

 それともう一つ、親切に一口で食べられるように切り分けられていたよ。ファルタリアが俺の料理を持って来てくれた。

 コーマは、美味しそうに食べている。


「ウフフ、美味しいよ、ラサキ」


 俺も一口食べてみる。やはり適度な弾力のある身で噛めば噛むほど中から旨味が染み出てくる。

 塩加減も抜群で美味しく頂いた。煮汁も飲んで見たけど、やっぱり美味い。アッサリしているし、これはいいな。

 サリアの料理も同じだったけど、ファルタリアの料理は別で、一〇センチ程の海老の塩茹でを山盛りにしている。

 薄赤くゆで上がった海老を、頭から口に放り込み、殻の砕ける音をさせながら美味しそうに食べている。

 サリアも見慣れたのか、気にする事無く貝料理を感動しながら黙々と食べている。


「お、美味しいがや。皿食は好きだがや」


 勿論お代わりして満足していたよ。

 その後、町中の釣り道具屋を見て回り、どんな仕掛けや釣り方があるのか見て回った。

 明日に備え、宿に帰って仲良く就寝。

 明日が楽しみだな。

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