第54話 やっぱり散策した
そして、町中を散策しながら歩く。港町だけあって、魚の店が多かった。
鮮魚だけではなく、燻製や干し魚、魚で作った携帯食も売っていた。それだけ魚が豊富に獲れるんだな。
ファルタリアは、魚の塩漬けの店で様々な魚の塩漬けを食い入るように見て、店員と話をしていたよ。
サリアは、外の世界に出てまだ二つ目の町だからあらゆる事が楽しいようだ。街並みや店も見回していたけど、ギナレスの町と同様で、多くの人がいる事に驚きを隠せないでいる。
「ラサキ、この町も人だらけがや。獣人も多くいるがや。これだけ人がいれば、いつでも話が出来る事は、楽しいがや。アハハー」
俺の隣から離れて、小走りに走り回って店に入ったり、人見知りもしなくなったようで、単純な質問を店員と話をするサリア。眼が輝いているよ。
いい経験をしなよ、それを糧にして、もっと自分を向上するようにな。
一方ファルタリアは、まだ塩漬けの店にいた。どれだけ気に入ったのかな。
今度は店主と話している内容を聞いてみたら、店主からの塩漬けの美味い戻し方や、その後の処理を教えられ頷いている、真剣な表情のファルタリアの眼が輝いていた。
シーガイの街並みは白を基調とした建物が立ち並んでいる町だから。町中も空の青さに白が映えている綺麗な町、と言うのが合っているな。
なんやかんやで、みんな充実した一日を過ごした。もう日も暮れているから、宿に帰って風呂に入ろう。
コーマはまだいないから、残りの二人は静かにしているかと思ったら大間違い。ユッタリと湯に浸かっていると、すぐに入って来た。
「ラサキさーん、失礼しまーす。エヘヘ」
「ラサキ、一緒に入るがや」
「前隠しなさいよ、丸見えだよ」
「私は構いませんよ、存分に見てください」
「あたいも構わないがや。胸揉むかや?」
「ラサキさんだって、お湯の中のでっかいちんこが丸見えですよ」
「そうがや、丸見えがや」
「見なくていいよ」
湯に浸かってきたファルタリアは、俺の横まで来て、赤ら顔で尻尾を俺の腿に乗せる。
「ど、どうぞ、お気の済むまで蹂躙してください」
おお、わかっているなファルタリア。風呂で癒され、モフッて癒されるよ。サリアは、終始仰向けで湯に浮かんで泳いでいる、と言うより漂っていた。
「なあサリア。泳ぐなら一人で入ったほうが広いと思うよ」
サリアが立ち上がり、両手を腰に当てて仁王立ちになる。
だから、ツルンペタンはもういいから、そう思いながら嬉しそうなファルタリアの尻尾をモフッている。
「ラサキと一緒だから楽しいがや。一人で泳いでもつまらないがや」
なるほどね、孤独だったサリアにとって誰かと入っている時は、存在感があるから楽しいのかな。今更始まった事じゃないから、まあ、いいや。可愛いしね、ハハハ。
モフッた後、いつになく赤ら顔のファルタリアが振り返る。
「あ、あの、ラ、ラサキさん……んー」
モフられてテンションが高くなったのか、唇を重ねてきた。コーマがいないのに珍しいな。断る理由も無いから受け入れたよ。
そして、満足して離れる。泳いでいたサリアも気が付く。
「あたいもがや……ん」
サリアも堪能したよ。裸体の二人と口づけって……少し欲情しそうだったけど、意識をしっかり保った。 フゥ、危ない危ない。我慢出来なくなると困るから先に出よう。
部屋ではサリアが嬉しそうだ。今日はコーマがいないからその位置にサリアが入って来た。
「ムフフ、今日は特別な日がや。嬉しいがや」
ファルタリアは隣ですでに爆睡している。位置が決まったサリアも、引っ付いて、あっ、という間に寝息を立てている。
何も言わないけど、最近は初めから裸体って言うのもどう何だか、寝巻を着ている俺が恥ずかしくなってくるよ。
――さて、寝よう。
翌日、日も昇らない薄暗いシーガイの町を歩くと、打って変わって港の市場は明るかった。
ファルタリア、サリアと帰って来たコーマと並んで市場を見に行く。
並べられた魚と魚介類、業者で混雑する市場には、旅行者の見学が出来るように、業者の邪魔にならない通路があった。他にも何人もの見学者が来ていたので後をついて行く。
市場についてみれば、昨日の閑散とした場所が盛況だ。魚の卸しや競り、悪戯の無い怒号も飛び交っているし、何にしても活気に満ち溢れていた。
特に競りでは、その気迫に押されそうだったよ。他の見物客も驚いているしさ。
威勢の良い男達の掛け声が飛び交う市場は、漁師達の聖域なのだろう。
いい物を見せてもらったよ。
日も昇り始めた頃、終わりも近いのか、業者も帰り始め市場は静かになってくる。
期待していた市場の見学も、予想通り楽しかった。早起きしたにも関わらず、三人とも喜んでいたしね、良かったな。
市場を後にした俺達は、皿食屋も開店していないからギルドに行って見る。お約束で、コーマは、後でね、と消えて行った。
ギルドに行けば、依頼を受けたであろう冒険者達が、意気揚々と続々と出てくる。ご苦労な事だな、依頼達成を願うよ。
海の町でも依頼は多いようだな。ごった返す人ごみを一段落するまで外で待って、頃合いを見てギルドに入って行く。
まだ残っている冒険者達が、見慣れない俺達を観察するように見てくる。
言い方を買えよう。俺ではなく、バトルアックスを背負ったファルタリアと奴隷のサリアに向けられていた。
綺麗なスタイルのいい獣人と可愛い奴隷だもんな、そんなもんだよ。俺は冷たい視線を感じて少し悲しくなる……何か負けた気分だ。
そんな時に一人の男から野太い声がかかる。
身長二m程で、筋肉質、茶髪茶目で背中にメイスを背負っていた。あ、ファルタリアのバトルアックスに興味があるようだ……またか。
「おい、獣人。その武器は使いこなせるのか? あ?」
やっぱりこうなるのか。慣れて来たファルタリアも堂に行った物で、普通に笑顔で帰す。
「はい、使えますよ。ご希望でしたら剣舞をお見せしましょうか?」
あ、ここ最近、使っていないから、ウズウズしているよ、程々にな。
「いいだろ、見せて見ろ。おい、そこらを明けろ」
ファルタリアの周囲から人が離れ、テーブルを寄せる。
「では、行きまーす。フン!」
重量級のバトルアックスを、片手で高回転させ、背中に持って行きもう片方の手に渡す。
回転は下がらず、上へ横へと風切り音をさせながら振り回し、最後はその男の前に、バトルアックスを理不尽な力で瞬時に止め、構えた。
ファルタリアの圧倒的な剣舞に、静まり返るギルド内。まだ余裕のファルタリア。以前より切れが良くなっている。
迫力ある剣舞だった。
「フゥ、これで如何でしょうか」
男も驚いている。
「あ、ああ、大したものだよ、十分だ。同じ重量級の武器を持った者として嬉しく思う。試して悪かったな」
見ていた冒険者達もファルタリアの強さがわかったようだね。
俺に振り返るファルタリア。
「ラサキさんも披露しませんか? 私より遥かに強い師匠ですから」
俺を見た男は、焦ってファルタリアを止めていたよ。話はそれで終了。ギルドも落ち着きを取り戻した。
でも一人、サリアは納得していなかった。
「ラサキ。あたいも何か見せるがや。よし、このギルドを吹き飛ばすがや。グムム」
俺は慌ててサリアの口を塞いでサリアの耳元で小声で話す。
「サリア、物騒だから止めておけ。サリアは俺の奴隷扱いだから直接サリアには何も起こらないし何も言われない。俺が守っているからね」
急にサリアの俺を見る眼が輝いて喜んでいる。
「あたいを守ってくれているかや? それはファルタリアより愛してくれているかや? 嬉しいがや。アハハー」
聞いていたファルタリアが、涙目になって縋りついて来た。
「ラ、ラサキさん。それは本当ですか? 私よりサリアさんが好きなんですか?」
「違うよ、ファルタリアもサリアも同じだよ。ただ、順番としては二番と三番だったか? 順番はあるんだろ?」
機嫌が良くなるファルタリアと不機嫌になるサリア。
仕方がない、と行った所か。しかし、ギルドで話す事じゃないだろ。まだ居る冒険者が笑って見ているだろ、恥ずかしいな。
これで、フェーニ、ミケリ、ルージュが居たらどうなるんだ? あ、あとメイド志望の二人もいるし。本当に家まで来るのか? 恐ろしいから考えるのは止めよう。
気を取り直して、依頼の張られている場所まで行って見た。




