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第51話 道中だ

 日も落ちて、その反対側から暗闇が迫ってくる景色は雄大さを感じる。俺達は、その中を歩き続ける。

 夜も更けて辺りは暗いけど、荒れ地の空は満天の星空だ。時折、流れ星が眼を楽しませてくれる街道を、星明りだけで歩いて行く。

 俺達三人は問題ないけど、サリアに聞いたら、樹海でもよく使っていた魔法の夜眼があるから昼間のように見えるらしい。

 疲労も回復魔法を掛けたから、元気だ、と言っている。魔法は便利だな。

 サリアが俺達に、回復魔法を掛けてくれる、と言ってくれたけど、やんわり遠慮した。いつもサリア頼っていたら良くないからね。いざっ、て時にお願いするよ。

 コーマは神だからいらないけど、ファルタリアも俺に習って遠慮していた。サリアはつまらなそうだったけど、必要なときは頼むよ、と説明して納得してもらったよ。

 さらに歩き続けると、コーマが俺の腕を組んでくる。顔が笑っていないぞ? 怒っているのか? 俺が何かしたかな。


「どうした、コーマ」

「ラサキは私と一緒に生活して、もうすぐつがいになる約束でしょ」

「何だ、いつもみたいに読めばいいのに。ああ、勿論だよ」

「ラサキの声で聴きたかったの。今後もラサキのする事には何も言わない。私を大事にしてくれればいいのよ。愛している……ん」


 俺の前に回り込んで立ち止まり、唇を重ねて来るコーマ。

 気が付いたファルタリアは、順番を待つように、じっ、としている。眼を凝らして見つめていないでいいから。

 コーマが離れると、オズオズと寄ってきて、失礼します、と吸い付いて来た。

 コーマの態度を見ていたサリアは、コーマが俺の心を読める事を薄々感じているようだったけど、俺の一言で確定したので納得した表情になっていた。

 ファルタリアも堪能したようで、緩んだ笑顔になって唇が離れて行く。

 最後にサリアが、必死になって飛び上がって俺に抱きつく。


「ラサキ、私もしたいがや。いいかや? 三番目だからいいかや? ラサキ、顔が遠いがやー」


 必死になって、俺の首に手を回している。あー、これは、ダメだ、と言ったら泣くな。絶対に泣くよ、うん。

 確定します、受け入れますよ、どうぞ。と腰をかがめてサリアの顔の位置に合わせる。満面の可愛い笑顔になったサリアが、口づけを交わす。

 少女なのに、ファルタリアより上手で、コーマに匹敵する口づけだったよ。

 柔らかく、甘く、自嘲せず、うん、いい口づけだった。三五七歳は伊達じゃないな。

 俺の何かに気が付いたサリア。


「私はラサキが初めてがや。でも殿方への嗜みは、妖精達に教わったがや。エヘン」


 離れたサリアは、暗い中を嬉しそうに、アハハーと、また走り回ってはしゃいでいたよ。

 観察していたのか、ずっと見ていたファルタリアは、自分だけ口づけのやり方が違うのか疑問に思っているようだ。俺は別に気にしないけどね。

 その後、ファルタリアとサリアは、俺とコーマの歩いている少し後ろで、小声で口づけについて話し合っていた。まあ、程々にしておきなさいよ。

 ザルダ山の山頂に辿り着いた時には明け方になっていた。魔物も出ず順調な旅行。普通だったら、こう上手くは行かないのだろうけどね。

 サリアも、道中は魔物除けの魔法は使っている、と言っていたけど、コーマの力もある事は知っている。樹海で生活していたから自然と使ってしまうらしい。

 ザルダ山から見える景色は、北の眼下にアルドレン帝国の、城を中心とした城下町が広がっているのが見えた。その規模は町の比じゃないな。

 反対の南の眼下には、遠くに大海原が広がっている。白い雲と青い空、遥か先の水平線と調和して一枚の絵のようだった。

 ザルダ山から見ても、海はとても広く感じたよ。その海岸線の一角に、小さく町が見える。

 白く綺麗な塀で囲まれているシーガイの町だ。海の青い色が、塀の白さを引き立たせている綺麗な町。

 ギルドのシャンティに聞いていた、漁業を中心とした町。


「綺麗ね、ラサキ」

「ラサキさーん、綺麗ですよぉ。一緒に来れて嬉しいですぅ」

「初めて見るがや、綺麗がや、楽しいがや。アハハー」


 俺達は、その後も休む事無く歩き続けた。勿論途中で携帯食は食べたよ。俺とコーマは余ったけど、サリアとファルタリアは、町を目前に完食していた。

 美味いのはわかるけど、栄養の取り過ぎで太らないか? 大丈夫か?


「へくちっ」


 俺の視線に気が付いたファルタリア。


「その眼は何でしょうか、ラサキさん。私は太りませんよ。多少食べ過ぎても、獣人ですから代謝します。エヘヘ」


 サリアも、何を言っているのか察知したようだ。


「こんなに美味しいのに、余ったら勿体ないがや。それに、私も太らないがや。多めに摂取してラサキの理想になるから、栄養を胸に集中させているがや」

「いいよ、二人の好きにしなよ」


 コーマは何も言わず、俺の先を足泥も軽く楽しそうに歩いている。早くシーガイの町に行きたいのだろう。


「そうよ、ラサキ。早く行くよ。ウフフ」


 ギナレスの町のシャンティに聞いた話では、シーガイの町は海の幸が豊富で、皿食屋も数軒あって、外れは無くどの店もお薦めらしい。

 皿食に眼が無いコーマは楽しみにしているだろうな。

 ザルダ山の麓まで来たら、荒れ地の景色から徐々に緑が戻り、シーガイの町が遮られるように一旦見えなくなる。

 木々に囲まれその間から日が差し込む。そんな中、四人の道中は楽しく談笑しながら歩いて行く。


 魔物も見えず、日も登って来た。緑も濃く、小鳥のさえずりが聞こえる。いい木々が成長している。

 そんな俺の考えを余所に、ファルタリアとサリアが、少し後ろを密談でもするように小声で話して並んで歩いている。

 そのファルタリアの顔が、潤んだ笑顔になって話す。

 ――嫌な予感しかしない。

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