第 5話 お約束のギルドだ
よろしくお願いします。
翌日、俺は森を降り、シャルテンの町のギルドに行く事にした。
今、コーマはいない。昨晩出かけて行ったからだ。
「これから神のお勤めをして来るね。すぐ戻ってくるから安心して待っててね」
「コーマは神だろ、心配しないよ。お勤めご苦労様」
「んー、もう、少しは心配して欲しいな、行って来まーす」
言うと同時に、笑顔で消えて居なくなった。意識と実体か、便利なもんだな。
天気も良く気持ちがいい。道中一人歩いたけど、魔物も出ずに順調にシャルテンの町に着いた。
昼前のギルドの中は、何組かのパーティと数人の冒険者が依頼を見たり、テーブル席で雑談をしている。
その中で、壁際に立って獣人のファルタリアも見かけた。ファルタリアは、パーティを募集しているようだが相手にされていない。可愛いだけじゃダメなんだろうな。
俺は受付嬢に、証明書を見せ、依頼を受けるための登録をしに来た。
「はい、ラサキさん。登録完了しました。私は受付のレニです。これからは、よろしくお願いします。あ、隣の部屋にいる受付は双子の姉、ラニです」
「こちらこそ、よろしく」
長い赤髪の綺麗なレニに、ファルタリアの事を聞いてみたら答えてくれた。
「ファルタリアさんは、まだ冒険者になりたてなので実績が無く、まだ引き合いが無いんです」
受付嬢のレニ曰く、獣人は、ウルフピープル、ウォーリアバニー、グリズリーマン、リザードピープルなどの戦士級であれば人気があるが、キャットピープルやフォックスピープルは人気が無い。
しかしその反面、力があるので、一般的には荷物運びの需要が多い。
「お願いしまーす。是非パーティに入れてくださーい」
テーブルで話をしている冒険者から文句を言われる。
「もう無理だろ。うるさいから、帰れよ」
「そう言わずお願いしますよー。ギルドマスターにも了承してもらってますから」
「あー、わかったから向こうの端でやれ」
ファルタリアは耳を垂れ、隅に追いやられていた。それでも気を取り直したのか、すぐに笑顔で頑張るファルタリア。偉いな、頑張れよ。
そこに、武装した大男が入って来る。二〇歳はとうに過ぎている、いや三〇近いか? 茶髪の短髪で厳つい顔をしているし。
他の冒険者も、男を見たが顔馴染みか知っているようだね。大男は、足取りが良くない。
朝から飲んでいるのか、昨晩から飲み明かしたのかは知らないが、酔っぱらっている。酔いながらも依頼を見ているが、見えるのだろうか。
焦点が合わないようで、壁に何度か頭をぶつけている。あれは相当飲んでいるな。
他から小さく笑い声が聞こえ、男の耳に入ったみたいで周囲を睨む。
そこにファルタリアの声が響く。
「お願いしまーす」
大男が、何かに気に障ったのかファルタリアを睨み、怒鳴り声を発した。
「うるせーよっ! ぶっ殺すぞっ! 獣人っ!」
余りの大声に、震える上がるファルタリア。
「す、すみません」
大男が、千鳥足ながらもファルタリアに近寄る。小さくなっているファルタリアは、隅にいたので逃げ道を塞がれる形で立っている。
「おい、獣人、うるさかった罰を与える。これから俺と寝ろ、奉仕すれば許してやろう」
「そんなあ、嫌です」
「おい、止めろよ」とか「ガエル、やばいよ」とか「それはまずいぞ、ガエル」などと聞こえてきた。振り向いたガエルと言う男。
「ああっ? 誰だ? 何か文句ある奴いるか?」
……静かになるギルド内。
ファルタリアを軽々と担ぎ上げ、肩に抱き抱えて出て行こうとするガエル。怯えて動けないのか、すんなり抱えられていた。
レニがギルドマスターを呼びに行ったが、いなかったようで狼狽えている。ファルタリアは手足を振って抵抗しながら助けを求めているが、ガエルは強いのだろう。
他の冒険者は、無言で何も言えない。仕方がない、行くか。
「おい、大男。嫌がっているんだから止めろよ」
振り向くガエルが、威圧を掛けて俺を睨む。
「誰だ? 見ない顔だが。俺に文句を言うとはいい度胸だな」
「この町に来たばかりなんだ。止めろよ。そんな事をして恥ずかしくないのか?」
無言でファルタリアを落とした。転がっているけど、頑丈って言っていたから大丈夫だな。
ガエルが俺に向かって来て飛びかかるが、酔っているせいもあって難なく避ける。もんどりうって転がるガエル。
起き上がり何かを取り出して飲んだ。何だ? 回復のポーションか? 酔いが醒めたのだろう、首を回し俺を睨んだ。
やばいな、この雰囲気。
「これからが本番だ。覚悟しろよ」
打って変わって急に動きが速くなるガエル。左右に揺れながら近寄り、俺に拳を打ってくるが、何とか躱している。
一度距離を獲った時、瞬間移動のように突然、素早い肩からの体当たりをされて吹き飛ぶ。
ギルド内に響く激しい衝突音。
スキルなのかガエルの動きが見えなかった。直前で体に力を入れて構える事は出来たのでダメージは少しだけ。転がる俺はすぐに起き上がってガエルを見る。
さて、どうしたものか。
そこに、別の男から声がかかる。
「そこまでだ。これ以上事を荒立てれば、捕縛するぞ」
「チッ。運が良かったな。お前は何者だ?」
「俺はラサキ。普通の冒険者だよ」
何故か、肩を押さえながらギルドを出て行くガエル。
声を掛けたのはギルドマスターのようだ。身長一七〇センチ程の金髪黒眼の騎士風な紳士。
「私はウルバン。ここのギルドマスターだ」
「俺はラサキ。この町に来たばかりです。登録もついさっきです」
「事の経緯はレニから聞いたよ。また厄介な奴と揉めたな。あいつは根に持つから気をつけろよ」
「それは参ったな。あまり顔を会わさないようにしよう」
何だ? 外から騒ぎ声が聞こえる。ガエルが、苦痛の表情で倒れたらしい。
他の人が調べたら、ガエルの肩の骨が粉砕された事が原因、との事。回復魔法を掛けてもらうため、荷車に乗せて大魔道士のいる教会に運ばれて行った。
ギルド内の冒険者達も、俺を見て驚いている。俺も、表情には出さないけど、内心驚いているよ。何が起こったのだろうか。
カルバンが俺に振り返る。
「何をした? ラサキ」
「いや何もしていません。体当たりされて吹き飛んだのは俺ですよ」
「それは俺も見ていたが――。ま、ガエルにはいい薬になっただろう」
コーマに感謝しよう。
他の冒険者達も、何事も無かったように日常のギルドに戻る。