第45話 樹海だ
自分勝手な判断で、ルージュに魔法を教えたけど、悪い事をしたかな。ルージュのこれからをどうするか、今後が問題だ。
「なあ、ルージュ。魔法は、まだ鍛錬が必要だけど、使える事はわかった。今後はどうしたい?」
「はい。私の希望が叶うのであれば、この先、ラサキさんとご一緒したいです」
「それは無理だよ。ルージュの両親が反対するよ」
「え? 私、ラサキさんの事を話したら、両親は好きにしていい、と承諾は得ています。むしろ、ラサキさんについて行けと」
はい? 何でそうなるかな。
念の為に家の中に居るご両親に話をしたら、一緒に連れて行ってくれ、帰ってこなくていい、と頼まれた。
そこまでして娘を出したいのか? 若い娘に旅をさせよって事なのかな。
あ、でも、ルージュはまだダメだ。
「ルージュは、まだやらないといけない事がある」
「やります。それは何でしょうか」
「魔法の鍛錬は勿論だけど、旅をするには戦える力が必要になる。だから、冒険者になれるくらいの力を付けるようにしないといけない」
「では、どうすればいいのでしょうか」
「ルージュに、剣術の先生を付ける」
俺はファルタリアにお願いした。魔法以外の経緯を話したら、ファルタリアも快く引き受けてくれたよ。
翌日に、ルージュと武器屋と防具屋に出向き、ルージュの体に合わせた剣と軽装備一式を購入した。ルージュは、恐縮していたけど、反面嬉しそうだった。
数日後、討伐から帰ったファルタリアは、翌日からルージュとの稽古が始まった。
ファルタリアに任せている時は、コーマと一緒に過ごし、フェーニ達との討伐参加は、数回に一度ファルタリアが入り、その間は俺とルージュで剣術の稽古の他、魔力量を分ける練習を繰り返した。
ルージュは、文句ひとつ言わずひたすら鍛錬を続け、体力もつき上達も早かった。
数か月後、ルージュは冒険者登録の試験を受け、無事合格したよ、良かったね。
ルージュには、フェーニ達とパーティを組んでもらう事にした。
押し付けるようで悪いと思ったけど、フェーニとミケリも仲間が増えるのが嬉しいのか、二つ返事で受けてくれた。
そして、フェーニ達に紹介する。俺の後ろから顔を出し、恥じらいながら話すルージュ。
「ル、ルージュです。これから、よろしくお願いします」
「フェーニだよ、よろしくね」
「ミケリですニャ。よろしくニャ」
すぐに三人で、連携やら補佐やら攻撃方法を話し合い、訓練して数日。
結果、ルージュはまだ未熟で、まだ樹海は厳しいらしい。そうだよな、数ヶ月で樹海の魔物を相手にするのはきついよな。
しかし、実地で覚えた実戦も大事だし。そこでファルタリアに、ルージュの補佐と援護をお願いした。
そう決まり、四人仲良く討伐に出かけて行った。
念の為、ルージュには魔法は禁止、三人にも同様に他言無用と忠告しておいた。
今まで一度もポーションを使っていないから、回復魔法も必要ないだろう。ただ、心配事が一つある。
ルージュを下ネタ話に巻き込む事だ。ファルタリアには打診しておいたけど大丈夫だろうか。
まあ、ルージュはしっかりしているから心配ないかな。
四人を見送った後、俺は何をするか。身支度をしてギナレスの町を後にする。途中までは、樹海に行くのと同じ道。
フェーニが言っていた幾つもの入口がある道の中で、一番奥の入口に入る道。この道は、人気の無い道なのか誰も入らない。
コーマは、隣を歩いているだけなのに楽しそうだ。
足取りも軽く、誰もいない野営地を通り過ぎ樹海に入る。フェーニ達と入った樹海より、樹木が濃く草も鬱蒼と茂っている。
俺とコーマは奥へ、さらに奥へと進んで行く。夜になっても歩き続ける。
「大変だろ、コーマ。消えていれば?」
「いいの、ラサキと一緒だから楽しいの。ウフフ」
「なら、いいけどさ」
「ギュー、ウフフ」
「おいおい、コーマ。歩き辛いよ」
「ウフフ。実体になってラサキに触れるって楽しいよ」
魔物の出る樹海、それも夜の真っ暗な樹海を楽しそうに歩いている。誰かが見たら、俺達が魔物と勘違いされそうだな。
さらに奥へ進む事二日。順調に歩いているけど、魔物と戦いながら進んだら一週間はかかりそうだよ。
無論、ここまでは誰一人入った事の無い無垢の樹海だ。まだ樹海は続くけど、樹海を抜けたかのような広場に出る。
もうすぐかな。
木々を抜けると、奥から炎の矢が放物線を描かずに一直線に飛んで来る。初めて見る魔法の矢だ。
その矢を避けて、横から矢を掴んだらすぐに消えた。
「アッツ。炎で出来た矢だよ」
今度は、先の尖った五〇センチ程の氷柱が飛んで来たので、同じように掴んだらまた消えた。突き刺されば消えるのかな。
なるほど、こういう魔法もあるのか。炎の矢のすぐ後に氷の矢を放って来たのだから、詠唱はどうなっているんだ?
その後も数回、連続攻撃してきたけど、簡単に掴んだり避けたりしていたら、諦めたのか攻撃してこなかった。
あ、奥の木陰から顔を半分出している子がいる。白髪が見えるよ。あ、引っ込めた。
少し歩くと、違う場所の木陰から顔を出して探るように俺を見ている。女の子だな。あ、引っ込んだ。
気が付かない振りをして歩き続け、やっと大きい樹木で出来ている家が見えて来た。木の中に部屋があるのか、窓が見える。
その横には入口らしき扉もあった。家の陰から顔を半分出す女の子が怯えた声で話かけて来た。
高く可愛い声。
「だ、だれかや?」
「こんにちは、驚かせてゴメンね。俺はラサキ」
「な、何しに来たのかや?」
「魔法の話が聞きたくてね」
「私が此処に住んでいる事を何で知っているのかや?」
「うん、神様に聞いたから」
「エエェ? か、か、かみしゃま? さまかや?」
噛んでいるし、魔物が棲んでいる樹海に住んでいるのに、そんなに驚く事かな。
「そうだよ。神のコーマと言うんだ」
「そ、その、う、後ろにいる綺麗な人かや?」
「コーマよ、よろしくね。魔女さん」
神と言ったら落ち着いたのか、オズオズと前に出てきた。
身長は一二〇センチ程、つぶらな赤い瞳で、まっすぐ伸びた綺麗な白髪が地面に届きそうだ。細身で色も白く、銀色の衣装のような服を着ている。
でも昔、噂に聞いていた魔女らしい帽子はかぶっていなかった。
可愛い少女だな、まだ一二歳くらいか?
後ろからコーマが答える。
「ラサキ。彼女、三〇〇歳は、ゆうに越えているよ」
間違いを正すように魔女が答える。
「あたいは、三五七歳ですがや。子供じゃないですがや」
「コーマは。うっ、睨むなよ」
「私は十七歳よ」
話しをしていたら、危険ではないと判断したのか、安心している。怯えが無くなり、可愛い顔の少女になった。
むしろ、人と話が出来て嬉しそうな人懐っこい女の子、と言う印象を受けたよ。
「あたいの名は、サリア、ヴァリシッサ。私の家に入るかや? 茶くらいだすがや」
家に入り、見回す。木の中をくり抜いたように部屋が出来ているよ。天然の木の温もりなのか居心地もいいし、上手く出来ているな。
窓際にある、木の年輪のテーブルを囲んで椅子に座る。
サリア、ヴァリシッサが、お茶と皿に乗せた木の実を出して来た。




