第43話 討伐に参加した
この町にしばらく滞在する事を決めて、宿から借家に変更した。その方が安上がりだしね。
フェーニ達の家とルージュの家の中間に位置する場所で見つけた。間取りは、居間と大き目の部屋が一つあれば十分だ。
そして、三人用の大きいベッドも購入したよ。
今日は、フェーニとミケリと約束した日だ。
前日に、ギルドで魔物の討伐依頼を受けて出立し、樹海まで辿り着くのに一日かかる。
樹海の手前にある、依頼を受けた冒険者が集まる野営地で野宿して翌日、ギナレスの南に位置する場所の樹海に入っている。
依頼も多く受け、有名人となっている上に、樹海に慣れているフェーニ達に案内されて進むからとても楽だ。
フェーニとミケリを見ていると、とても仲良くしているね。そこにファルタリアが入ったから遠足気分なのだろう。
俺達と一緒が嬉しいのか二人の笑顔が絶えなかった。
「ラサキさん、ファルタリアさん、この先からは、ミノタウロスやウルフファングが多く出ます」
「ああ、気を引き締めて行こう」
コーマは、面倒だから、と朝から消えている。その時に俺は、魔物除けを解いてもらったよ。
じゃないと魔物が出てこなくなるからね。
ファルタリアもやっと討伐に来れて楽しそうだな。バトルアックスを回転させながら歩いているし。
「早く出て来ませんかー。魔物さーん」
先頭の二人が構えた。奥から何かが向かって来るようだ。続いてファルタリアもバトルアックスを構える。
後衛の俺は、投げやすそうな石を持っている。
二体のミノタウロスが剣を持って現れた。オーガが持っている棍棒では無く、アイアンソードを持っている。
冒険者から奪ったのか? 二〇〇年前との違いで、俺が疑問を抱いているにもかかわらず、当たり前なのか、さっそくフェーニとミケリが連携でミノタウロスに飛びかかる。
以前より切れがいいな、速くて的確だ。ミノタウロスが、剣も当てられずに翻弄されて、二人に交互に切られ倒した。
もう一体は、ファルタリアと戦闘を開始している。
何度か剣がぶつかる金属音がしたけど、ミノタウロスはファルタリアの敵じゃなかった。
力のある剣の一撃を、軽々と受け流して上段から一刀両断した。フェーニ達も、初めて見るファルタリアの力と、迫力あるバトルアックスに驚いていたよ。
次に、鋭い牙と長い爪を持つ、黒い毛のウルフファングが四体、勢いよく現れて襲ってきた。
気配を感じて三人とも構えているので、攻撃を軽く避けた。そのうち一体が急反転して飛びかかって来た。
その一体を、ファルタリアが狙っていたのか、構えていたのか偶然か、一撃で真っ二つにすると、動揺したウルフファングに、フェーニとミケリが連続攻撃して隙を誘い切り倒す。
一体はファルタリアと交戦していたけど、最後の一体が後ろから襲って来たから、持っていた石を投げた。
俺に気を向ける搖動のつもりで投げたんだけど、ウルフファングの横腹に穴が開いて倒しちゃったよ。
知らずにファルタリアは、笑顔でウルフファングと戦っている。楽しいのはわかるけど、一体に集中しすぎるなよ。
そして、攻撃してくる牙を、バトルアックスで避けて切り裂いて倒した。
討伐も、結構しんどいな。と感じているのは俺だけか。息も切れずに。三人とも楽しそうだよ。
一通り討伐した後に、フェーニがナイフを取り出して、ウルフファングの両耳を切り取る。ミノタウロスも両耳を切り取った。
それを袋に入れる。
「これが討伐の褒賞金に変わります。手でも頭でもいいのですけど、一番軽く荷物にならない耳か指がいいです」
「いいですニャ」
昔と変わらないな。
「しかし、討伐依頼を受けている冒険者も、他に沢山いるだろうけど、誰とも会わないな」
「はい、滅多に会いません。樹海には、至る場所に入口が幾つもあって、難易度も違うのです。今日は、ラサキさんとファルタリアさんもいるので、中の上クラスに入っています」
ファルタリアも、ウズウズしている。
「楽しいです、ラサキさん。早く進みましょう」
それからも、来る魔物を片っ端から容赦なく倒した。
エルフと獣人は戦闘民族なのか? それに、キャットピープルは、強くないから人気が無いって嘘じゃないのかな。
戦いを楽しんでいるし、狩猟本能なのかな。
俺は一九歳の体を貰っているけど、四〇年を過ぎている俺にとっては面倒だし、正直言うとつまらなかった。
だから今日一日は、主な攻撃は三人に任せて俺は後方で援護した。
魔物が多かった時に、手に余りそうな魔物に石を投げ、一撃で風穴を開けて倒した。こうしていると、また疑問が浮かんだ。
何で狙った通り簡単に当たるんだ? あー、コーマが何かしたな。
コーマが、三人に見えない体で現れて、抱きついて来る。
「ゴメンね、ラサキ。一緒に寝ている時に、あなたが愛おしくなってしまって、知らず知らずに強くする力が漏れていたみたい。ウフフ」
「コーマのする事だからいいよ。ありがとう」
魔法は使えないけど、俺ってどれだけ強くなるのだろうか。
魔法で思い出し、フェーニはエルフだから知っているかと思い、魔法の事を聞いたけど、孤児だったので、使えないし見た事も無いと言っていた。
他のエルフはどうなのだろうか、期会があったら聞いてみよう。
その日の討伐数は、フェーニ達の最高記録を簡単に超えていた。それはそうだよ、人数が増えたからね。
討伐も終わり暗くなってくる。暗い樹海を抜けて野営地に向かうと、誰が言うまでも無く、その中央に薪を炊いて辺りを明るくしていた。
フェーニとミケリも、早く戻った時は火をつける、と言っていた。四人でくつろげそうな場所を見つけ、携帯食を食べる。
三人の会話も、今日の討伐の話で談笑し、楽しそうだった。
俺は会話には入らず、一つ離れて見えないコーマに抱きつかれている。会話に華が咲いたのか、声を大きくした三人の会話が聞こえて来た。
「でね、私はもうラサキさんの肉奴隷のようなものだから、当面の目標は、ラサキさんと合体する事なの」
「そうなのですか。では私も、当面の目標はラサキさんの肉奴隷です。エヘヘ」
「にくどれいですニャ。エヘヘ」
「大丈夫よ、フェーニとミケリは可愛いから、ラサキさんも、すぐに肉奴隷にしてくれるわよ」
「ラサキさんの家に行くのが楽しみです」
「たのしみですニャ」
何の話をしているんだよ、周囲にいる冒険者が口を開けて見ているじゃないか。
女性の冒険者パーティも俺を蔑んだ眼で睨んでいるよ。
「ファルタリア。その話は、変な誤解を招くから止めろ。フェーニとミケリも、まだ子供なのだからそういう事は言わないの。他の冒険者が俺を見て、疑った眼をしているじゃないか」
「私は構いませんよ。気にもしませんし」
「私も一向に気にしません」
「きにしませんニャ」
「まて、俺が気にするの。とても気にする事なの。頼むから止めてくれ」
「ラサキさんが、それほど言うのであれば止めましょう。では次に、ラサキさんの、でっかいちん、ぶぶっ」
慌ててファルタリアの口を塞いだ。
「おい、ファルタリア。天然もいい加減にしないと怒るよ」
「んぶぶっ、す、すみません」
肩を落とし、尻尾も小さくなるファルタリア。フェーニ達も反省しているようだ。
この三人は危ないな。
もしかして、俺のいない時はその話ばかりなのか? 後でファルタリアに聞いてみないとな。
そっち系の話は、恥ずかしいから大っぴらに話すのは止めていただきたい。
フェーニとミケリも大きくなったら話しなさい。




