表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/164

第42話 滞在した2

 急に詠唱を止められ、動揺しているルージュには、声に出さず黙読しているように指示した。

 怒られた訳では無い事を知ったので、改めて眼を輝かせて黙々と読み始める。

 コーマが言うには、ルージュは魔法使いとしては稀に見る逸材で、町を包み込んだ光の球が魔力の量と比例する。

 その量の大きさは国の大魔道士を凌駕している。

 あのまま詠唱を続けていたら、確実に魔法は発動していた。

 どういう魔法かは、定かではないけど、ギナレスの町が、消し飛ぶほどの大きさにはなっただろう。

 いやー、危なかったな。町が無くなるってどんな魔法なんだ? 危なそうだけど一度は見て見たい衝動に駆られた。

 俺とルージュは、一度町を出た。

 しばらく西に向かって歩き、荒れ地の山が見える場所に出て人気が無い事を確認する。


「ここなら大丈夫だろう。ルージュ、あの山に向かって詠唱していいよ」

「はい」


 本を読みながら詠唱するルージュ。


「偉大なる始まりの炎よ――中略――発動せよ ヘルフレイム」


 詠唱し終わったと同時に、ルージュの前には幾何学的な魔方陣が幾重にも展開され、巨大な紅蓮の炎が山を包みこんだ。

 と思ったら、地面が揺れ、耳を塞ぐほどの轟音と共に山の大半が簡単に消し飛んだ。その名の通り、木端微塵だよ。

 その爆風が俺達に向かって来たので、吹き飛ばされそうになるルージュを後ろから抱きかかえるが、すでに気を失っている。

 こんな攻撃魔法は、大きすぎて使えないだろ、いや、使ったらいけないだろ。

 誰かに見られたら不味いから、ルージュを抱きかかえて、一目散に逃げ出した。無事に町に辿り着いたら、何事だ、と大騒ぎになっている。

 コーマに助けられたかどうかは知らないけど、誰にも見られないように逃げ切ったようだ。ふぅ、危なかったな。

 初めての魔法で、力加減がわからないルージュは、一度に魔力を使い切って枯渇したので気を失った。と、コーマが教えてくれた。

 暫くして、こっそりと入った俺の宿で、寝かせていたルージュが目を覚ました。


「ルージュ、大丈夫か?」

「あ、あれ? ボク、気を失ってました? 体が重いです、それに頭も……」


 幼いながらも、疲れ切った無表情で手を額に添える。


「魔力の枯渇で気を失ったんだよ。一度の攻撃魔法にルージュの魔力を全て乗せたみたいだ」

「山に当てるイメージで、詠唱を唱えただけですけど」

「魔力量を制限する鍛錬が必要だね。まだ、やる気があるのならルージュの力になるよ」

「はい、お願いします」


 鍛錬方法を探す間は、ルージュに本の黙読だけに留めるように言っておいた。

 コーマによると、枯渇した魔力を元に戻すには、数週間かかると言う。慣れれば一日の休息で戻るけど、初体験だったので体が魔力に追いついていないらしい。

 その後、家に送り届けたら、外に両親がいたので、本は俺が贈った旨を言っておいた。盗んだと思われたら可哀そうだからね。

 しかし、調子に乗って言ったはいいけど、どうやって鍛錬するんだ? 練習方法だって知らないよ。

 あの化け物じみた攻撃魔法の調整が出来るのか? 何度も派手に爆裂させていたら、すぐバレて捕縛されるだろう。

 参ったな、うん、こういう時は気分転換が必要だ。


「皿食食べに行こうか」


 すぐに表れるコーマ。近くにいたんだね。


「うん、行こう。ウフフ」


 昨日と同じ店がいいと言っていたコーマ。気に入ったようだね。皿食を、嬉しそうに食べる可愛いコーマ。


「ラサキ。これ、美味しいね」

「ああ、美味いな」


 食べ終わる頃、飲み物で一息ついているコーマに聞いてみた。


「魔力量の調整ってどうすればいいのかな」

「知らない、ごめんね」

「いいよ、気にするな」

「でも、あの光の玉を手で分けるイメージすれば、出来そうな感じがするけど」

「なるほどね、やってみる価値はありそうだ」


 しかし、攻撃魔法は派手だからうかつに出来ないし。

 ――あ、そうだ。回復魔法でやればいいんだよ。

 でも、魔法が使える事がわかったし、魔力量の回復もあるから事を急いでもいい事は無い。

 夕暮れ時、ルージュに会って、しばらくは本を熟読して、出来るだけ理解するように言っておいた。一度でも魔法が出来たのだから、その方が効率はいいと思った。

 急がば回れ、時間はあるんだから、ゆっくり焦らず行こう。


 後日談、山の焼失は、大騒ぎになったけど、あれだけ大規模な魔法は存在しないと決められた。国の大魔道士でも、山を消し飛ばせるまでの力は無いらしい。

 結局、隕石が落ちて山が無くなったと言う落ちになった。何はともあれ、大事だけど大事にならなくて良かったよ。

 今後は気を付けよう。

 ルージュの魔法鍛錬は、一区切りついたので、次は、フェーニ達との討伐参加だ。よく考えると正式に依頼を受けた事が無かったな。

 これが初めての討伐依頼だ。

 準備する事は、怪我した時のポーションは必要だろう。

 フェーニとミケリも、二人で三個持っていると言っていたし。俺もファルタリアも頑丈だけど、二個買っておくとしよう。

 ファルタリアも宿に帰って来て、フェーニとミケリと一日を過ごした事が嬉しかったのか、しつこく俺に話しかけていたけど頷きながら聞き流した。

 楽しかったのだろうね、充実した再会を思い出しているのだろう、緩い笑顔になっていた。

 それはそれで良かったと思うよ、ファルタリアが教えた鍛錬仲間だもんな。

 合同討伐は2日後に決まった。

 ファルタリアは、居ても立っても居られない素振りを見せていたけど、バトルアックスを取り出したかと思ったら、手入れを始めた。


「ファルタリアも、フェーニ達と一緒に暮らせば?」

「ええぇ? そんあぁ。ラサキさんは、私の事を愛しているのに突き放すのですかぁ? どれだけSなのですかぁ? 私はラサキさんと一緒がいいですぅ」

「あ、いや、無理に行っている訳じゃないよ。フェーニ達と居ると楽しそうだし、思う存分魔物の討伐もいけるだろ」


 急に怒った表情になるファルタリア。


「ラサキさん! 私はラサキさんと一緒がいいです!」

「あ、うん、ならそれでいいよ。そんなに攻撃的になるなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

「そんな、可愛いだなんて。知っていますよ、エヘヘ。あ、行けない、行けない。危うくラサキさんの口車に乗せられるところでした。私はコーマさんと同じく、ラサキさんと一心同体です。ラサキさんとの合体を夢見る、恥じらいのある乙女です」

「何だかなぁ、いいのか? それで」

「勿論です。合体を夢見る乙女ですよ、ラサキさん。合体です! がった、ムグッ」

「わかったから静かにしろよ。恥ずかしくなるよ、全く」


 コーマはベッドで寝転がりながら、ずっと黙って俺とファルタリアのやりとりを見ていたけど、俺の後ろから首に両手を回してくる。


「私もよ、ラサキ。ファルタリアの言葉を借りれば、私も合体したいの。ウフフ」

「あー、もう、覚悟はしているけど、もう少しだろ。何だか俺が女になった気分だよ」

「ウフフ、楽しみに待っている……ん」


 ファルタリアも、俺の体に擦り寄って来た。


「私も仲間に入れてくださいよぉ。寂しいですよぉ。ラサキさん大好きですよ。エヘヘ……んー」


 事が済んだら、ファルタリアの毛並みのいい膨らんだ尻尾をモフッた。

 フゥ、癒された、もう寝ようね、おやすみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ