第39話 一悶着あった
次は皿食だ。昨日は勉強させられたから、今日は美味しい店に行こう。
俺とファルタリアは、昨日の店を横目に客がいないのを確認して、やっぱりそうだよな、と通り過ぎる。
そして、数軒の皿食屋が見渡せる場所から人の出入りを眺め始める事にした。
人の流れを調べる事少々、この町の住人が多く入る皿食屋を見つけ、そこに決めた。
コーマも現れ、嬉しそうに腕を組んできた。
「今日は、美味しいといいね。ウフフ」
皿食屋は、混んではいたけどすぐにテーブル席に着けた。他の客の笑顔を見れば、これは期待して良さそうだ。
二人がテーブルに持って来た料理は、鶏肉のから揚げだ。一口で食べられる大きさで揚げてあり食べやすく、美味かった。
昨日とは比べ物にならないよ。コーマも勢いよく食べている。ファルタリアも、口の周りを衣の粉だらけにして食べている。
あ、これはお代わり確定だね。
「お代わりしていいから、ゆっくり食べなよ」
「ウフフ、ありがと。ラサキ、好きよ」
「私もラサキさん、好きですよ。あー美味しい」
食後は町中を見て回った。ギナレスの町は、至って普通の街並みだね。他の町と変わらないよ。
ただ、冒険者の歩いている割合は多かった。
依頼を受けていない冒険者が、武器屋や防具屋に多く出入りしている。どの店も繁盛しているようだ。
散策しているうちに日も傾いて来た。
ファルタリアが、依頼を見たい、と言うので、どんな依頼があるか一度ギルドに行って見る。
「ラサキ、ギルドは苦手だから消えているね」
コーマと別れ、ファルタリアとギルドに入る。中は、依頼を終えたのか冒険者で混んでいる。
むせ返る汗と言うか、匂いと言うか、湯気でも立ちそうだよ、圧倒されそうだ。
受付も、苛立ちながら順番を待って並んでいるほどだ。
あ、シャンティの顔が、怒っているように忙しそうだから行くのは止めておこう。
テーブル席も埋まっているので、立ち話もしている。人を避けながら掲示板まで辿り着いたよ。
今朝とは全く違うな。冒険者の町と言うのも頷けた。
依頼はシャンティの言った通り、樹海から出てきた魔物の討伐が多かった。
同じ依頼が何枚も貼られて、依頼主はどれもアルドレン帝国だった。
なるほど、依頼を受ける冒険者は、何組でも参加できるのか。それだけ魔物が出るのだろう。
ファルタリアを見れば、眼が輝いて掲示板を食い入るように見ている。
「行きたいのか?」
「はい、行きたいです」
「一人で行って来てもいいよ」
「ええぇ? それは嫌ですよ。ラサキさんと一緒がいいです。安心ですから」
「じゃ、まだ行かない。いつでも行けそうだからさ」
「一度は早めに行きましょうね」
後ろから、俺に男の声がかかる。
「おい、そこの黒髪! お前がラサキか?」
身長二m程の、いかにも冒険者だよ、と言わんばかりの体格のいい茶髪の男。
「そうだけど、何か」
「昨日は、俺の弟分が世話になったな」
「は? 何の事でしょうか」
「しらばっくれるなよ、集落から護衛の依頼を受けた隊長だ」
「あ、ああ、あの代表さんですか」
「身ぐるみ剥いだそうだな。それに強いんだって? その鼻っ柱をへし折ってやるから俺と勝負しろ」
「ご遠慮します、さようなら」
混んでいるギルドだから、人を避けながら出て行こうとしたけど、仲間なのか、わざと立ち塞がれて進めない。
周囲の冒険者達も暇つぶしなのだろう、面白がって見ているからね。さて、どうしたものかな。
「なんだ、尻尾を巻いて逃げるのか。臆病野郎」
「ファルタリア、尻尾を巻け」
「ええぇ? 私の尻尾を巻くのですかぁ? ラサキさん、恥ずかしいですぅ」
「じゃ、俺が巻いてやる」
ファルタリアの尻尾を巻きながら出て行こうとすると、大爆笑している冒険者達。馬鹿にされた、と思った男が俺に掴みかかった。
その手を掴み返し振り返ると、もう片方の手で殴り掛かってきた。その拳も掴んで、他の冒険者に聞く。
「すみませんが、これは正当防衛でいいのでしょうか」
「いいよ、いいよ、好きなようにやれば。ただし、出来ればだけどな。ハハハ」
周囲の冒険者も、俺より体が大きい男の方が強いと思っている。掴んで動けない男は、力の差を知ったのか焦りの表情に変わっている。
「では、お言葉に甘えて。ハッ!」
渾身の力を込めて、両手を握った。何本もの手の骨が砕ける音を響かせて、その男の両手を握りつぶした。
「ギャャャーッ!」
ギルド内に響き渡る程の、絶叫を発して倒れ込む男。その声に、ギルド内に静寂が流れる。
悲惨な光景に、見ていた周囲の冒険者達は声が出ない。
その眼の先には、潰した両手の所々から骨が飛び出して、手の原形を留めていない男が、床に倒れて悶絶していたのだから。
「これで如何でしょうか、正当防衛ですよ」
俺は周囲の冒険者に薄笑いを浮かべて見るけど、顔面蒼白で誰も声を出さない。
「では、失礼します」
ファルタリアは、俺が丸めた尻尾をお尻辺りで押さえている。律儀だな、解いてもいいのに。でもそれが無性に可愛かった。
「では、尻尾を巻いて出て行こうか。ハハハ」
笑ってファルタリアの尻尾を押さえながらギルドを出て行く。
立ち塞がれていた人垣は、瞬く間に割れて入口が見えた。ギナレスの町の冒険者は、血の気が多いのかな。
これくらいで済めばいいんだけどな。
宿に帰り、ファルタリアの尻尾をモフッてから就寝する。毛並みもいいし可愛いし、あー、気持ち良かった。
翌日、何処で聞いたのか、ギルドの使い、と名乗る人が来て、俺達に昨日の事で聞きたいらしい。
やっぱりね仕方がないな、行って見るか。コーマもいたけど一緒に寝ただけで朝には消えている。いつになく忙しないな。
一人で行こうとしたら、ファルタリアも、ついて来る、と言うので一緒に行った。
ギルドには、昨日の男が、両手に包帯を巻いて座っている。その隣には、あの代表もいたので軽く挨拶してみた。
「よう、昨日の今日で大丈夫なのか?」
「うるせえ! 手は動くまで治っている。お前のお陰でポーションを数十本使ってしまったよ」
「それはそれは、大変だったね。代表さんも用事?」
「代表じゃない。俺は、ムンガだ。この人は、兄貴分のリガンデさんだ」
「俺はラサキだ。連れはファルタリア」
「後で吠え面書くなよ。へへへ」
ん? 何かしたのか? そこにシャンティが来て、俺とファルタリアはギルドマスターの部屋に通された。
中で座って待っていたのは、推測だけど身長は一四〇センチ程の金髪茶目の太った紳士風の男だった。服も、ボタンが引っ張られて、今にもはち切れそうだよ。
「私がギルドマスターの、トレナコだ。よろしくな」
「ラサキです」
「ファルタリアです」
ソファに座ってトレナコと対自する。




