第38話 次の町に着いた
辺りは暗くなっているけど、検問所で聞いた皿食屋に行ってみた。この町の皿食屋は、この店の他にも数軒あるらしいので、楽しみが増えたね。
すでに現れているコーマとファルタリアは注文しに行っている。
しかし、混雑する時間にも関わらず客がいなかった。嫌な感覚がしたけど仕方がない。
二人は、肉料理の盛って有る皿食を持って来て食べ始める。俺もファルタリアに持って来てもらった皿食を食べる。
うーん、お世辞でも美味くない。味付けが薄く、肉の旨味も無い、そして硬い。
決して食べられない訳じゃないけど、皿食としてどうなのだろう、いいのか? コーマとファルタリアは、初めて皿食をお代わりしなかった。
仕方がないな、こういう事もあるよ。
検問所はこの店を推薦する代わりに、金品でも受け取っていたのかもね。
二〇〇年前もこうした事はあったし、世の中は変わらないものだな。値段は普通だったので好としておこう。
久しぶりにいい勉強になったよ。コーマとファルタリアも諦め顔だ。
「ラサキ、明日は別の皿食ね」
「私もそれがいいと思います」
そうだね、明日は別の皿食屋に行こう。
次は宿屋だ。宿屋も検問所で聞いていたので見に行った。
その一角は、宿屋街になっていたので、立ち並んでいる宿屋から検問所に教えてもらった宿屋を遠巻きに眺める。
やはり誰も入らないし、中に人の気配もしない。ダメだな、あの宿屋は止めておこう。
数軒先の宿屋には、人の出入りが多かったのでそこに決めた。入ってみると混んではいたけど、三人部屋は空いていた。
三人一ベッドって、特殊なのかな。部屋に入るとベッドに倒れる。続いてファルタリアも倒れてくる。
疲労が溜まっていたのでそのまま就寝。
日も高く上っている頃、眼が醒めれば、すぐに二人の手をどける。
それ以外は慣れてしまったのか気持ちがいいし、美女に抱かれている事にも気分も良くなってきた。
うーん、やばいな。体が若いから、揉んでみようかな、などと年甲斐も無く手を出してしまいそうになったよ。
宿屋を出たらギルドに向かう。数人の冒険者がテーブル席に座っていたけど、時間帯も遅いから他には誰もいなかった。
どの町のギルドも同じだな。話を聞こうと受付に行く。
座っていた女性は、腰まである赤髪に赤眼の可愛い女性。 ん? キャンティに似ている。でも、全く違う所もある。
それは見える谷間が自己主張しているように巨大な瓜が二つ実っている事だ。
俺の視線に気づいた受付嬢。
「変な事をお考えですか?」
「あ、いや、ララギの町に、君に似た女性がいたんだ」
「ギルドのキャンティですか? あの子は私の妹です」
「ああ、道理で。俺はラサキ、連れはファルタリア」
「いらっしゃいませ、ラサキさん、ファルタリアさん。私はシャンティと言います」
シャンティに、ギナレスの町の事を聞いてみた。
シャンティ曰く、ギナレスの町は、冒険者の町、又は討伐の町、と呼ばれている。
町の南には広大な樹海があり、魔物の発生源になっている。
そこから現れる魔物を討伐する依頼が多く、多くの冒険者が依頼を受けても毎日繰り返される。
依頼主は、アルドレン帝国。ギナレスの町の南西に位置する場所に、アルドレン帝国があり、樹海からは東に位置している。
樹海の魔物が、アルドレン帝国に入ってこないように依頼が出され続けている討伐の町。
当初は小さい町だったが、依頼が多くなり始め、冒険者が集まるようになって定住を始める人も多くなってきた。
今では武器屋、防具屋を始め、宿屋や商店、皿食屋が冒険者で繁盛し成り立っている。
常時三百人以上の冒険者が滞在している他、町にも百人以上が住んでいる。
魔物も町に向かって来るので、塀も高く頑丈に出来ている。人口も、七〇〇〇人程まで多くなった町。
「なるほど、活気があっていい町だね」
「しかし、難点もあります。余りにも冒険者が多いので、極一部では治安が悪い場所もあります」
「気を付けるよ、シャンティ。ありがとう」
「ラサキさんも討伐の依頼を受けますか? まだ幾つもありますが」
「当面は受けないよ。俺達は旅行者だからね。まあ、気が向いたら検討するさ」
ギルドを出ると、ファルタリアが肩を落としている。
「魔物退治しないのですか? ……切れ味試しませんか?」
「しないとは言ってないよ。すぐに町を出る訳じゃないからゆっくりしよう」
「はい、楽しみに待ってます」
魔物退治か。楽しいのかね、面倒だと思うけどな。
町中を歩いていたら、ある一角が柵で囲われた広場に家が立ち並んでいた。ん? 区分けされているのか? 策の中を見たら集落の子供達が遊んでいる。
柵は気になったけど、入口は門も無く開放的で、閉ざされている訳じゃなさそうだ。
あの女の子はどうしているかな。
中に入って、気になっていた女の子を探すと、すぐに見つけた。広場の隅に、一人座って光の球で遊んでいた紫色の髪の女の子
「こんにちは」
「あ、ラサキさん、こんにちは」
「えーと、名前聞いていいかな」
「ボクはルージュです」
「ルージュは、いつも光の球で遊んでいるのかな?」
「え? 見えるのですか?」
驚くルージュ。
話を聞けば、昔一度だけ光の球の話をしたら信じてもらえなかったので、それ以来黙っている。
誰にも見えないので一人で遊んでいる事にした。
それに、一緒に遊ぶことが苦手なのでいつもこうしている。光の球は、楽しいと現れるけど、悲しい時や疲れた時は出てこない。
光の球は、手の平にくっ付く訳でもなく離れもしない。それ以上の事は何も起きないし被害も無い。
「フーン、もう一度だせるかな」
「はい、こうして手の平を上に向けて、心の中に光の球を思い描きます」
ルージュの手の平の上に、淡く光る光の球が出た。
「触ってみていいかな」
「は、はい。初めてなのでわかりませんけど、どうぞ」
触ろうとしたけど、空気の幕があるように俺の手を避ける。離れる訳でもなく避ける。ただ、避ける直前で手を止めたら温かみを感じた。
「暖かいね」
共感したことが嬉しかったのが、初めて可愛い笑顔になる。
「わかりますか? そうなんです、暖かいんです。だから遊んでて楽しいです」
「いつ頃から出来るようになったのかな」
「いつの間にか出来るようになっていました。でも、あまり遊び過ぎると体の調子が悪くなるんです」
「そうか、無理をしないようにね。いい物を見せてもらったよ」
「見える人がいて嬉しいです。エヘヘ」
また来る約束をして、手を振ってルージュと別れた。




