第36話 ついでの人助けだ
一度立ち止まって聞こえた方向を向く。またすぐに罵声が聞こえた。
また面倒事かな。通り過ぎても誰も文句は言わないけど、嫌な気分になるか。
ファルタリアは、俺よりも耳が良いから何を言っているのか聞こえているようだ。
「ラサキさん、集落の方向で揉め事みたいです」
「そんな気がしたよ。役に立つか知らないけど行って見るか」
俺達は、声の聞こえる集落に行ってみる事にした。
その場所には、一〇軒ほどの家が、広場らしき場所を囲むように円を描いて立っている。
その中央広場らしき場所で住人と冒険者らしき男達が話し合いをしているようだ。
集まっている人の後方に、静かに近寄って罵声の内容と住人の話に、聞き耳を立てて聞いてみた。
この集落は、沼の魚と森の野菜や果物を採って細々と暮らしていた。魔物も出るけど退治しながら暮らせていた。
しかし、近年一人、また一人と魔物に殺され若者が少なくなり、魔物の犠牲者が増えた。
そこで、これから俺達が向かう町のギルドから、町で定住する援助の準備が整っているから移住してくるように、と要請があった。
その代り、移動時の護衛する冒険者の依頼料は、集落で負担してもらう。
いい案だと思うよ。それなら集落の長が、取りまとめて支払えばそれで終わりだろう、と思ったら違うらしい。
集落の長が、一軒当たりの金額を知らせると、払える家と払えない家があり、自然の中で生計を立てていたから金など無い。
物々交換が主だから尚更だ。集落としても支払えるほど資金は持っていない。
それが罵声の原因だった。
煮え切らず、痺れを切らした十数人の冒険者の代表がまた怒鳴り散らす。
「だから払うものを払えよ! 払った家だけ連れて行く! それでいいだろ! 他の奴は知らん!」
年老いた長が懇願する。
「今出したのが全てです。これ以上支払える物がありません。支払えない家も一緒に連れて行ってはもらえないだろうか」
「さっきから言っているだろ! 嫌だったらこの話は無しだ、引き上げるぞ」
あー、この手の話は有りがちだな。支払えない家は二軒。集落の四〇人のうち八人、両親と子供が二人の二組だった。
黙って聞いていたファルタリアは、嫌な顔をしている。
「ラサキさん、私、あの人達嫌いです」
「嫌おうが構わない。これは契約だ。あの冒険者達は正当だよ、悪くは無いし、変な事も言っていない」
驚くファルタリア。俺が冒険者の肩を持つとは思ってもいなかったようだ。
「ラサキさんまで……そんなぁ」
涙目になるファルタリア。厳しい事言ったけど、これは正当な事なんだよ、悲しいけどね。
こればかりは昔から変わっていないな。
落ち込んでいる、そんなファルタリアの頭をなでる。
「運がいいよ、良かったな。今は俺とファルタリアが居るじゃないか」
明るくなるファルタリア。
「では、助けてあげるのですか? いいのですか?」
「勿論だよ」
俺は集団の中に入り、冒険者の代表に話しかける。
「話は聞いたよ。そこの二家族は俺が引き受けよう。いいかな」
「見ない顔だな。誰だ。どこから来た」
「俺は旅行の途中で偶然通りかかって、声を聞いて立ち寄ってみただけだ。俺もこの先の町に行く途中だったんでね。ついでだから引き受ける事にした」
「ハハハ、無償でやるのか、おめでたい奴もいたものだな。道中、魔物に殺されないように気をつけろよ。これで商談成立だ。準備しろ!」
安堵する住民達は、出立の準備をしに各自家に帰った。集落の長が俺に話しかけて来た。
「ご迷惑おかけします、旅のお方。何のお礼も出来ませんゆえ」
「知っているよ、気にしなくていいよ」
ファルタリアは、まだ納得がいってないようだね。でも、四〇年生きてきた俺は、冒険者に同感だよ。
金を貰えない依頼を受けても、良い事なんかあった試しはない。若くなった今は違うけどね。
俺の受け持つ二家族と話をして、その日は雨露を避けられる小屋を借りて就寝。今夜は、ファルタリアの尻尾を抱き枕にして気持ちよく寝た。
翌日、冒険者と金を支払った八家族、三二人は先に出立して行った。
街道まで出た事を確認した俺は、寝ているファルタリアの袋を開き、レイクフィッシュを取り出す。
それを沼の水で洗った後、塩抜きをする為、水に浸して少し待つ。そして焚火を始めて、串に刺した魚を立てて並べた。
香ばしい匂いが立ち込めてくると、その匂いに釣られて八人の家族が、家から出てきた。
みんな遠巻きで、羨ましげに見ているけど、我慢しているのか何も言ってこない。
金も無いから仕方がないか。
「飯だよ、食べな。一人一匹だよ」
俺の言葉に飛びつく八人は、子供から先に魚を取らせて、勢いよく食べ始める。子供達は、食べながら話している。
「こんなに大きい魚は、見たことが無いね」
「うん。食べるところも沢山あって美味しいね」
あの沼は小魚しかいないのか。魔物が原因なのか食料も厳しかったんだね。
ファルタリアも起きて来たので、今の事情を話したら気前が良かった。ファルタリアの分も焼いてあるから、と言ったらさっそく頭から美味しそうに食べていたよ。
食べ終わる頃、一人の男が俺に話しかけて来る。
「ありがとうございました。美味しくいただきました。このお礼は何と言っていいのやら」
「いいよ、俺が決めた事だ。食べ終わったら準備をして出立だよ。急ぐように」
全員が大きな背負い袋を背負って出てきた。俺には何も言えないけど、それが最小限なのだろう。
街道に出たら、二列縦隊で並んで歩く。先頭がファルタリアで俺が最後尾。子供もいるのでこまめに休憩もとった。
休憩のときに、子供達が魚の事を聞いて来たので、ララギの町の事やラクナデ湖で釣った事を話し、ファルタリアの保存食だった事も言っておいた。
そしたらみんなが、ファルタリアに魚のお礼を言っていたよ。
お礼を言われるファルタリアは、恥ずかしそうに照れていた。魚の埋め合わせは何か考えないといけないかな。
その後は順調に歩いて行く。歩いている家族は、不思議に思い始める。
それは、魔物が一度も現れない事に。コーマの力が働いている事は秘密だ。
感謝するよ、コーマ。
聞いていたのか、家族には見えない姿でコーマが俺の横に来た。ファルタリアも前を向いているので気づいていない。
「早く二〇歳にならないかな。ウフフ」
何だ、近くにいるんじゃないか。
「当然でしょ、私のラサキなんだから。いつでも一緒よ、心配だもの」
予想と反して反論できなかった。ハァァ、将来コーマの尻に敷かれるのか? 考えたら少し悲しくなったよ。
「心配しないで、ラサキ。愛している」
また消えて居なくなるコーマ。
辺りも暗くなり始め、野宿する事になった。夜の食べ物は、集落の森で採った果物を全員が持っているので食べて就寝。
俺とファルタリアは念の為、交代で見張りをした。
翌日、明るくなり始めれば出立した。先は長いけど、明日には着けるだろう。




