第31話 出くわした
ヴェンタの町を出立して南に進む街道を歩いている。
ギルドで情報を集め、向かう先は、ララギの町。大きな湖、ラクナデ湖の湖畔にある町だ。
この街道も、魔物が出るからなのか、何度か冒険者を連れた商人の荷馬車とすれ違う。
ヴェンタの町から西に行けば、ヴェルデル王国があるけど、いまだに戦争とか噂されているから行く予定はない。
なので、南に向かっている。
天気も良く、街道も平坦で歩きやすい。三人並んで、皿食の事など談笑しながら歩いている。
そんな時、コーマから、俺はすでに一九歳になっている事実を聞かされた。
驚いたけど、よく考えれば、レムルの森に住んでから一年は、確かに経過しているよ。早いものだね。
いつになく、コーマが嬉しそうだ。
「二〇歳には、つがいになるんでしょ。楽しみにしているね。ウフフ」
それを聞いたファルタリアも、飛び跳ねて喜んでいる。
「では、私もその時には合体ですね、ラサキさん。待ち遠しいです。エヘヘ」
俺は、何か途轍もない事に追い詰められているような感覚が走った。
約束は約束だよ、守るつもりだけど……二〇歳で、嫁二人か。いいのかな。
四〇歳の時の俺とは大違いだな。それもいいや、気を楽にして楽しく行こう。
このペースで行くと、旅行中で二〇歳になる。なんだか忙しないけど仕方がない。
夕方まで歩き続け、すれ違う馬車も、追い抜く馬車も無くなって来た。
携帯食を食べて、前回と同様に、今にも振りそうな星空の下、夜通し歩いた。
そして昼に差し掛かろうとしたところ、辺り一面草原に変わる。片側が丘になって、高く張り出している。
「あの丘の上で寝たら、気持ちが良さそうだね」
俺達は、街道を外れ丘の上に上がって大の字で寝転がる。草原は、青臭いけど俺の好きな匂いだった。
鳥のさえずりが子守唄替わりで、二人は、俺の腕枕で両脇に寝転がり寝始める。俺もつられてすぐに眠り込んだ。
あまり時間は立っていないけど、深い眠りだったのかすこぶる気持ちがよく目覚める。
腕枕を外し座り込む状態で、丘の上から見える街道の行く先に目線を向ける。
土煙が立ち、馬車と、それを追うように十数頭の馬が走っている。見ているうちに、荷馬車が盗賊に追われ、馬を止められて囲まれた。
「ファルタリア! 起きろ! 金儲けだ」
両手を上に伸ばし、欠伸をするファルタリア。
「ファー、どうしましたか? ラサキさん」
「急げ! ファルタリア。コーマは気にするな」
「は、はい」
「んー、行ってらっしゃい」
俺とファルタリアは、丘を駆け下りて、取り囲んでいる十数人の武装した盗賊に近寄る。
俺達に気が付いた、一人の盗賊が俺を見て何かに気が付いたのか、盗賊の長らしき男に話をしている。
「親方。あの二人の格好ですが、バトルアックスを持った獣人と黒髪の男。情報だと多分、ラサキです」
「あいつらが? なぜここに?」
荷馬車の横には、縛られている小太りの商人と若い女性が3人。冒険者はやられたのか。
俺が親玉に向かって話をする。
「丘の上から見てしまったんで仲裁に来たよ。俺の事知っているのか?」
「ラサキと獣人か? お初だが、盗賊の筋で聞いている」
「知っているなら話が早い。その荷馬車の荷物は持って行け」
「それはありがたい、話が分かるようだ」
「ただし、金貨一〇〇枚を出せ。俺が貰う。そして、荷馬車とその商人達は俺が身請けする。これが仲介料だ」
他の盗賊から罵声が飛び交う。
「ふざけるのもいい加減にしろよ、兄ちゃん。ぶち殺すぞ!」
「馬鹿な事言う前に死んどけ!」
長は、様子を見ているのかまだ黙っている。
その時、後ろの陰から矢が放たれた。
瞬間、乾いた音と共に、ファルタリアの目と鼻の先でその矢を掴んだ。鈍感なのか、信頼なのか、やっぱり馬鹿なのか、微動だ、にしないファルタリア。
やっぱり、天然だね。
「な、何だと? 素手でだと? 人間か?」
「ファルタリア、とりあえず一人だけだ」
「行きまーす。エイッ!」
瞬時に踏み込み飛び上がって、始めに罵声を浴びせた盗賊を簡単に切り倒す。切られた盗賊の、上半身が血しぶきを上げながら回転して飛んで行く。
――何かが潰れる音と共に地面に転がった。
その盗賊は、咄嗟に剣で受けたが、剣ごと真っ二つにされていた。ファルタリアの理不尽な強さに、動揺する盗賊達。
バトルアックスを眺め、とてもいい切れ味で、笑顔になるファルタリア。
俺は、長に顔を向ける。
「どうする? 次は俺も参戦しようか?」
親玉が両手を前に出す。
「ま、待て待て、待ってくれ。そいつらが勝手にやった事だ。ラサキの言う通りにしよう」
「じゃ、終わりだ。 それと、影から矢を放った盗賊。もう一度試すか? 次は俺も狙うぞ」
飛び出してきた盗賊は、矢を前に差し出し見事な土下座をした。
「に、二度としません。許してください」
「んじゃ、特別に金貨二〇枚で許してあげよう」
盗賊達は、商人の荷物を取り、俺は盗賊から金貨一二〇枚を受け取り、縛られている商人達を貰い受けた。
「まいどありー。またどこかであおう」
「お前みたいな疫病神には二度と会いたくねえよ。全く持って最悪だ。野郎ども、行くぞ!」
去って行く盗賊達を確認する。
俺は縛られている商人達の縄を解く。小太りの商人と若い女性。
「大丈夫か? 怪我は無いか?」
「あ、ありがとうございます。しかしながら言わせていただくと、そこまでお強いのでしたら荷物も助けていただけたら良かったのですが……」
「無理だよ、また狙われるよ」
「盗賊を殲滅すればいいのです」
「それも簡単だけど、そうしたらお前は、金銭要求しても何かにつけて値切って来るだろ、下手したら払う気も無いんじゃないのか? 商人なんだからさ」
若い俺に、簡単に見破られた商人は動揺する。
「い、いやいや、決してそのような事はしませんよ」
昔から商人とは、殺されない限りは最後までがめつい。そういう生き物なんだよな。
昔、散々やられた経験が役に立つよ。四〇年以上生きて来た俺に感謝しよう。
ファルタリアは、手持ち無沙汰なのか、しゃがみこんで血の付いたバトルアックスを手入れし始めた。 さっそく偉いな。
「じゃ、ここまでだ、気を付けてな」
「え? 町まで護衛して頂けないのですか?」
「それは別料金だ。依頼するか? それと、俺達が向かっているのはララギの町だけど、それでよければの話だよ」
「はい、お願いします。私も、運ぶ荷物が無くなってしまったので、ララギの町に戻り出直します」
「受けた。報酬は後ろの三人の女性」
「これは商品ではございません。それに高すぎます」
「嘘だな。女性は、何かに縛られているのか、さっきから下を向いたまま一度も話をしない。そして、着けている首輪が証拠だ。いやなら止めるか? 高飛車な態度を取っていたら、お前を殺せばそれで済む事だけどな。低姿勢な態度が運を招くよ」
「ぐっ、もう結構でございます。お引き取り下さい」
「そうか。ああ、幸運を願うよ」
荷馬車を引き返し、商人は走り去っていく。
そこにコーマが降りて来た。
「盗賊ラサキが性に合って来たね。ウフフ」
「ラサキさんも、盗賊しますか? 似合うと思いますよ」
「それじゃ、本当の悪者じゃないか。それは嫌だよ。でも、似たようなものかな。ハハハ」
俺達三人は、荷馬車の帰った方向に歩き出した。




