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第 3話 町に行ってみた

よろしくお願いします。

 コーマとの生活も始まったばかりで、食料も心細くなってきた。

 なので今日は森に食料を獲りに来ている。


「ラサキ、あっちにいるみたい」


 コーマは気配が読めるから狩りが楽で助かる。俺が静かに近寄り、猪を黙視する。手に持った手製の槍を投げつければ、見事に猪の体を貫通し、仕留めた。


「しかし、いいのか? 俺の体、変だぞ?」


 そう、若返った事は喜ばしいけど、身体能力と動体視力が格段に向上して、力も今までの数倍? はある。

 さらに槍の命中率が抜群で狩りがとても楽だ。


「だって、ラサキ。健康な体が欲しいって、言ったでしょ。あの時も健康体だったからその時を基準にして、もっと健康にしたの。ダメだった?」

「い、いや。いいよ、十分です。ありがとう」

「ウフフ、良かった」

「よし、作業だ。猪を解体しないとな」


 小刀で猪の解体を始める。内臓は、食べる一部を残して取り出す。首と足先を切り落とし、取り出した内臓と一緒に地面に掘った穴に入れ埋める。

 猪の動体を木に吊るし血抜きをして終了だ。


「フゥ、これでいいだろう。三〇分程したら持って帰ろう」


 他の動物に狙われないように近くで見張る。この森には、魔物もいるらしいがまだ見た事も見かけた事も無い。

 血抜きも終わった頃、猪を担ぎ家に運び込む。今日明日分の生肉を取り分けた残りは、半分を干し肉にして半分を腐らないように塩漬けにする。


「よし、終わった。これで数日は食料に困らないな」


 果物や野菜も森に行けば生えていて、数人分ならすぐ採れる。毎日必要なだけ採ればいいだけだし、とても住みやすい環境だ。

 家から離れた場所に、コーマが見晴らしのいい場所を見つけて来た。


「ラサキ、ちょっと来て」


 コーマに手をひかれ、その場所に行く。


「ほらあそこ。町が見えるよ、ラサキ。行ってみようよ」

「町が? 本当だ」


 俺達のいる小高い山から北に位置する場所に、塀に囲まれた町が見えた。

 町を見て、また一つの疑問が生まれたのでコーマに聞いてみる。


「この世界は、俺のいた時から二〇〇年が経っているんだよな。昔の面影どころか知らない町だぞ。この森も知らないし、ここは何処だ?」

「ラサキが居なくなってから七年後に反乱が起こって大戦にまで発展したの」


 コーマ曰く、その対戦は五年続いた。途中から魔物も入って来て、三つ巴の乱戦になった。

 さらに五年が続き結果は勝者無し。この戦いで、人も魔物も少なくなり過ぎた。都市や町が無くなり、山や川が変形してしまった。

 生き残った人々が、少しづつ二〇年ほどかけて復興させていった。町や都市が形成されれば、それからは早かった。

 三〇年経って王国、その数年後に帝国が築かれ治安も良くなり、それに伴って村が造られ、町になり、その町も多くなった。

 そして一〇〇数十年の歳月をかけて今になる。でも、人が変わればまた同じことを繰り返す。

 帝国と王国が、また戦争を始めようとしている。


「俺にとっては、全く別の世界になった訳だ」

「ねえラサキ。私は姿を消した方がいいかな」

「その方が立ち回りは楽でいいな。でも、美味しい食べ物は」

「あー、消さない。実体で行く」

「食べ物に負けたか。コーマは、一人の時はどうしていたんだ?」

「意識だけや見えない体の時は、空腹感は無いの。それに、ラサキに会ってから実態になれるようになったの。実体になると空腹になるし味も分かる。どうしてもダメなときは、一度実態を放棄するだけ。でも、私一人だと食べたくても食べられない時ばかりだったから止めていたの」

「なら、食べなくてもいいだろ」

「やだっ! 美味しい物は食べたいの。だって、女の子だもん」

「わかった。いいよ、町に行ってみるか」


 俺達は、初めて森を降り歩けはすぐに、街道に出た。


「この街道を右に行けば、さっき見えた町まで行けそうだな」

「うん、楽しみだね。何があるのかな」

「コーマなら、すぐに見に行けるんじゃないのか?」

「それは嫌なの。ラサキと一緒に生活するの、だからそれはしない。楽しみが減るしね」

「コーマがそう言うなら、それでいいよ」


 足取りも軽く歩いて行けば、半日もかからず塀で囲まれた町が見えて来た。入口らしき場所には門番が立っている。

 町に入るのに、順番待ちの商人や冒険者らしき人が並んでいたので最後尾に並ぶ。

 待つ事少々で俺達の番が回って来た。


「証明書はあるか?」

「これで入れるか?」


 二〇〇年前の証明書を見せる。


「この町の物ではないな。いいだろう。では、そこの建物に入って新しく登録するように」


 建物に入り、受付嬢に証明書を出す。


「こちらの水晶に触れてください」


 俺は、言われたまま手を水晶に触れる。


「はい、完了しました。こちらが新しい証明書です。で、そちらの女性は?」


 コーマが受付嬢に向かって、たわわな胸を張る。


「私は、ご主人様の肉奴隷です。毎晩奉仕しています」

「な! 何を」


 俺の話を遮り、堂々と話すコーマ。


「所有物だから証明書は持って無いです」

「あ、はい確認しました。結構です。お通り下さい。お盛んですね、フフフ」


 いやらしい笑みを浮かべる受付嬢。俺とコーマは無事? に町に入れた。


「おい、コーマ。なんだよ、肉奴隷って」

「その方が楽でしょ。証明書いらないから」

「なんで通用したんだ?」

「これよ、これ」


 自分の首を指さすコーマ。

 綺麗な首輪が。あれ? さっきまで首輪なんて無かったぞ? いつの間に? でも、奴隷の首輪は二〇〇年前と変わらないんだな。

 奴隷は、持ち主の許可無く手を出してはいけない。言われてみれば、いい案だな。

 コーマが、両手を胸の辺りで組んで、体を左右に揺らす。


「ああぁ、私はラサキの肉奴隷なのね。シクシク」

「止めろ、ワザとらしい。嘘泣きもするなよ、顔が笑っているし」

「ウフフ。私はいつでもいいわよ、ラサキ」

「……行くよ」


 町の入口から、馬車がすれ違える大きさの街道がまっすぐに伸びて、そこから町が形成されている。人の往来も多く、四〇〇〇人程が住んでいる賑やかそうな町シャルテン。

 コーマは楽しそうに、目を輝かせて町を見て回る。

 足取りも軽く何を見ても楽しいのだろう。

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