第29話 待つ間過ごした
今、繁華街を歩いている。
今頃冒険者は、ダンジョンを攻略しているから人通りも少ない。いや、ほとんどいない、が正解だな。武器屋や防具屋ばかりだし、酒場は夕方からが多いしね。
そんな中、コーマが腕を絡めながら、綺麗な笑顔を俺に向ける。
「ねえ、ラサキ。私とファルタリアのどっちが一番好き?」
俺が驚く前に、ファルタリアが驚いた。
「コ、コーマさんが、それを聞くのですか? 聞かなくてもコーマさんが正妻じゃないですか。私は愛人か二番、ダメでしたら肉奴隷ですよ」
そう言いながら、赤ら顔で下を向き、嬉しそうに上目づかいに俺を見て話を続ける。
「どうしましょう。ラサキさんが私を好きなのは知っていますけど、コーマさんより好きって言われても、それは困ります。わかりますが困ります。いいのですけど……いいのでしょうか」
眼が行っちゃっているファルタリアは、自己陶酔しているし。
「コーマ。今さら何を言っているんだ。俺が一番好きなのは、後にも先にもコーマだよ。その次がファルタリアだ。こんな事言わせて楽しいか?」
「ちょっとね、ウフフ。嬉しい、ありがと……ん」
唇を寄せて来たコーマ。いったいどうしたんだ? 読めばいいのに、こんな事して。
「ラサキをいじめて見たかったの。ウフフ」
「コーマ。今になって読むなよ」
俺の言葉に、陶酔から覚めて、今度は涙目になっているファルタリア。喜怒哀楽が忙しいな。
「また二人の世界ですかぁ? 私も仲間に入れてくださいよぉ。いつもいつも、こういう時は仲間はずれみたいです。ううぅ」
あ、大粒の涙を流して泣き出しちゃったよ。あ、マジ泣きだ。コーマも神なんだから、その辺上手くやってほしいよ。
なだめる俺の身にもなってくれよ。仲良くやって行こうよ。
「ゴメン、気を付ける」
「い、いいよ、コーマなんだから」
コーマから離れ、泣いているファルタリアをそっと抱き、頭を撫でて声を掛ける。
「ファルタリア。仲間外れにした事は一度も無いよ。前に話したように、コーマと俺はお互いに何かで繋がっているんだ。こればかりは仕方がないんだよ。ゴメンな。俺は色々と言ったけど、ファルタリアは好きだ、と言う事を認めているんだ。だからヴェンタの町まで一緒に来たんだろ」
「ううぅ、そうですね。感情的になってしまいました。すみません」
「謝る事は無いよ。言いたい事はいつでも言ってくれ。俺、無頓着だからさ。ファルタリアの事は大事にするよ」
「はい。ラサキさんの優しさと愛情が伝わってきました。エヘヘ」
見つめ合う俺とファルタリア。唇を寄せようとしたら、冒険者らしきおじさん達が通りかかる。
「昼間からお熱いね。熱くて死にそうだよ。まだつづくなら家でやってくれ。両手に花なんて羨ましいぜ全く」
冗談交じりに言って通り過ぎて行く。
「すみませんね、気をつけます。ハハハ」
離れて行くおじさん達。
「いいって、いいって。若い時は何事も経験だ。お嬢ちゃん達も頑張れよ、積極的に迫らないと逃げられちまうぞ。ハハハ」
笑顔になったファルタリアが声を上げる。
「はーい! 積極的に行きまーす」
笑いながら去って行った。
――いい町だな。
落ち着いたところで、三人で武器屋や防具屋を見て回る。品揃いは豊富だったが、高い、高すぎる。普通じゃ買えないよ。
二〇〇年前だって高かったけど、手に届くか届かないかくらいだった。もしかしたら、ダンジョンで一稼ぎした冒険者を宛にして暴利なのか?
買わないからいいけど、手入れ代も高いのか? 心配だな。
その後、皿食を食べ、夕方まで繁華街で過ごし宿に帰った。
風呂は別々に入った。それはそうだよ、混浴は他の冒険者も多く入っているから見せる訳にはいかない。
只でさえ血の気が多い男達がいるのに、無防備な裸体をさらした美女が入ったら大騒ぎになるだろ。そんな事は、眼に見えてるよ。
渋々了承した二人だけど、コーマは出かける、と言って消えて行った。
ファルタリアは、女湯にも興味があったらしく、行って来ます、と部屋を出て行った。
俺は、混浴に入ったら予想通り十数人の冒険者らしき男達が入っていたよ。
やっぱり女性の裸体目当てだったのか、入っていないので文句が出ていた。
ま、期待して入るから当然だよな、俺もそう思うよ。混浴と言うのは名ばかりで、実際は男湯だ。
俺は、当たり障りなく気持ちのいい泡風呂を堪能して部屋に戻った。
ベッドで寝転がっていると、ファルタリアが戻って来た。
「ラサキさん、女性用のお風呂は私以外に二人しか入っていませんでした」
「そんなもんだろ、空いていていいじゃないか」
「ラサキさんがいないし、一人で入っているみたいで寂しかったです」
「元々風呂はそういう場所だよ。知り合い同士で入っても楽しいけど、一人でじっくり温まる事で癒されるんだよ」
「でも、私がフォックスピープルなのか、一緒に入っていた女性達から蔑むような視線を感じ、嫌な気分になりました」
「獣人だからか? それは酷いな。よし、こうしよう。ファルタリアも気楽に入れるように、朝から昼にかけて入ろうか。それなら誰もいないだろうから一緒に入れるよ」
「ありがとうございます。そうして頂けると嬉しいです」
お勤めを終えたのか、コーマがベッドの上に現れた。
「ラサキ、寝ようよ」
気持ちよく三人並んで就寝。
翌朝、違和感を感じ目が覚めた。下眼使いに二人を見るけど、可愛い寝息を立てて寝ている
――俺は二人の手を払うようにどけたよ、全く。
目が覚めたコーマとファルタリア。
「おはよう、ラサキ」
「おはようございます」
白々しく、とぼけているのか、偶然なのか。
「何で俺の股間に手を乗せて寝ているんだよ」
偶然よ、とコーマ。本当か? まあいいよ。でも、ファルタリアは違った。
「エヘヘ。昨日、おじさん達から言われていたので積極的に触ってみました。ラサキさんのおちんちん」
「ファルタリア。可愛く言っても、それは言うな。止めておけ」
「ええぇ? おちんちんもダメですかぁ?」
「可愛い顔が、台無しになるから止めておこうね」
「え? あ、はい」
優しく言えば、言う事を聞いてくれそうだ。油断は禁物だけどね。
それから数日が経過した。




