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第28話 手入れを依頼した

 朝の皿食屋で軽く食べて、ギルドに行って見る。コーマは、後でね、と言って消えて居なくなった。

 本当に便利だな、勝手に消えても、俺とファルタリア以外、誰一人気が付かない。現れても周囲は初めから居たように感じるのだろう。便利な特技だ。

 ギルドの中は、数十人は入れるくらい今までで一番広かった。五人掛けのテーブルも十数個並んでいる。

 ファルタリアと掲示板に見に入って行く途中で、視線が集まりバトルアックスを背負っているファルタリアに向けられている。

 その中の一人の冒険者が、ファルタリアに声を掛ける。


「おい獣人。その獲物、本当に使えるのか? ハッタリじゃないだろうな」

「普通に、使えますよ。ご覧になりますか?」

「見せて見ろよ、お前らも見たいよな」


 強い口調ではないが、見せろ、とヤジが飛ぶ。


「ラサキさん、いいですか?」

「好きにしていいよ」


 ファルタリアは、背中のバトルアックスを手に取り、一度、声を掛けた冒険者に向ける。

 そして剣舞を始める。

 重量級の武器を軽々と回転させ、腰から肩から頭から振り回し周囲を魅了させる剣舞を見せる。

 そして最後は、高速に回転させたと思ったら、冒険者の前で大きい刃先の斧を、重量の惰性や慣性を無視して瞬時に止める。

―-まるで小刀を止めるように理不尽に。

 最後に止めたバトルアックスの風圧が、冒険者から後ろに向かって吹き抜けた。


「以上です。いかかでしたか? お気に召しましたか?」

「あ、い、いや、凄かったよ。いい物を見せてもらった」


 周囲からも、喝采を受けていた嬉しそうなファルタリア。強さも認められたようだよ。

 圧倒された冒険者は、恥ずかしさのあまり俺に矛先を変える。


「一緒のお前はどうなんだ? 相棒らしいが女より弱い訳ないだろうな」


 俺は、笑いながら片手を後頭部に持っていき、かいた。


「ハハハ、俺は弱いんですよ。いつも彼女に助けられてばかりで。いつ捨てられないかと心底心配なんです」

「おいおい、ひも生活か? 羨ましいな、上手くやりやがって」

「ハハハ、運と愛ですかね」

「まあ、頑張れや」

「はい」


 掲示板を見に行くけど、ダンジョン攻略が主なのか依頼は少なかった。一度ギルドを出て歩く。すぐにファルタリアが食いつく。


「ラサキさん。先ほどは黙っていましたけど、何で嘘をつくのですか? ラサキさんの方が、ンブブ」


 ファルタリアの口を手で押さえた。


「これでいいんだよ。あの剣舞を見せたファルタリアより強かったら、噂が広まっても困るからさ」

「いいのですか?」

「問題ないよ、むしろこの方がいい。それより、いつの間にか剣舞が上手くなったな。てっきり最後は斧が顔に当たって鼻血でも出すと思ったけどね」

「酷いです、ラサキさん。これでもレンナ村で剣舞の練習はしていたんですよ」

「冗談だよ。さすが、ファルタリア」

「あー、やっぱり私の事、好き好きになりましたね。デレてもいいのですよ、ラサキさん。私、全身全霊で受け止めますから」

「行くよ」

「ああーん、話を聞いてくださいよぉ」


 向かった先は武器屋だ。

 俺の剣と、ファルタリアのバトルアックスの手入れを依頼する。ダンジョンがあるのだから、いい武器屋があっていいだろう。

 しかし、武器屋が並んでいる場所で、何軒か回ったけど、売買だけの店ばかりだった。

 最後の店で聞いたところ、手入れが出来るのは一軒だけだ。その店はこの並びにあった。

 周囲の店より古く小さいが、いかにも職人の店という雰囲気だね。

 店に入るとすぐに店主らしき男が出てきた。身長一四〇センチ程の筋肉質で、小太りのドワーフ。


「何の用だ? この店は売買しないぞ」

「武器の手入れをしてほしいんだけど」


 ドワーフの男は、ファルタリアの背中にあるバトルアックスに眼を向けた。


「どれ、見せて見ろ」


 ファルタリアが、バトルアックスを外し、ドワーフに渡す。手に取り、すぐに険しい顔をする。


「おいおい、購入してから一度も手入れ無しか。磨く事も出来ないのか? 冒険者失格だな」

「すみません。手入れに無頓着なので……」


 項垂れ、下を向くファルタリア。ドワーフの男は、厳しく言っているだけで拒否している訳では無いな。


「まあいい。刃先を研いで磨いておくから置いて行け」

「い、いいのですか? あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 バトルアックスを後ろの棚に掛ける。


「で、兄さんの剣もか?」

「ああ、刃先を研いでほしいんだ」


 剣を渡し、ドワーフが眺めている。手入れはしているようだな、と言いながら、すぐに表情が強張る。


「何だ? この剣は。ミスリルが少し入っているアイアンソードだが、どんなに錬成しても鍛えてもこんなに強くならないぞ? この剣を何処で手に入れた?」

「出所は言えないんだ」


 納得がいかないドワーフだけど、調べてみたいのかそれ以上は聞いてこなかった。


「この剣も預かる。任せておけ。俺はドワーフのガランドだ。よろしくな」

「俺はラサキ。彼女はファルタリアだ。よろしく」

「よろしくお願いします。ガランドさん」

「この町はダンジョンの町だ。急ぎなら夕方には仕上がるが、それなりになってしまうが」

「いや、両方ともじっくり納得の行くまで仕上げてほしい」

「よし、数日預かる。気が向いたら寄ってくれ」


 代わりの剣を借りる事にした。いくらなんでも素手じゃ心細いからね。

 ガランドの武器屋を出て、町中を散策しようとしたら、コーマが俺の腕に飛びついてきた。


「ウフフ。行きましょ、ラサキ」


 腕を絡ませ、嬉しそうなコーマ。あれ? 何かおかしいな、いつもなら闘争心を燃やして腕を組んでくるファルタリアが、何事も無く隣を歩いている。


「ファルタリア、どうかしたのか?」

「はい、先ほどガランドさんに言われた手入れをしていなかった件で、確かに冒険者失格だなって感じました。でも、バトルアックスの手入れってどうすればいいのか悩んでいます」

「なら、バトルアックスを取りに行ったときにでも聞けばいいじゃないか」


 納得したかのように、急に明るくなるファルタリア。


「そうですね、直接聞けば良かったのですね。悩んで損した気分です」

「偉いよ、ファルタリア」

「ええぇ? やっぱりラサキさんは、私にゾッコンですね。いいですよ、いいですよ、コーマさんの前でもいいですよ。私の胸に飛び込んでください。受け止めますから。出来ましたら、ラサキさんのんーこ、ブブッ」


 すかさずファルタリアの口を、手で塞いだ。もう言う事は知っているからだ。

 馬鹿丸出しだぞ、全く。


「ファルタリア、自重しろ」

「ううぅ、すみません。嬉しさのあまり、少し興奮してしまいました」


 腕を組み直しているコーマも冷めた眼をしている。


「気を付けるようにね」

「……はい」


 尻尾も萎み、項垂れてあるくファルタリア。

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