第27話 温まったら次の町だ
入れるのかどうなのか、温泉の場所まで見に行った。
地面から吹き出す水蒸気を避け、岩と岩の間を縫うように歩き、その先に湯気に包まれた岩の温泉があった。
とても広く、数十人が一度に入っても余裕だな。温泉の中には、数等の獣が入っている。
その上、ゴブリンやオーガも入っている。ああ、なるほど。人が入らない訳が分かったよ。
そういやコーマの魔物除けは、温泉では中立だからなのか通じなかったようだね。
俺達は気にしないで近寄り、温泉の際まで来たけど、魔物や獣は、俺達に気にする事無く戦意や殺意は無かった。
武器も後ろに並べて置いてあるし、意外と几帳面なのかな。この温泉は、中立で戦闘しないのが暗黙の了解なのだろうね。
「俺は入って行くけど、どうする?」
コーマは脱ぎ始めている。
「私も入る」
バトルアックスを置き、慌てて脱ぎ始めるファルタリア。
「温泉は私も初めてなので入りますよぉ」
相変わらず隠さない二人だけど良い体だよ。
見慣れているけど、温泉を背景に重なって、色っぽく艶っぽく、素晴らしい裸体を拝ませてもらったよ。
――誰もいなくて良かった。
俺達は、念のために獣や魔物と反対側の離れた場所で、俺を挟んで並んで入る。
肌より熱めのお湯加減。ゆっくり、ゆっくり、と体を沈め浸かって行く。
途中、腰まで浸かると背中に針が軽く、何本も刺さる感覚が走る。痛痒くなっているけど、我慢、我慢。
入りきったら、ため息が出た。
「フゥー、いい湯だな。癒されるよ」
「ハァー、ラサキ、気持ちいいね」
「ハァァ、始めは熱かったけど、慣れたら暖かくて気持ちがいいです」
おお。ファルタリアの金色の尻尾が、お湯に揺られて倍に膨らんでいるよ。
俺は、何も言わず触ったら、一瞬体が跳ねるように小さく動いた赤ら顔のファルタリア。うん、これはこれで気持ちがいい。
コーマは目を瞑って温まっている……神なのにな。
ファルタリアの尻尾を、モフりながらゆっくり温まった。温まって満足したのか、先に出て行ったオーガとゴブリンは、武器を持ってそのまま奥に消えて行った。
俺達も温まり、癒されて温泉を後にした。いやー良かった。どこにも無ければ、時間を見てまた来たいね。
リベラ山を後にして、進むはこの街道から南に延び、その先にあるヴェンタの町だ。
何があるのか、待っているのか、楽しみだな。
歩き続ける事半日、昼に差し掛かり、歩きながら携帯食を食べて夕方には町の塀が見えて来た。
重厚感がある黒っぽい塀が町を取り囲む。何だか物々しいけど、訳でもあるのだろうか。
検問所では、夕方にもかかわらず誰も並んでいなかった。コーマは消えて、俺とファルタリアは証明書を見せ町に入る。
この町の特徴を、検問所で聞いた。
ダンジョンの町ヴェンタ。町の西側にダンジョンがあり、その手前にギルドがある。
五〇〇〇人程の住民がいて露店や商店も多い。ダンジョン攻略の冒険者や商人も四〇〇人程が宿泊しているから宿屋も多い。
ヴェンタの町は、人や馬車の往来も多く、活気がある町。
ファルタリアの眼が輝いている。
「ラサキさん、ダンジョンですよ、ダンジョン。楽しそうですね」
「行かないよ、面倒臭い」
「ええぇ? 行きましょうよ、折角だしぃ」
「行って来れば? 寝ずにこの町まで来て眠いんだ。皿食食べて宿屋を探すよ」
「それもそうですね、賛成です」
コーマもすでに現れている。
「ラサキ、早く行こうよ」
皿食屋を探し、見つけて入った。この店は、ダンジョンの町だからなのか、冒険者が多く食べているし混んでいる。
コーマもファルタリアも並んで注文していたよ。俺の分は、ファルタリアにお願いした。
コーマは二人前なので、両手に盛っているから無理だからね。二人が注文した皿食は、ステーキだった。
横には塩茹でしたジャガイモがゴロッと入っている。美味そうだな。
俺の注文した皿食は、川魚の塩焼きだ。三〇センチ程の体高があり肉厚の川魚だった。
皿食を持って来たコーマ達は、テーブルに乗せ、さっそくかぶり付く。無理も無いな、二日間ぶりの真面な料理だからな。
俺の魚料理も、塩加減が絶妙で美味しく頂いたよ。
でも、魚料理には目もくれないコーマとファルタリア。嫌いなのかな、それとも俺が四〇歳だから魚好きなのか?
美味しく食べたんだし、気にしないでおこう。
「ラサキ、美味しいね。行って来ていい?」
「美味しいです。行きたいです」
「ああ、遠慮しないで行ってきなよ」
足早に注文しに行く二人。いつものお代わりだ。
あれだけ美味しそうに食べるんだから皿食屋も嬉しいだろう。ファルタリアは、俺の魚料理が気になったのか、次は魚料理だったよ。
食後、お腹も落ち着いたら皿食屋を出て、宿屋を探すとすぐに見つかった。ダンジョンの町なので、宿屋が十数軒立ち並んでいる。
どの宿にするか、歩いて見て回る途中で、呼び込みの女の子に誘われ、決め手となる一言でその宿屋に入る。
――この町で一番の風呂があると言う。
三人部屋の一ベッド、特大らしい。部屋に行き、特大のベッドに倒れる。皿食で満足したので、睡魔が襲って来ていて非常に眠い。
俺は、二人の事など気にしないで、そのまま深い眠りに着いた。
翌日、よく眠れ疲れも取れ、気持ちよく目覚める。両脇にはコーマとファルタリアが寝ている。
二人を下眼使いに眺める。
コーマは神だからいいとして、ファルタリアは、スタイルも良く可愛いし機転も効く。それに、力もあり強いから安心だ。
しかし、しかしだ。何で時折馬鹿になるのだろうな。それさえなければ、人も羨むいい女なのに残念だよ。
それとも、二〇〇年前とは違い、今の女性はこうなのか? だからフェーニとミケリも――。
いやいやいや、それは無いだろう。
「へくち! あ、おはようございます。へくち! また誰かが良からぬ事を考えているのでしょうか」
「お、俺じゃないからな。お、おはよう」
「ラサキ、おはよう……ん」
「あ、次私です。んー」
「起きようか」
昨日入らなかった風呂に行って見よう。
入口で宿屋の人に聞いたら、昨晩の宿泊者は冒険者ばかりで、もうダンジョンに出発しているから今いるのは俺達だけ。
風呂は男女別と広い混浴がある。
なら決まりだね、三人仲良く混浴風呂に入った。
確かに広いな、それにお湯の底から泡が噴き出ているし気持ちがいい。これが売りなのだろう。
コーマもファルタリアも気持ちが良さそうに温まっているよ。
おお、ファルタリアの大きく膨らんだ尻尾が、噴き出している泡で踊っているように見える。
後で聞いた事だけど、お風呂のお湯は、ダンジョンとリベラ山の地熱で温められて湧いているとの事。 それじゃ、他の町には期待できないな、しかたがない。
宿を出て、町の中を見みよう。
朝から露店や商店は賑やかに開いている。冒険者相手だからなのか朝から活気があるね。




