第26話 見送りした
今にも泣き出しそうな二人。
「短い間でしたが、いろいろありがとうございました。この御恩は決して忘れません」
「ありがとうでしたニャ」
「気にすることは無いよ。俺とファルタリアの気持ちだ」
「連携攻撃にも磨きを掛けます」
「二人は強くなったよ。この先も頑張れよ。俺から一言言わせて貰えば、危ないと感じた事には首を突っ込むな。ダメだと思ったら、四の五の言わず逃げろ。気軽に人を頼るな信用するな。あとは自分の信じた道を進めばいい」
「自信が付きました。しばらく修行をしたらラサキさんの家に行きます」
「それは選択肢の一つだ。途中で何かを見つけられるかもしれないからね。二人の思うままにしなよ」
「はい、では……しばし……お別れです。ううぅ」
「うぇーん」
二人が泣きだし、ファルタリアもやっぱり釣られて泣いている。
「元気でね、ううぅ。頑張るのよ。私はいつでも二人の味方だからね。ううぅ」
暫く三人の号泣が続いた。
落ち着いたのか泣きやんで、泣き腫らしたフェーニとミケリが俺を見る。
「ありがとうございました、ラサキさん」
「ありがとうでしたニャ」
小さく手を振りながら旅立つ二人。少し離れた場所で一度振り返る二人。今度は、大きく手を振りながらフェーニが叫ぶ。
「ラサキさーんっ! 次に会う時は! ラサキさんの肉奴隷ですね! 楽しみにしています!」
「にくどれいですニャ!」
「なっ、ば、馬鹿な事言うんじゃない!」
あーもう、周りの通行人が醒めた目で俺を見ているし恥ずかしいよ。
でも、二人が見えなくなった時、こらえていた涙が一筋、頬を伝った。俺は嫌な奴なのかな、嫌いだよ俺みたいなやつ。
でも、悔いはない。またどこかで会おう。より強くなっている事を期待しているよ。
数日後、準備を終えレンナ村を出立した。次に向かうのは西南に位置する山、そこから南にある町を目指す。
村を出てしばらくは、両脇から腕を組まれているけど、歩き辛いから数刻で離れてもらった。
今俺達は、西南に伸びている街道を歩いている。道の両側には草木が生え、天気も良く気持ちがいい。
魔物も出る街道らしいけど、コーマの力で寄ってこないから順調だ。これから向かうのは、リベラ山。
特に何も無い山なのだけど、温泉があるらしい。ただ、温泉には誰も入らないと言うので、高温で入れないのかもしれないな。
両隣で歩く、ファルタリアとコーマも楽しそうに呑気に歩いている。魔物が出ない事を言い事に、足取りも軽い。
ファルタリアが鼻歌を歌い出す。
「フーン、フフーン、ラーサキさんの」
「止めろ! ファルタリア! 鼻歌禁止だ!」
思い出したように、笑顔で両手を口に当てるファルタリア。
「あ、失礼しました。油断して無意識に歌ってしまう所でした。エヘヘ」
「エヘヘ、じゃないよ。気をつけろよ、恥ずかしいな」
姿勢を正し、俺に向き片方の手の指ををまっすぐにのばし、頭の横に当てる。
「畏まりました、ラサキさん。以後気をつけます」
ふと疑問に思ったよ。ファルタリアの頭の中は、そればっかり考えているのか? それじゃまるで、する事ばかり考えているのと同じだろ。
「私もそうよ、そればかり考えているの。ウフフ」
「ハァ? コーマもかよ」
「だって約束でしょ。ずっと待ってるんだから、考えても当然でしょ」
ファルタリアも察知したのか、形勢逆転したとばかりに、緩んだ笑みをしながら嬉しそうにしているし。
「ですよねー、コーマさん。やっぱり、んーこですよねー」
「そうね、ウフフ」
「あー、良かった。私が、変態さんじゃなくて」
「旅しながら言う事じゃないだろ。自重しろよ」
コーマは真顔で話す。
「私は何も言っていないよ。考えているとは言ったけど、口に出していないよ。口に出したら変態みたいでしょ」
「ええぇ? コーマさん、それは無いですよぉ。私だけ変態さんみたいじゃないですかぁ」
「あれ? 違ったの?」
「ううぅ……違う……と思いますぅ」
項垂れるファルタリア。出発早々、何だかな。思いやられそうだ。
しばらく歩くと、景色は荒れ地に変わってくる。リベラ山に向かうから、徐々に上り坂になる。
体力はあるから、三人とも元気に歩き続け夕暮れになった。休めそうな大岩の下に座り、レンナ村の宿で作ってもらった携帯食を食べる。
手の平に乗るくらいの小さい包み。一口だけ食べて終わり。あまりにも空腹の時は二口だけ。
満腹感は無いけれど、肉や野菜を、長期間煮詰め栄養を凝縮してあるから、一口で一食分の必要な栄養補給が出来る。
携帯食一包で一週間は持つ。獣を獲って食べる事もあるけど、長旅には必需品だ。それに、二〇〇年前の携帯食より美味くなっている。進化しているんだな。
先に旅立った、フェーニとミケリにも渡してある。
そんな携帯食に、ファルタリアが不満を漏らす。
「昔から食べていますけど、いつ食べても物足りないですね。いっその事、皿食を重ねて一〇食分くらい背負って行ったらどうでしょう」
「邪魔だし腐るよ。だから携帯食なんだ。そこまで考えるなら、荷車に干し肉を乗せて運べば腹一杯食べられるよ」
真に受けるファルタリア。
「それは名案です。そうしましょうラサキさん。やっぱり、お腹いっぱい食べたいですよね」
「じゃ、ファルタリアが一人で荷車を曳けよ。俺はいらないから」
コーマも俺に同意する。
「私もいらない」
「ええぇ? 私だけですかぁ? 何だか私だけが意地汚いみたいじゃないですかぁ。ラサキさーん」
「うん、意地汚いよ。今さら言っても仕方がないよ」
「そうね、私も同感よ」
涙目になって縋ってくるファルタリア。
「いじめないで下さいよぉ。我慢しますから、嫌いにならないで下さいね。頑張りますから」
「ああ、わかったよ。ファルタリアなりに頑張れ」
山頂に着いた頃には暗くなっている。
星明りの中、辺りを見渡すけど、もうレンナ村も見えないし、これから行く町も見えない。まだ遠いのだろうね。
夜空を見ながら、夜通し歩く事に決めた。
朝には麓に着いたけど、街道から見える荒れ地の先に湯気や水蒸気が立っていた。あれが村の人が言っていた温泉かな。
行って見ようか。




