第25話 強くなった
コーマは、後方から付いて来て俺を見ている。
コーマの、周囲感知もあるけど、それじゃあ意味が無いから止めてもらった。
木々が濃く、薄暗い樹海。見上げれば樹木が遮り空が見えない。如何にも魔物が出そうな空間だ。
さっそく、オーガが二体現れた。ゆっくりと向かって行けば、オーガもすぐに気が付く。棍棒で襲って来たけど、オーガの動きが手に取るように見える。
振り降ろされた棍棒を、当たる直前で半歩下がり避ける。オーガは、叩きつけた棍棒と俺を交互に見ている。
オーガにしてみれば、当たったと確信していたのに当たっていなかった、と言う感じかな。
もう一体のオーガが横から棍棒を振り降ろしている。剣で受け止めたけど、オーガの巨体から振り下ろされた棍棒に、反動も無く受け止める。
強く、というより、頑丈で素早く動ける馬鹿力になった、と言う印象だ。機会があったらファルタリアと力比べでもしてみようかな。
何度か攻撃を受け、隙を見て一体を振り切るように切り倒す。もう一体は、逃げて行くが追わなかった。
それは、倒した一体の、オーガの血の匂い誘われて、他の魔物がやってくるからだ。
言った通り、オーガとゴブリンが、パーティでも組んでいるのか何度も現れた。
その都度戦って、力を確かめるように倒す。生き抜く知恵なのか、半数を倒せば樹海の奥へ逃げて行く。
辺り一面血の海になって、その匂いが凄いのか続々と現れて来た。数十体のゴブリンとオーガが向かって来る。
普通ならこれはやばいな。俺が死んだ時を思い出させる光景だった。
でも今は違う。向かって来る魔物に、俺も踏み出し攻防しながら一体一体を確実に切り倒した。
コーマと会ってから、少数の魔物はあったけど、初めてまとまった魔物と戦った。
人とは違う事も、十分理解しているけど、強く硬く獰猛だと再認識させられた。
単体なら、簡単に倒せるゴブリンでさえ、徒党を組んで襲いかかってくれば、ちょっとした事で形勢が変わる。
その中で戦ってはっきりわかった。
運動神経、動体視力、瞬発力、それに体力、どれも人間離れしたように理不尽に強くなっている。
俺に向けられた殺気も感じる。ゴブリンから放たれた矢も、避けるだけでなく素手で掴めるくらいだ。
残っている魔物達は、生きる事が大事なんだろう。半数を倒した辺りで樹海の奥へ逃げて行った。
その後は魔物も現れなくなったので終了しよう。
樹海を後にして歩き出すと、コーマが飛びつくように腕を組んでくる。
「お疲れ様、強くなっていたでしょ。感覚はどうだった?」
「ああ、コーマのお陰で強くなった事は再認識で来たよ。最強って言ってた事も頷けた」
「もっと強くする? 出来るよ」
「いや、このままでいいよ。十分理不尽な強さだ」
「本当にいいの?」
「ありがとう、コーマ」
強くなったからなのか、欲を言えば少しだけ不満があった。
それは剣だ。
コーマに頑丈にしてもらったけど切れ味が良くない。いや、切れる、切れるけど俺の力で切り倒した時の感覚と言うか切れ味が、感覚より少し浅い気がしたんだ。
気にしても仕方がないか。どこかの町の武器屋にでも出して鍛えてもらおう。
ガゴの樹海から、コーマと腕を組んで楽しむように一路レンナ村に帰った。
それから数週間、数日に一度樹海で鍛錬して他の日は、ファルタリアには悪いけどコーマと過ごした。
レムルの家で過ごしていた時に戻ったように喜んでいたよ。
数週間後、厳しく鍛錬されたのか、フェーニとミケリは確実に強くなっていた。
一緒に付き合っているファルタリアも、相乗効果で強くなっているけど、二人の連携攻撃には舌を巻くほどまでになっていたよ。
「二人共強くなったね、これで二人で生きてい来るだろ」
悲しい顔をするフェーニとミケリ。
「やっぱりダメなのですね」
鍛錬して情が移ったファルタリアも同情する。
「ラサキさん、みんなで一緒に行きましょうよ。私も頑張りますから」
俺も素の一八歳だったら、情も移って同行を認めただろうけど、四〇年生きている経験を元に言っているんだよ。
人数が増えれば楽しい事もあるけど、手に追えない事も当然ある。
この先には、戦争が絡んでいる町にも行くだろう。まき沿いを食う事もある。
その時、助けられず誰かが犠牲になる。
二人の都合なら兎も角、俺が付いているのに、二人を死なせるなんて事はしたくはない。いや、俺のせいで死んでほしくないんだ。わかってくれないかな。
「ダメだと言ったら、ダメだよ。一緒に来たいならファルタリアが行けばいいさ」
「ええぇ? そんなぁ、ラサキさん、冷たいです」
泣き出すフェーニとミケリ。釣られてファルタリアも泣き出した。嫌いで拒否しているわけでは無いんだけど……言っても面倒だ。
「よし、こうしよう。俺は今旅行をしている。どのくらいかかるか分からないけど。シャルテンの町の南にレムルの森がある。そこに俺の住んでいる家が建っているよ。旅が終わったら戻るから、その時にまだ同行したいと言う思いがあれば来なよ。その時は認めよう」
泣き止み、顔を上げる三人。
フェーニが、真顔になる。
「ラサキさん、今の話は本当ですか?」
「嘘は言わないよ」
「わかりました。冒険者として強くなります。そして、ラサキさんの家に行きます」
「いきますニャ」
「念のために言っておくけど、直行はするなよ。冒険者らしく依頼を受け、鍛錬も兼ねて行く事」
「はい」「はいニャ」
フェーニに合鍵と当面の資金を渡す。先に着いて、俺達がいなかったら家を使っていいよ、と伝えた。あと、魔物も出る事も。
フェーニとミケリも強く生きる事を決心したようだね。
良かったよ、無下にしている訳では無いんだけど、自分で強くなってほしい。
俺は、コーマとの約束もあるから同行するのはファルタリアだけで十分だ。
翌日、宿屋の前で旅支度を終えたフェーニとミケリを見送る。




