第22話 救出した
牢屋に行って鍵を開ける。中には十人程の冒険者らしき人影があった
。諦めていたのか、全員が何が起こっているのかわからず、驚いている。
「捕まった冒険者か? 助けに来た」
「本当か? ああ、助かった。まさしく天の助けだ」
「剣と装備だ。使ってくれ」
「二度と出られないと思っていたんだ。ありがとう」
「ギルドマスターは、上で縛っているから煮るなり焼くなり好きにしろ」
「命の恩人だ、恩に着るよ。ギルドマスターは俺達が始末する」
装備を見に着けている冒険者を確認して、俺は先に出る。
「健闘を祈るよ」
「ああ、君こそ、武運を」
袋を肩に担ぎ、音の出ないように走ってギルドを出る。覆面を外し、人目を気にしながらその足で広場の裏に行って小声を掛ける。
「ファルタリア」
「ここです、助けますか?」
「いや、まだだ。少し待て」
ほんの数分で、ギルドの方向で騒ぎが起こる。予想通り、人の視線や関心がギルドに向けられる。
「二人を助けるぞ」
「はい」
気配を消すように静かに台に上がり、俺とファルタリアで縄を解き、二人を抱きかかえて逃げる。
人気のない路地裏に入り、腫れ上がって原形を留めていない顔のエルフと獣人に袋から取り出したポーションを降り掛ける。
顔の骨も折れているのだろう、中々完治しない。俺はエルフに、ファルタリアが獣人にポーションを掛け続ける。五本目で腫れが引き、七本目を掛け終わってやっと完治した。
危なかったなあと四本しか残ってなかったよ。
そして、体力回復のポーションを口に当て流し込む。喉を鳴らして飲んだら気が付いた。
ポーションの瓶を渡したら両手で一気に飲み干した。もう一本を与え、それも飲み干し、元気を取り戻したようだ。
「あ、ありがとうございます。う、う」
「あ、ありがとですニャ。う、う、うえ」
「泣くな。泣くのはまだ早い。逃げるぞ」
俺がエルフ、ファルタリアが獣人を抱きかかえ走って逃げる。騒ぎがギルドから検問所に移動したようだ。
捕まった冒険者が町から外に出ようとしているのだろう。無事に逃げ延びろよ。
どこからか、ギルドマスターとその仲間が殺された、と聞こえて来た。慌てている人の中には、密かに拳を握って嬉しそうな人を、数人見かけたよ。
余程恨まれていたのだろうね。
次のギルドマスターは、正義感の強い人になる事を祈るよ。
俺達は、町に入って来た場所まで行って、俺が塀に飛び乗る。ファルタリアの怪力で、エルフと獣人を塀の上にほうり投げ、俺が受け止めた。
ファルタリアが塀に飛びついたら、今度は俺がエルフと獣人をそっと落とし、ファルタリアが受け止めて、森へ逃げた。
隠れるのに最適な場所まで来て座り込む。
「ここまで来れば安心だ。大丈夫か?」
「ウエーン」
「うぇーん」
二人とも号泣し始めた、暫く泣き続けて落ち着いたのか、それとも疲れたのか、そのまま寝てしまったよ。
怖かった事もあったのだろうな。
「ラサキさん、これからどうしますか?」
「そうなんだよな。シャルテンの町に帰るのも何だし、南のマハリクの町も良くないみたいだし。どうしたものか」
後ろからコーマが現れ、座っている俺の首に手を回して頬に口づけをしてきた。
「北に行けば村があるよ」
「なら決まりだ、コーマ、ありがとう」
また消えるコーマ。
俺とファルタリアは、寝ている二人を抱きかかえ、北に向かう街道を夜通し歩いた。翌朝まで歩いたら、さすがに疲れたので休憩する。
残っていた体力回復のポーションを飲んでみたら、昔のポーションより飲みやすかったな。体も軽くなって体力が戻ってくる事を感じたよ。
でも、飲めても二本が限界だな。ファルタリアも飲んで元気が出たようだ。
「初めて飲みました。全快では無いですけど、体力が回復するのがわかりますね」
「ああ、そうだな。これでも十分だよ」
そうこうしていると、二人が起きた。
「気が付いたか? 体は大丈夫か?」
「はい、何ともありません。助けていただいてありがとうございました」
「だいじょうぶですニャ、ありがとうですニャ」
「俺はラサキだ。よろしくな」
「私はファルタリア。よろしくね」
「私はエルフのフェーニ。この子はキャットピープルのミケリ」
「ミケリですニャ」
自己紹介も終わり、俺は袋から剣と装備を取り出した。
「多分、フェーニとミケリの装備だと思うけど、間違ったらゴメンよ」
森で会った時、彼女たちの装備を見ていたから間違いは無いと思う。剣と装備に飛びつく二人を見て間違いはなさそうだ。
「わぁ、私達の剣と装備です。取り返してくれたのですか? ありがとうございます」
「ありがとですニャ」
「ああ、ついでだったからね。どうぞ」
ファルタリアも嬉しそうだね。
「良かったね二人共。もう安心よ」
装備一式を付け終わり、初めて会った時と同じ格好になった。とても嬉しそうな二人に話しかける。
「俺達は、ここでさよならだ。後は、フェーニとミケリの二人で頑張れよ」
俺の言葉に、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になる二人。
「え? ラサキさん。え? どういう事ですか?」
ファルタリアまで驚いているし。当たり前だろ、助けただけだ。二人を同行しようとは全く思っていない。
安全な場所まで来たら終わりだよ。
むしろ依頼料を頂きたいくらいだよ。俺は、慈善事業をしている訳では無いんだからさ。
今回は理不尽で許せなかっただけだから特別だ。
「私達も、一緒に連れて行ってもらえないのですか?」
「俺達は旅行者だ。パーティも組まないし人数は増やしたくないよ」
「何かお役にたちたいのですけど」
「遠慮しておくよ。ここまでだ」
ファルタリアも、俺に食って掛かる。
「ラサキさん酷いです。フェーニとミケリも一緒に連れて行きましょうよ」
「だったらファルタリアが彼女達と同行しろ。ファルタリアとも、ここでさよならだ」
「ええぇ? そんなぁ。それは嫌です。う、う、ううぅ」
ああ、とうとう泣きだしたよ。涙には弱いけど、でもダメだ。
「泣いてもダメだよファルタリア。同行はしない」
フェーニも食い下がる。
「私とミケリは身寄りもありません。ラサキさん達と一緒に行きたいです」
「それは甘えだよ、フェーニ。初めて会った時を覚えているか?」
「森で助けて貰った時ですか?」
「そうだよ。フェーニは俺に冒険者だと言ったね。問題もあったのだろうけど、声を掛けるなと言ったね。その意味は、二人で生きて来て、これからも生きて行けると言っている事と同じだろ」
「確かにあの時は言いました……でも」
参ったね、諦めてくれよ二人共。仕方がないな。
「よし、これから北にある村までは一緒に行こう。フェーニ達も行くのであれば、だけどね」
「はい、行きます!」
「いきますニャ」
とりあえず、北の村まで同行する事になった。




